初めての逮捕
生活は荒れていた。街に繰り出しては余所の中学の不良連中ど揉めていた。
( ケンカが強くなりたい )
( ケンカに勝つにはどうしたらいいか )
そんなことばかり考えていた。
自分の力だけが頼りだった。
次第に、単車に興味が出てきた。授業中、卒業した先輩達が、爆音を立てながら校庭を走り回ることがたびたびあった。
私達は、そんな先輩達の姿を、憧れの眼差しで見つめていた。
単車に特攻服。これ以上に格好のいいものが他にあるだろうか…と、真剣に考えていた。
学校で習う、ABCDはよく解らなかったが、
『CBX』
とか、
『GPZ』
などの単車の名前はすぐに覚えた。
とにかく、語彙に乏しい私達から出る言葉は、
「なんだこの野郎!」
「ガンくれてんのか、ああっ!」
馬鹿のひとつ覚えである。口よりも先に手が出た。
リーゼントに剃り込みのヘアスタイル。そこら辺にツバを吐きまくる、モラルの欠片もない行動。誰それ構わずケンカを売るような鋭い眼差し。ド派手な服装。
平成のこの世の中、こんな姿はまず見かけない。もちろん、携帯電話や、インターネットなどない時代。中学生の頃は、家庭にビデオディスクがあるだけで、『すげえな』と、思ったくらいだ。
ビデオディスクに大きなテープを、
《 ガチャッ! 》
と、中に押し込む。
ブルーレイなど、そんなハイテクはない時代である。
私は、当時ヤクザか刑事しか持っていなかった、ポケベルでさえ、
「なんで、電話があの小さな箱に繋がるんだ…」
と、不思議に思っていた程だ。
私が今、あの時代にタイムスリップしたら、はたして、生き延びることが出来るであろうか…
そんな中学生活を送っていた私は、3年生になったばかりの春、恐喝罪と傷害罪で逮捕された。
補導ではなく逮捕である。当然、手錠もかけられる。
もう、市内の警察署に、小学生の頃さんざんお世話になった刑事は居なかったが、手錠をかけられた瞬間、カツ丼を頬張りながら聞いていた、あの時の刑事の説教が頭の中を駆け巡った。
「こういう事か…」
と。