与党と野党
母に手紙を書いて、すぐに、算数の参考書と国語辞典を郵送してもらった。
慌てないで、じっくりと基礎から学ぶことを考えた。
すぐに、高校の通信教育が始まる訳ではない。それに、まだ岩手の少年刑務所と決まった訳ではないし、仮に岩手に決まったとしても、高校の通信教育受講までの道程は、決して楽ではないと聞いている。
希望者も数多く、数多い希望者の中から、ほんの数名が選ばれるという。
勉学に対する意欲が高まってからは、回覧新聞も、時間の許す限り熟読するようになった。
分類センターでは、1日、15分の一般新聞の閲覧が許可されていた。
岩手の少年刑務所に入所するまでは、新聞の1面は、番組欄だと本気で思い込んでいた。新聞紙はふたつに折りたたまれて、開くと直ぐに番組欄があるからだった。新聞は番組欄以外、見たことは無かった。
『 政治欄 』
『 経済欄 』
『 国際欄 』
と、日を追って舐めるように活字を追った。何が書いてあるのか、さっぱり理解出来ない。ひどい時は、3行ほど読んで時間になる事もあった。
ある時、
『 与党と野党 』
について調べようと思った。
新聞の政治欄に、いつも出てきていると気付いたからだ。
しかし、それが何と読むのか解らないので、新聞を回収に来た刑務官に聞いた。
刑務官は、
「これは、よとう」
「これが、やとうだ」
と、親切に教えてくれた。
その際、簡単に意味を説明してくれたが、理解出来なかったので、辞書を引いて調べたが、それでも解らない。
しかし、不思議と焦りはなかった。
毎日、新聞を読み、母が送ってくれた算数の参考書を見て、かけ算とわり算の問題を解いた。
作業中は、頭の中で、
( さざんがく、さんしじゅうに、さんごじゅうご… )
と、念仏を唱えるように繰り返した。




