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革手錠

ある日、同衆と殴り合いのケンカになった。

原因は私のたたむ洗濯物にあった。


その日もいつものように、午後3時過ぎに洗濯物が戻ってきた。

作業終了時間は午後4時30分。


網の袋の中から洗濯物を取り出して、急いでたたまないと間に合わない。急いでいるからといって、決して手抜きはせず、常にキレイにたたむ事を心掛けていた。



作業終了後、受刑者のひとりが私に詰め寄ってきた。


「今田、お前なめてんのか!」


と、いきなり怒鳴ってきた。


私は驚いて、


「何がですか、別にナメてないですよ」


と答えた。


相手の受刑者は、


「あのパンツのたたみ方はなんだ。もっとキレイにたためねえのか」


「ちゃんと、たたんでるでしょうが」


「たたんでねえから、言ってんだよ!」


周りに人が集まる。

親父は広い工場内の隅で他の受刑者と話をしていて全く気付いていない。


そこに同じ千葉市の兄ぃ達が止めに入ってきた。


(こま)いこと言うなや、もうやめとけ」


「連行されっぞ」


頭に血が上った相手の受刑者は、


「おめーらは、関係ねえだろ。引っ込んでろ!」


と、兄ぃ達にも暴言を吐き始めた。


( この野郎っ )


私はカッとなり、相手の受刑者のに殴りかかっていった。


顔面を殴打する。


工場内は騒然となった。

騒ぎに気付いた親父が無線の警報器を押したのか、すぐに大勢の警備隊や刑務官がやってきて、私は、刑務官たちから馬乗りになられて取り押さえられた。


右腕と左腕をがっちりと掴まれ、


『 保護房 』


まで引きずられる。


保護房にぶち込まれるとズボンを脱がされ、代わりに、尻の部分が縦に開いたズボンを履かされた。パンツはなかった。


着替えが終わると、右腕を腹の前に、左腕を後ろに回され背中の下にあてられて、そのままの姿勢で革手錠をかけられた。


腕はピクリとも動かない。


幹部刑務官が、


「馬鹿なことしやがって、少し頭を冷やせ」


と言って、警備隊に扉を閉めるよう指示した。


《 ぎぃぃぃ 》


という音と共に、重い木製の扉が閉められる。


鍵を閉める音だけが静かな保護房に響いた。


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