一次方程式
スクーリングは、毎週木曜日に実施された。
午前9時から始まり、昼食を挟んで午後の4時まで授業が行われる。
高等学校の教員免許を持った教育課の刑務官による授業。刑務官の授業にじっと耳を傾け、教科書の一字一句を目に焼き付けた。解らないことや、疑問に思うことがあったら、躊躇することなく質問した。
他の生徒に、
( アイツ、こんな事も解らないのか )
と、思われても構わなかった。
また、質問した内容は、必ずノートに書き留め舎房に帰って復習した。
特に数学に頭を悩ませた。
( なぜ、こうなるのだ… )
数学の一次方程式の問題に向かい会う度に頭をかきむしった。
教科書を破り捨て放り投げたい衝動に駆られた。
一次方程式のせいで夜も眠れなくなっていった。
消灯後の薄明かりの中で頭まで布団を掛け、見つからないようにノートに問題を書いては解いていった。
次第に視力が衰え髪の毛が抜けていった。
しかし、毎日が新鮮だった。生まれて初めて目標ができ、その目標に向かって努力出来る事に幸せを感じた。また、閉鎖された空間は何の娯楽も無かったが、その環境を逆手に取り、勉強に利用する事が出来た。
( この環境だから、誰にも邪魔されず勉強に没頭できる。時間はたっぷりある。こんな機会はもう一生巡ってこない )
勉強の合間を見て読書にも励んだ。
歴史小説を読む事が、歴史の勉強にも繋がると思ったからだ。
しかし、勉強の為に読んでいた歴史小説だったが、いつの間にか歴史小説の虜になった。
ひとつ読み終えると、その歴史小説に書かれている時代の次の時代が気になり、また読み始める。
( 歴史は繋がっている )
ということを覚えた。




