モーニングリクエスト
判決日から10日が過ぎた。
季節は春を迎えようとしていた。
逮捕されてから既に半年近く経っていた。
留置場に2ヶ月間いた私は、12月中旬にこの拘置所に移管されて来た。
いつ建てられたのか分からないが、刑務所の敷地内にある拘置所はかなり古く、窓の隙間から、いつも冷たい風が吹き込んできた。
冬期間は、日中は膝の上に毛布を掛けることを許されたが、その、
『 ひざ掛け毛布 』
だけでは、寒さを凌ぐことが出来なかった。
しかし、拘置所に居る間は、私服 ( 自弁の服 ) を着ることが許されていたので ( 刑の確定までの間 )、厚着をすることで、幾分寒さを和らげることは出来た。
拘置所の朝は、朝食終了後の、
『 朝の願い事 』
から始まると言っても過言ではない。
『 願い事 』
とは、日本全国の刑務所、拘置所で使われる言葉である。
例えば、
「ちり紙がなくなったので支給して下さい」
とか、
「手紙の発信をお願いします」
などと言ったお願いごとを、刑務官に伝える時間である。それは、常識の範囲内のものに限られ、『 ここから出してください 』 みたいな非現実的な願い事は受け付けてもらえない。
毎朝、舎房の担当刑務官が、
「願い事あるか」
「願い事あるか」
と、順に聞いて回る。
その日も、いつものように、担当刑務官が朝の願い事を聞くために各房を順番に回っていた。
先週、私の隣の舎房に外人が入所してきた。担当刑務官が、四苦八苦しながら、いろいろと教えていた。
その外人はどうやらイラン人らしく、日本語があまり理解できず、何語だか解らないが、刑務官にやたら激しくまくしたてていた。
困り果てた担当刑務官は、応援を呼び、英語が解る刑務官に対処して貰って、なんとかその場は収まったようだった。
イラン人は、英語を話せるらしく、何かあると、すぐに英語を話せる刑務官が応援に駆けつけた。
舎房担当は、英語があまり解らないらしく、朝の願い事の時は、
「モーニングリクエスト」
「モーニングリクエスト」
と、イラン人に話しかけては、何か言われるとすぐに応援を呼んでいた。




