禁煙外来
スクーリングも回を重ね、レポートも順調に進んだ。
しかし、レポート1通仕上げるのに2時間以上もかかった。
同じ時期、私は、禁煙外来に通い禁煙を志すという崇高な目標を立てていた。
パソコンで近所の禁煙外来をやっている病院を検索し、予約を取って病院へ向かった。
病院に着くと、車の中でタバコに火を灯す。
( これが、人生最後の1本さ… )
最後の晩餐を満喫したあと、ドキドキしながら病院内に入る。
すぐに受付で問診票に喫煙歴等のを記入し診察を待った。
しばらく待つと看護師が、
「今田さーん。今田信義さん、中にお入り下さい」
と、声を掛けてきた。
恐る恐る診察室に入ると、頑固そうな先生が椅子に腰掛けて問診票を眺めている。
「先生、宜しくお願いします」
先生は早速、
「えー、君は、なぜ禁煙したいのかね?」
「はい、体のことを考えて…」
先生の目がキラリと光る。
「禁煙は、医者と患者のマンツーマンで乗り越えていく」
「はい…」
「いわば、富士山、いや、エベレストに登るようなものだ。非常に険しい…」
「はい」
「全て、私に任せなさい。私の患者は、全員禁煙に成功している」
私は勢いよく返事をした。
「はいっ!宜しくお願いします!」
その後検査等があり、診察終了後、
『 チャンピックス 』
という飲み薬を処方された。
薬剤師が、
「今田さん、1週間は、こちらの黄色い方のパッケージを服用してください。しかし、タバコはやめないでください」
私は驚いた。
「えっ、そのまま、タバコを吸い続けていいんですか?」
「その通り。はじめの1週間は、0.5ミリグラムのチャンピックスを飲む事になります。つまり、薬を飲みながら、タバコを吸い続けるのです」
薬剤師が続ける。
「そうすると、あーら、不思議!タバコが徐々に不味くなってきます」
私は、食い入るように薬剤師を見つめ、次の言葉を待った。
「だいたい、3日から4日くらいで薬が効いてきます。タバコの煙が嫌になってきます」
「はい」
「しかし、今田さん!不味くなったからと言って無理は禁物です。無理にその時点でやめようとしないでください。吸い続けていただいでも結構です」
薬剤師は、仕上げにかかった。
「そのかわり、8日目からは1本も吸ってはいけません。薬も、8日目から、1ミリグラムに増えます。いいですねっ」
私は、あたかも禁煙に成功したかのように病院をあとにした。
その禁煙は、1ヶ月で挫折した…
レポートを作成中に、
( 1本くらいなら… )
と思い、1本吸ったら、元のスモーカーに逆戻りしてしまった。
後日、先生にドロップアウトした事を詫びに行くと、
「私の患者で、禁煙に失敗したのは君が初めてだ…」
と、ガッカリされた。




