懲役5年6月
「主文、被告人を懲役5年6月に処す」
平成5年2月、千葉地方裁判所に於ける
『 暴行傷害被告事件 』
に対する判決文が朗読された。
意外にも、重い判決内容に後日弁護人は控訴を打診してきたが、私は控訴はしないで、そのまま、アカ落ち ( 刑の確定 ) する旨を弁護人に伝えた。
刑の確定は、本日より数えて14日後である。
この、判決の言い渡しより14日間が控訴期間であり、判決内容に不服のある者は、東京高等裁判所に控訴することが出来る。
裁判所から拘置所への帰路、私は、護送車の中から、ずっと千葉の街並みを見つめていた。
『 護送車の中からみる景色や人なみ 』
『 外から見る護送車の中の被告人たち 』
この違いの差は、まさに、
『 地獄から見る天国 』
『 天国から見る地獄 』
に、等しいように思えた。
細い国道を左折すると、すぐに拘置所の赤レンガが見える。
正面の門を2人の看守が開けていた。
中に入ると、護送車から降りるよう指示される。
手錠をかけられたうえ腰にはガッチリと腰縄がうたれている。その腰縄は数珠繋ぎになっており、3人の被告人が1本の縄で繋がれている。
だから、車を降りる時はタイミングを見計って席を立たないと、前の者は姿勢を崩してしまう。それだけ前の者と後ろの者との縄の間隔は短い。
調べ室に入り、腰縄を解き手錠を外される。
全裸になり前かがみになって、両手で尻を広げて肛門を見せる。
肛門の中に異物を隠し入れていないかの確認のためである。
「よし」
その刑務官の許可を得て、ようやくパンツを履き、服を着ることを許される。
独居舎房に入り、2階に上がったら、奥の担当台の前で担当刑務官が立ってこっちを見ていた。
私を連れてきた若い刑務官は担当刑務官に敬礼し、
「異常っありまっせんっ!」
と、気合を込めて刑務官の決まり文句を言った。
この、
『 異常ありません! 』
という刑務官の決まり文句は、刑務官どうしがすれ違う時、上官が巡回に来た時に使われるが、社会における、
『 こんにちは 』
『 お疲れ様です 』
と同じ意味合いを持っているように思えてならない。
因みに、
『 異常ありません! 』
という決まり文句、異常があっても、
『 異常ありません! 』
と、言っていた。




