統括の言い渡し
2週間の新入訓練が始まった。
この期間に、行進訓練や所内の規律や生活を徹底的に叩き込まれる。
その間に分類面接が度々行われ、受刑者の職歴、資格、能力を調査される。それらの調査に基づき配役審査会なる会議が開かれ、受刑者の配役先 ( 刑務作業に従事する工場 ) が決まる。
大半の受刑者が、洋裁工場や金属工場なる生産工場に配役されるが、前職が調理師の者は、炊場 ( 炊事工場 )、職人経験の長い者は、営繕なる刑務作業に従事する。他に、所内の清掃に携わる内掃、受刑者の衣類を洗濯する洗濯工場など、所内の刑務作業は多岐に渡る。
配役審査会の結果、私の配役先は洗濯工場に決まった。
午前中に配役先の言い渡しが統括により行われる。
処遇部門 ( 一般に受刑者の日常全般を管理する懲役受刑者と直接関わる部署 ) の調べ室で、統括の来るのを待つ。
その間、壁を向いて直立不動で立っていなければならない。
統括が部屋に入ってくる。
「回れっ右っ!」
「礼っ!」
統括に対し腰を折って一礼する。
「なおれっ!」
同行する若い刑務官のかけ声を合図に機敏に動作を行う。
これらの諸動作は全て、新入訓練で叩き込まれる。
「称呼番号、氏名!」
「126番、今田信義」
これも、瞬時に返答しなければ、同行の若い刑務官の叱責を受ける。
因みに、称呼番号なる番号が、入所時に言い渡されるが 『 594番 』 という番号は、日本の刑務所では絶対に与えられない。
『 594 』
すなわち、
『 獄死 』
であるからだ。
また、一般の方々は、テレビドラマや映画等の知識から、受刑者を名前で呼ばず番号で呼ぶものと思っている方も多いだろう。刑務所では、称呼番号という番号は決められても、少年刑務所、一般刑務所を問わず番号だけで受刑者を呼ぶことは無い。また、この称呼番号なる番号は拘置所においても使用されるが必ず名前で呼ばれる。
統括が続けた。
「今田、配役工場を言い渡す」
「今日から洗濯工場に配役する。規律違反をせず、真面目に務めて1日も早く出るように」
若い刑務官が叫ぶ。
「礼っ!」
「直れっ!」
「回れっ右っ!」
号令に従い、再び直立不動で壁を睨んだ。
荷物をまとめ、雑居房へと移動する。
ここでも、私物をまとめて毛布に包んで縛る。ふと少年院を思い出した。 少年院でも、移動の際は私物を毛布で包み込む。これは刑務所でも同じことが分かった。
通路を渡り雑居舎房に入る。
初めて見る雑居房。布団はちんとたたまれ、すべて角を揃えてあった。日用品を置く壁に備え付けられた棚には、石けん箱やちり紙、雑誌などが、きちんと整理されて置かれていた。
荷物をそのまま部屋の脇に置いて洗濯工場に向かう。
移動の際は、腕を肩の高さまで上げ、
「いっちにぃ!」
「いっちにぃ!」
と、アメリカ陸軍兵なみに大声を出して行進しなければならない。
「いっちにぃ!」
「いっちにぃ!」
洗濯工場に着く。
刑務官が叫ぶ。
「全体っ!」
「止まれっ!」
「いっちにぃ!」




