プリーズ・ヘルプ・ミー
この物語のブックマーク件数が0→1になったとき、
「あぁ、本当に神様っているんだな。」
と、思いました。
「つまり、シロさんは元神様で、勇太さんはアガルタではない世界の住民。ここに降り立つ最中に落としてしまった紙は、最高ランクのユニークスキルが込められた全冒険者垂涎の超一級品だった、と?」
「その通りじゃ!!」
勇太とシロの話を纏めて要約した内容を、マリアは改めて脳内で吟味しているようだ。たっぷり時間をとって、2人にとても優しく語りかけた。
「宜しければ、腕の良い医者を紹介致しましょう。」
「だよね~。」
「なんでそうなるんじゃい!!」
マリアの出した答えの受け取り方は勇太とシロで正反対だ。シロは怒り狂っているが、世間一般で考えるならマリアや勇太の感性が普通だろう。
「冗談ですよ。信じることが難しいというか、私如きでは想像もできないようなぶっ飛んだ・・・いや失礼、高尚極まる内容でしたが。命の恩人であるお2人が仰る言葉ですから、どんな荒唐無稽な話でも鵜呑みにいたしますよ。少なくとも嘘をついていないと信じております。」
「はぁ~。マリアさんって大人だねぇ。」
「いやいや勇太よ。今のセリフ、結構毒が入っておったぞ。」
空気が読めないくせに雰囲気に流されやすい、勇太はそんなダメ男子だった。
「とにかく良かったではありませんか。シロさんが見つけたんでしょう?スキルの込められし書を。」
「いや、そりゃそうだけどさ。それ使えるの?もはや“書”っていうより紙切れじゃん。」
勇太の言い分も最もだ。A4程度のサイズだったスキルの書が、今やボロボロに破けて元の1/4も残っていない。これでも機能するのかと聞かれれば、疑問が残る。
スキルの書を生み出した張本人であるシロにも、このスキルの書が使えるかどうか分からなかった。
しかしそれは、勇太とは違う意味で、だ。
「・・・これが使えるかどうか、それを知るには試してみた方が早い。勇太よ、これを千切ってみぃ。」
そういって、持っていたスキルの書の破片を渡してきた。シロの神妙な面持ちは気にかかるが、まぁいい。それよりも目の前の紙切れだと、勇太は破片を受け取った。
「それじゃ、やってみるよ。えいっ。」
そんな風に、対した躊躇いも見せずにスキルの書の破片を半分に千切ってみせた。
「・・・なんも変わらないね。」
「・・・」
「ステータスを確認してみてはいかがですか?」
押し黙るシロに代わり、マリアが提案してきた。
「先ほどの話が本当で、しかもその状態でも使い物になるのだとしたら、勇太さんのステータスに変化があるはずです。」
「なるほど、マリアさん賢い。」
「いえいえ。」
すかさず勇太は「ステータスオープン」と唱えた。他の2人の注目が勇太のステータスに集まる。
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ユウタ・モチヅキ(15)
レベル:1
性 別:男性
職 業:無職
HP 10/10
MP 0/0
ちから・・・・5
まもり・・・・5
すばやさ・・・5
きようさ・・・5
かしこさ・・・5
まりょく・・・5
うん・・・・・5
スキル
(なし)
称号
異世界からの来訪者
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「あぁ、やっぱり。」
「スキルなし、となっておりますね。」
「ま、しょうがないよ。欲しい気持ちは否めないけどさ、やっぱり僕は簡単にチートに頼らないって決めたんだ。ね?シロ?・・・シロ?どうしたの?」
ここでやっと勇太はシロの異変に目を向けた。今やシロは顔を真っ青にして、ガタガタ震えてる。
「な・・・なんてことじゃ・・・。な、何故・・・我は・・・こ、こんな大事なことに気付かなんだ・・・。」
「シロ?そんなにショックだった?でもこんなボロボロになっちゃったんだから仕方ないって。それともやっぱりチートなスキルが欲しかったの?いやいや、自分で”チートに頼るな!!”って言ってたんじゃん。チートに甘えちゃダメだって。」
「・・・」
何かに絶望するシロに対して、また空気の読めない日本代表を務める勇太はシロが如何にも激怒しそうな声かけをする。しかし意外にも、シロは黙ったままだ。てっきりまた肉体言語でも飛んでくる勇太は肩透かしをくらい、シロの様子を伺った。
シロはようやく勇太の方を向き、ポツリポツリと語りだした。
「・・・スキルの書は、例えそのような有様になっても使うことが出来る。」
「へ?いや使えなかったって。僕のステータス見たでしょ?何も変化してなかったじゃん。」
勇太の反論など聞こえなかったかのように、シロが続けた。
「例えば。お主は天空から落下する間にスキルの書を手放してしまったろう。スキルの書が破られた原因が例えば、激しい落下による風圧のせいだった場合、細切れになったとしてもスキルの書は使える。破れた瞬間に勇太が書を触っていたなら、話は別じゃがの。」
