面倒見(めんどうみ)
平成4年10月、私は千葉中央警察署に逮捕された。
成人になって初めての逮捕。今度は間違いなく懲役刑である。
中央署の留置場に留置され20日後に起訴された。すぐに起訴状が手元に届いた。
初めて、刑事と対面した時、
( これは、一筋縄ではいかないな )
と感じた。
直感だった。
私は少年の頃から、いろいろな刑事と対面してきた。
仏のように被疑者を落とす刑事、怒鳴りつけ机を蹴飛ばして、半ば強制的に自白を引き出す刑事、被疑者と良い関係を築き上げ、徐々に被疑者から供述をとって行く刑事…
刑事には、いろいろなスタイルを持った者が多い。
しかし、今と昔では刑事の取り調べ方法も、留置場における被疑者の管理方法もだいぶ違う。
まだ私が若い頃は、
『 面倒見 』
というものがあった。
これは、そのままの意味で、
刑事から、面倒を見てもらう。その代わり、被疑者も刑事から受ける取り調べに協力する。
と、いう事である。
『 警察に逮捕され取り調べの時に、カツ丼が出る 』
という場面は昔の刑事ドラマでもよく見ることが出来た。
あれは、
『 面倒見 』
という本当の事である。
それらは、みな刑事のポケットマネーであり、費用で落とせるものではない。
また、留置場にいる時に、調書を取るわけでもないのに、取り調べと称して留置場から出して、取り調べ室で被疑者にタバコを吸わしたり、ジュースを出したりして雑談する。
これらもみな、『 面倒見 』である。
これらは全て暗黙の了解であったが、現在ではその『面倒見』という暗黙の了解も廃止となった。
ひとつは、警察と暴力団の癒着
もうひとつは、裁判で、
「刑事から、面倒を見てもらったから、仕方なくやってもいない犯罪を認めた。裁判官!私は無罪です!」
と泣きつく被告人が後を絶たなかったからである。
それにより、留置場の管理は刑事課から留置管理課に代わり、刑事が留置場から被疑者を出す時は、いちいち面倒な手続きを取らなくてはならなくなった。昔は刑事課が留置場の管理をしていたので、刑事はいつでも、好きな時に被疑者を出すことが出来た。
正月も刑事の家内が作ったおせち料理を食べさせる事も出来たのである。
最近、暴力団対策課の班長と会ったが
「やりづらくなった」
と、ボヤいていた。




