親子の会話
平成5年7月、岩手県内に在る少年刑務所での受刑生活が決った。
移送当日は、私達5人の受刑者に対し3人の刑務官が同行した。
少年刑務所までは東北新幹線での移動となり、手錠をかけられ腰縄をうたれて数珠繋ぎで歩く姿は、駅構内のみならず新幹線の車内でも注目の的となった。
私達をジロジロと物珍しそうに見る子供達。
「あんまり見てはダメよ」
と、言わんばかりに子供の手を引いて、その場を立ち去る母親の姿。
なんとなく、他の車両に乗った親子の会話を想像していた。
「ママ、あの人達、なんでヒモで縛られてるの?」
「あのね、あの人達は凶悪犯人なのよ。いい、ああなってはダメよ」
そんなところだろうか。
約3時間程で岩手県内の主要ターミナル駅に到着。
駅を出ると、少年刑務所からの出迎えの車から、3人のジャンパー姿の刑務官らしき男が出てきて、私達に同行してきた刑務官に近づいてきた。
「遠路はるばるご苦労様です」
と、1人の恰幅の良い刑務官が敬礼してきた。
「どうも、出迎え有難うございます。こちらの方は何も異常ありません」
また、
『 異常ありません 』
か…
私は刑務官のやりとりから視線を外し、駅周辺をきょろきょろと見回した。
岩手県というので、とんでもない田舎町を想像していたが、駅周辺には、ホテルやデパートが建っており、駅そのものも千葉駅のそれと、あまり変わりがなかった。
車に乗って少年刑務所へと向かう。
緩やかな山道をあがっていく。そのうちに、人の住む家も見えなくなった。
少年刑務所に近づいてきたのか、年輩の刑務官が、
「もうすぐだかんなっ」
と、東北訛りで話しかけてきた。