「へぇ~。そういう風に出来てるんだ。要は偶然破れた場合はセーフってこと?」
「そうなる。偶然破られたなら、どれだけ小さいカケラになろうとスキルは問題なく継承される。もちろん最初に使用されたカケラ以外はただのゴミとなるが。」
「破片の大きさではなく、使用順によってスキルの継承者が決まるわけですね。え?でもそれだと・・・あっ!まさか!!!」
はっ、とマリアが息をのんだ。何かに気付いたようだ。その様子を見て、勇太は自分だけ分からないのか焦れた。
「へ?何?何が問題なの?ねぇねぇ教えてよ!!」
「まだ分からんか勇太?ホンにお主は察しが悪いのう。」
そう言って、シロはため息をついた。いつもなら怒るか馬鹿にするかというところだが、そのため息からは、どちらかと言うと疲れのようなものを感じた。
「風圧によって破れる以外にも、湖や川に落ちたり、とがった岩の表面にこすれたり。破ける理由は色々考えられる。それなのに勇太はスキルを継承できなかった。ならば考えられる理由は後ひとつ。」
「・・・あ。分かった。」
そこまで言われてやっと、勇太もその理由に思い当たった。そうか、そうだったのか —・・・・
「そう。誰かがスキルを継承したのじゃ。」
シロは言いながらうなだれた。
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「なんだぁ。誰かがもう使っちゃったのかぁ。もっと早く見つけられればなぁ。」
のほほんとつぶやく勇太を、シロとマリアは呆れたように見ていた。
「はぁ・・・。勇太。お前は事の重大さを何も分かっていないのじゃ。」
「え?」
「例えば、スキルを継承した者が極悪人だったらどうする。自分の欲望を満たすためなら躊躇なく他人を犠牲にするようなものがもし、手にするだけで世界有数の実力者となり得るスキルを手に入れてしまったら・・・。」
「あっ!!」
ここまで言ってやっと、勇太にもシロが危惧することが何なのかが分かった。確かにそうだ。例えるならば、上空から銃やミサイルをばら撒いたようなものだ。そのスキルを、誰が何のために使うのか。それによって起こる被害は、未曽有のものとなるかもしれない。
「それだけではない。スキルとは言うなれば魂のひとかけらのようなもの。やろうと思えば、人間以外でもスキルの継承は可能なのじゃ!」
「に、人間以外?」
「そうじゃ。我らが出会ったゴブリンがおるだろう。もしあのゴブリンが我らと出会う前にスキルの書を偶然にも見つけ、あまつさえゴブリンがスキルの書に触れている間に破れるようなことがあったなら・・・。今頃我らは生きていなかったろう。」
「魔物にも使えるの!?や、やばすぎるじゃん!」
「本当にまずいのは魔物ではない・・・。」
シロのセリフを引き継いだのは、シロと同じように顔が青くなってしまったマリアだった。
「魔族・・・ですね?」
「ご明察、じゃ。」
「ま、魔族?何それ?」
初めて聞いた単語だ。勇太の生活圏内にはなかった言葉。魔物と関係があるということくらいしか、勇太には分からなかった。
「魔族とは、魔物の上位種の総称です。人間と同じように、魔物にもレベルがあります。魔物のレベルが上がっていくと、次第に知性が増して人語を理解するようになります。そのあたりから段々と人と同じような姿形になっていくので、一見して魔族と分からないような者もおります。」
「うおぉ。魔物より相当強いってことかな。」
「もちろんです。生まれながらに魔族の者もおりますが、総じて魔物が進化し続けた果てに魔族がいるのです。魔族の中には単体で国を滅ぼした強者もいると聞いたことがあります。」
「こえぇ~。魔族こえぇ~。そんなんがチートなスキルを取っちゃったら最悪じゃん。」
聞いていて勇太も身震いがしてきた。シロはまた次第に体が震え出したようで、歯もカチカチと鳴り出した。
「人と魔族は長らく小競り合いを続けておる。個人の戦力でいうなら、圧倒的に魔族の方が高い。しかし、進化の果てにいるだけあって魔族は個体数がとても少ないのじゃ。人間は数の利を最大限活用することで、何とか魔族と拮抗を保っておった。そんな中でスキルが魔族の手に渡ったら・・・。世は乱れ、戦が始まり、たくさんの命が天へと帰る。そして最悪の場合・・・。」
「さ、最悪の場合は・・・?」
ごくり、と喉をならして勇太はシロの答えを待った。考える最悪の事態、それを絞り出すようにシロは言う。
「我がフレイヤに怒られる。」
「最悪なのはお前だぁ!!」
最後の最後でひどく自分本位。シロのせいで急にこの話題が大層くだらないものになり下がったと、勇太は感じた。
先ほど確認したところ、ブックマーク件数が1→0になってました。
「神は死んだ」
と、思いました。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もよろしくね☆




