シャバという名の自由の楽園
平成9年1月、単位修得試験の目前に仮釈放になった。
レポートも全て提出済みであり、1ヶ月後の試験に合格すれば卒業の見込みであった。しかし、交渉の結果、高校の為だけに仮釈放を延ばす訳にはいかないとのこと。やむを得ず卒業を断念する他なかった。
しかし、入所中に『 51単位 』を修得。
その他に
『 日商簿記検定3級 』 ( 平成6年11月に合格 )
『 日商簿記検定2級 』 (平成7年11月に合格)
といった資格も取得することが出来た。
私は、高等学校の卒業証書を受け取ることが出来なかったが、その代わりに、
『 努力の結果 』
というものを肌で直に感じ取ることが出来た。
また、犯罪は犯したものの、そのお陰で、勉学と出会うことが出来、様々なことをことを学ぶことが出来た。
私は、少年刑務所、そして、勉学と向き合うことをアドバイスしてくれた埼玉県の少年刑務所分類センターの調査官に深く感謝して、岩手県の少年刑務所をあとにした。
私は、身元引受人である両親と共に千葉県千葉市に帰宅した。
刑務所内では、一切タバコは吸えない。もう、かれこれ5年以上、タバコを吸っていなかった。
所内にいた頃、食事のあとや、勉強の合間に、
( ああ、一服してえ! )
( 早く出てタバコを吸いたい! )
と、いつも思っていた。
しかし、そう思うだけで、正直タバコの味などすっかり忘れていた。それに、タバコがなくても全く苦痛ではなかった。
帰宅途中、父親の吸っていた、マイルドセブンライトを1本貰った。
それを口にくわえると、何だか違和感を感じた。
タバコに火をつける。
《 シュボッ! 》
恐る恐る煙を吸い込んだ…
「ゴホッゴホッ!!」
いきなりむせて咳が止まらない。
私は、タバコを捨てた。
中にいる頃は、
( シャバに出たら、チョコパイや、ぜんざいを腹いっぱい食おう )
と、いつも思っていたが、出所した途端、そんな、
『 刑務所の中の夢 』
などすっかり忘れてしまうし、甘い物など食べたいとも思わなくなる。
刑務所内の受刑者は、日々決まった物しか口に出来ない。
テレビのグルメ番組を観ていると、
( ああ、美味いものを腹いっぱい食いてえなぁ… )
と、みんな口を揃えて言う。
( 出たら、あれを食ってこれを食って… )
と、雑記帳に記入する者も多い。
しかし、実際にシャバに出たら、ぜんざいなど食う者は余りいない。
刑務所から、シャバという自由の楽園に戻った者の大半が、興奮状態になり、地に足が着かない。夜も眠れす、酒やタバコでメシも喉を通らない。体が楽園に慣れるまでに最低1週間以上はかかる。




