しつこい男
少年刑務所でも、私は算数の参考書を開き、日々数字と格闘した。
少しでも解らなくなると、すぐに同じ部屋の収容者に質問した。
かけ算やわり算は、ある程度、理解出来るようになってきたが、分数になると頭の中がパニックになった。
「分数のわり算はな、こうして、分母と分子をひっくり返して…」
丁寧に教えてくれたが、なかなか理解出来ない。
その意味が解ったのは、しばらく経ってからだった。
不思議なもので、ひとつ理解出来ると、なんとも言えない喜びで胸がいっぱいになった。ひとつの理解が次に繋がるような気持ちになった。
新聞も相変わらず活字を舐めるように熟読した。
与党と野党の意味がわかると、政治について調べるようになった。
『 国会議員は、どうやって選ばれるのか 』
『 総理大臣は、どのように選出されるのか 』
疑問に思ったことは、いろいろな人に聞いてノートに書いた。ノートに書いて解らない言葉は辞書を引いて調べた。それでも解らなかったら、また質問した。
『 しつこい男 』
と、みんなから笑われた。
本も読むようになった。歴史についても全くの無知だったので、歴史小説を読んで歴史に関する知識を少しでも深めたかった。しかし、何を読んだらいいのか分らない。歴史上の人物で、豊臣秀吉の名前だけは聞いたことがあったが、何をした人なのか全く知らない。
( だったら、名前を知っている豊臣秀吉の本から入って行こう )
と、1日、5ページを目標に読み始めた。本に出てくる解らない言葉や漢字は、すぐに辞書を引いて調べ、忘れないようにノートに書いた。
学ぶ事の楽しさは
『 苦労して学び、それが理解出来た時に生じる多大な喜び 』
にあると感じた。
ひとつ理解出来てくると、もっともっと、色々な事を知りたくなる。
視野も広がって行く事を知った。




