少年鑑別所 3
図書室で本を借りたあと自室に戻り、9時頃から、
『貼り絵』
をやらされる。
自分で、雑誌等の風景写真から好きなものを選び、画用紙に鉛筆で模写してから、色紙を細い木の棒で千切って貼っていくという、極めて単純な作業である。
集中力が人並み外れて乏しい私は、その単純な貼り絵作業がなかなか進まず、入所期間中、結局、1枚も仕上げることが出来なかった。
午前中いっぱい、この貼り絵をやらされるが、その間に入浴や運動が行われる。
入浴は、冬期は週2回、夏期は週3回の割合で実施されるが、入浴時間は1人、15分と定められていた。
入浴は、5人単位で実施され、部屋の順番で入っていくが、初めは、要領が分からずかなり戸惑った。脱衣に30秒、洗髪に2分、洗体に5分などと、頭の中で秒数を刻みながら行わないと間に合わない。私が収容されていた春先は冬期の入浴回数だったので、週に2回、火曜日と金曜日が入浴日だった。
入浴日の前日は、頭はかゆいし身体はベタベタして気持ちが悪い。
( 最悪な所に来た… )
と、遅まきながら思った。
運動は入浴のない、平日の午前中に実施された。
運動時間は30分間で、屋外の小さな運動場で行われ、ラジオ体操をやり、手打ち野球をやる。
何故、手打ち野球かというと、バットを使うと、すぐに球が塀の外に飛んで出てしまう。
鑑別所は、塀に囲まれてはいるが高さは5メートル程。
球は、危険の無いよう柔らかいカラーボールが使用されるが、そのカラーボールでも、当たりがよければ場外ホームラン。
その球は毎回塀の外まで出て教官が探し回るのだ。毎打席ホームランなら、教官は塀の外と中を行ったりきたり。それではたまらないということで、手打ち野球に変わったという。
唯一、手錠なしで外に出られる運動時間。
私はこの時間が何より好きだった。時間は短いが、思いきり体を動かせ、思いきり笑うことが出来る。束の間の自由というものを満喫することが出来た。
11時30分 昼食
メニューは日によって異なるが、カレーライス(もちろん麦飯)が出たり、うどんやラーメンなどの麺類、時にはパン食の時もあった。
「飯がこれほど美味いのか!」
と、ひとくちひとくち、じっくりと噛みしめて食べていた。
午後からは自由時間。自由時間といっても、テレビがある訳でもない。部屋にあるのは、小さなテーブルと、壁に備え付けられている30センチ四方の日用品を入れる棚 ( 日用品といっても、石けん箱、ちり紙、歯ブラシに歯磨き粉、棚の下のタオル掛けにかけた汚いタオルだけ )。
それと、窓の付近に小さな洗面台(顔を洗うだけで下が水浸し)と、洋式トイレ。部屋の扉の上の壁に、スピーカーが埋め込まれているだけである。
そこで、いったい何ができるというのか。
窓から外の風景でも眺めることが出来ればいいが、窓から見えるのは、鉄格子と、外部から中が見えないように取り付けられた薄い板。
部屋の中には太陽の光さえ入ってこなかった。
ただ有難いことに、部屋のスピーカーから、
『FM群馬』
という、ラジオ放送を流してくれた。
そのラジオ放送にジッと耳を傾けながら、近く訪れる、審判のことを考えていた。