サン・イン・ザ・ダストボックス
そこはまるでブラック企業もかくやといった慌ただしさに包まれていた。
誰も彼もが一秒一瞬を惜しんで仕事をしている。電話対応をしている女性は半泣きになりながら相手もいないのに頭を下げていた。パソコンと向き合っている男性の目は血走り、一心不乱にキーボードを叩いている。
そんな中でも取り分け忙しく働いているのは、部屋の一番上座のデスクにいる、彼女であろう。
輝くような金髪、凛とした顔立ち、スーツの上からでも容易に分かる素晴らしいプロポーション。一見して分かるほどの絶世の美女であるが、今の彼女を見てお近付きになりたいと思う男性はおそらくいない。
元々きりっとした瞳が今は限界まで吊り上がっている。そう、彼女は今、何かに怒っているのだ。怒り心頭、怒髪天に衝く、怒気が目に見えるかのようだ。
目の前の山積みとなった書類を目にも止まらぬスピードで捌きながら、部下に怒号のような指示を出している。
「原因はまだ分からないの!」
「自然環境部門に確認中です!」
近くのデスクにいた女性が答えた。
「遅い!あと1分以内に解明されなかったらトップを解任すると伝えなさい!!」
「は、はい!」
半泣きが全泣きなってしまった女性を尻目に、リーダーらしき美女は次々に進捗状況を確認する。
「世界線は!?」
「現在28まで分裂しております!!」
「時空課に応援要請!取り返しがつかなくなる前に基準点に収束!!」
「承知しました!」
「物理法則の崩壊進行度は!?」
「32%を超えました!」
「何としても食い止めなさい!35%を超えたら地球が消滅するわよ!!」
「は、はいぃ!」
状況はかなり不味いようだ。彼女は唇を噛むように状況の推移を捉え、対策について考えを巡らせている。後一押し、何か一押し悪い知らせが入れば、地球はともかく彼女は爆発するだろう。
そんな中、泣きながら電話していた彼女から吉報ともトドメともなりうる一声が発せられた。
「原因わかりましたぁ!!神様からの指示があったそうです!!」
あれほど騒がしかった部屋が一瞬にして静まった。誰もが作業を止め、リーダーシップをとっていた彼女に恐る恐る目を向ける。
彼女は無表情だ。己の感情全てが死滅したかのようだ。目には光が宿っていない。それがまた周囲に恐怖を与えていた。時間が凍ったと錯覚させる程の雰囲気の中、彼女が言葉を発した。
「報告ありがとう。みんな、後3分だけ持ちこたえて。今から元凶を仕留めてくるから。」
どうやら感情が死滅したのではなく、表現の限界を超えていたらしい。ここ、『天界地球監督庁運命課』では、月1くらいで見られる光景であった。
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「以上、つまり人類が7回程滅んでもおかしくないくらいの損害が生じるところだったわけですが、何か申し開きはございますか。」
「申し開く前に磔にされとるじゃないか!」
先ほどとは打って変わり、ここは真っ白な空間だった。上下左右、どこを見ても白しかない。果てがあるかも分からない不思議な空間の中心で、金髪の美女と共にいるのは十字架に磔にされた幼い少女だった。
「誰も無実を証明せよとは言っておりませんよ。言い遺すことがあるならどうぞと言っているのです。」
「誰ぞおらんかぁ!こやつ神を殺す気じゃぞ!!出合え出合えぇぇ!」
神を名乗る少女は神々しさの欠片もなく叫び倒すが、味方は誰も現れないようだった。
「はぁ・・・では、神様は無実だとのたまうわけですね。往生際の悪いことに。」
「フレイヤよ。お主もう少し神である我を敬ってもよいのではないか。」
フレイヤと呼ばれた女性は、大きい溜め息を1つだけついて、神に向け発言した。
「今回の地球崩壊未遂の発端は、誰かが自然環境部門の長に『太陽を寄越せ』と馬鹿なワガママを言ったことです。」
「わ、我は知らんしぃ~。そそそ、そんなことした記憶はないしぃ~。」
先が見えてないのか、負け戦でも諦めないタイプなのか、だらだらと冷や汗をかきながら吹けば飛ぶような反論をする。当然天界一有能であるフレイヤが追求を緩めることはない。
「そこで急遽太陽を探索したところ、30秒で神様の部屋のゴミ箱から発見されました。」
「さ、30秒ってそれ最早我のこと狙い撃ちではないか!」
「見つかったんだからいいでしょう?」
