不良予備軍
昭和59年3月、私は、無事小学校を卒業することが出来た。しかし、待っているのは校内暴力当たり前の、市内きっての不良中学校へのエスカレーター。
このエスカレーター先には、
『不良コース』
『まじめコース』
の、ふたつのコースがある。
中学に上がった生徒の少数は、
『まじめコース』
を選択するが、残りの『不良予備軍』は、躊躇することなく、
『不良コース』
の
『入場券』
を手に入れた。倍率は非常に高い。
『ヤンキー』なんて生易しい言葉など当時は無かった。あっても知らなかった。
不良コースの入場券を手に入れた私達不良予備軍は、まず先輩から、
『学ラン ( 学生服 ) 』
を、安い値段で譲って貰う。早い話、要らなくなった学生服を無理やり買わされる訳である。
しかし、いくら先輩のお古とはいえ、憧れの、夢にまで見た学生服。今では死語となった、
『長ラン』
や
『ドカン』
を、先輩のお古ということで堂々と着ることが出来るのである。
真新しい学ランなど買って着ていた日には、
「誰の許可を貰って、そんなの着てんだ!」
と、恫喝され、殴られ、蹴られた挙句、取り上げられてしまう。
我々は、無事、不良への道のりを歩み始めた。
ある日、悪友の1人が、
「これ、読んでみ」
ど、1冊の漫画本を貸してくれた。題名を見ると、当時有名だった某不良漫画であった。
例え漫画であっても理解力が相当乏しい私は、
「それ、難しくねえべな?」
と、尋ねた。
「おめぇ、馬鹿じゃねえか。これ、読んでねえヤツなんて、居ねえべよ」
「漢字あんのか?」
「当たりめえだべ」
「じゃあ、いいよ。そんな難しい漫画、俺が理解できる訳ねえべ」
「ひらがな読めんべよ」
「それくらい、誰だって読めるべ」
「じゃあ、掛け算できるか?」
「解んねえよ。お前、解るの?」
「少しな」
「すごいな、お前。高校行けるよ」
「まあな」
「そんな事より、最近、明美可愛くねえか?」
「博美の方が可愛いべさ。信義、おめぇ、あんなブスのどこがいいの?」
「こないださ、また、数学の先公のクルマに、ウンコ塗りたくってやったんだよ。したらさ、アイツ、誰だっ!って、発狂してたぜ」
「アッハッハハハハッ」
「そんな事よりよ、最近、モリタ先輩ムカつかねえか。この前なんかよ、放課後呼び出しやがって、ナンスカ?って、言ったらさ、チェリオ買ってこいだってよチェリオ。あの野郎、いちいちそんなんで呼び出すんじゃねえよ。自分で買ってこいっつんだよバカ野郎。卒業して街で会ったら絶対シメてやんべ」
「シメて、畑に埋めて、顔面にウンコ塗りたくるべ」
「ワッハッハハハハッ」
訳の分からない会話が続いて行く。もうふたりの頭の中には漫画の事など消えていた。
とにもかくにも、この1冊の不良漫画が中学1年の私にとって不良人生の最初のバイブルになった事は間違いなかった。




