女子生徒に頭の上がらぬ前科者
女子生徒の顔だけはなかなか覚えられなかった。
みんながみんな、西野カナに見えた。
女子生徒は、みんな同じ顔のように見えたし、名前と顔も一致しなかった。
よく話をしていた、女子生徒のクラスメートの顔さえ定かではない。きっと、富士見町あたりですれ違っても、絶対に分からないだろう。
スクーリングでは、10代の女子生徒から、よくからかわれていた。
「今田さん、普段何して遊んでるんですか?」
「えっ、スロットだけど…」
「じゃあ、今度遊びに行こうよ。番号交換しよっ」
私は、その度にたじろいた。
番号を教えるのは構わなかったが、もし、女子生徒が私と携帯で会話しているところを親御さんに見られたら、
「誰と話しているんだね?」
「えっ、高校の友だちっ!」
「ほう、大宮高校の生徒かな?」
「うん!」
「なるほど、若いもの同士仲良くしなさい」
「えっ、パパ、今田さんは、若くないよ。パパと同い年っ!」
「なにっ!そいつは、変態かっ!うちの娘はまだ、10代だぞ!」
となって、学校にクレームでも入れられたら、私が教師から叱責を受けるのは目に見えている ( 考えすぎだが )。
私は、めちゃめちゃな人生を歩んできたが故に、石橋を叩いて渡るほど、慎重な人間になってしまった。
( こうすれば、こうなってしまう )
と、いつも詰将棋のように考えて生活しているので、学校内における10代の女子生徒との番号交換や会話は、特に慎重に対応していた。
相手の親御さんから、変態扱いされては私の学校での立場がなくなり、卒業どころではなくなる。それに、教師からも若干ではあるが信用されていたので、信用も失いたくなかった。
ある時、音楽の話になった。
「今田さんっ、三代目って、カッコいいですよね!」
と、言われた。
私は、正直、分からなかったので、
「三代目?」
と、聞き返した。
三代目とか言われると、ヤクザの七代目とか、八代目などしか頭に浮かばない私は、また、たじろいた。
「今田さん、何聴いてるの、普段?」
「えっ、うーん、ニシノカナかな?」
とっさに浮かんだ名前を口にすると、
「あっ、西野カナの曲いいですよねっ!なんだっけ、あれ、なんて曲だっけ、いいのあったじゃん!」
「うーん…なんだっけ…」
前科二犯も、女子生徒だけには頭が上がらなかった。