「ぐっ・・・!!・・・そ、そうじゃ!!真犯人が我に罪を被せようと、わざと我の部屋のゴミ箱に捨てたんじゃ!!フレイヤ、これは一大事じゃ!!誰かが我から神の座を奪おうとしておるぞ!!!もしかしたら邪神の手先かもしれん。こんな事をしている場合ではないぞ!!即刻軍を編成し戦に備えねば!!おい、聞いているのか行き遅れ!!!!」
神である幼女が何か喋る度、フレイヤの目が吊り上がっていることに気付いた時には既に遅し。勢い余って禁句を言ってしまった。フレイヤがポツリと喋り始めた。
「・・・何故、欲しかったんでしょうか。」
「・・・え?な、何がじゃ?」
「下手人は何故、太陽を欲したのでしょうか。我々天使には確かに無理でしょうが、下手人は腐っても神。新しく太陽を創ることなぞ造作もないことのはずです。」
「ふ、フレイヤ?犯人が我前提で話が進んどるぞ?」
「ご心配なく。今から暴くのは犯人でなく動機です。」
「ど、動機?」
「ええ。そもそも原因が解明された時点で可笑しいと思っていました。太陽が失われるというのは確かに地球上の生命が死滅しうるトラブルです。しかし、今回の被害は明らかにそれを凌駕していた。世界線の分離、タイムパラドックスの発生、物理法則の崩壊。流石に太陽ひとつで此処までのことは起こりませんよ。それこそ・・・新しい世界が誕生でもしないと、ね。」
最後の一言を聞き、神様の肩がビクッと跳ねた。最早冷や汗は滝のようになっている。
「話が逸れてしまいましたね。そう、犯人が何故太陽を欲しているか、でしたか。私なりにこう愚考致しました。もしかして、私の知らない世界がどこかで既に誕生していて、そこには誰かさんが作った太陽が存在している。しかし思うように機能してないから、ちょっと地球の太陽と入れ替えてみよっかなー。・・・なんて軽い気持ちだったんではないか、と。犯人の気持ちは。」
「・・・お、お主の妄想もそこまでくると立派なものよの。」
透き通るように白く美しい神の御尊顔も、今や真っ青に彩られている。まずい。非常にまずい流れだ。フレイヤは核心に触れつつある・・・。
「まぁこの際犯人の心の声はどうでもいいのですよ。私の目の前にあった事実は2つ。地球の太陽が何者かによって持ち去られたことと、新たな世界が誕生したレベルの大きい影響を観測したこと。本来、世界が誕生したとしても、それが地球と何らかの繋がりを持たずに独立していたら地球に悪影響は生まれなかったんですよ。」
だめだ。神はそう悟った。これは真実を求めて思考しているのではない。目の前の美女の皮を被った鬼は、既に答えを得ている。つまりこれは、ただの公開処刑だったのだ。しかし、それに気付くには遅すぎた。往生際が悪過ぎたせいで、神は後に退けなくなってしまったのだ。
そうやって悶絶する神に、トドメを刺すべくフレイヤは告げる。
「つまり、導き出される答えはひとつ!奪われた太陽が、新しく誕生した世界に使われたことにより!両者に繋がりが生まれてしまったのです!!!」
「ぐ、ぐはぁぁぁぁ!!」
名探偵然としたフレイヤに真実を見抜かれ、犯人こと神はまるで銃か矢で心臓を射抜かれたように倒れ伏した。
「複数の世界における相互干渉・・・。考えるだに恐ろしい話です。もしそんなことが起きているのなら、なんとしても阻止しなければならない。私は物的証拠を求めて、太陽発見後も神様の部屋のガサ入れを続けたわけですが・・・」
「か、神の部屋をガサ入れて!!もう怒った!!お主なんて不敬罪で打ち首じゃ!!市中引き回しの上、獄門に処す!」
落ちは見えた。残る勝ち筋はわーわーと喚いて有耶無耶にするしかない。そう悟ったのだろう。それ本当に意味分かってんのかと思うような単語を兎に角叫び続けた神だが、フレイヤのチェックメイトがそんなに甘いはずがない。次の一手はまさしくトドメとして十全に機能した。
「神様のベッドの下より、こんなものを見つけました。」
「!!!!!」
そう言って彼女の後ろ手から出てきたのは、精巧に作られた地球儀のような、神秘的な球体であった。
「神様、無知な私に天啓をください。これは何ですか?」
「・・・。」
「か・み・さ・ま?」
「・・・ぃ」
「は?何ですか?もう一度大きな声でゆっくりとお願いします。」
「・・・ぃ、異、世・・・界。」
ガバガバプロットの公開
神とその周囲をなんやかんやうまいこと出す
↓
なんやかんや神が磔
↓
神が異世界を作ってたのがバレる←今ココ!
↓
「あんたまた無責任に!ダメ!元に戻してらっしゃい!!」
「ちゃんとお世話するからぁ!!」←次回




