多重債務者
「おい!こらっ!金返せっ返さねぇえとぶっ殺すぞ!」
ドアを蹴り続け、怒鳴り続ける。
「なめやがって」
私とクリハラは、ある債務者の住むボロアパートへ乗り込んでいた。
この債務者には3万円融資しており、今日の午前11時が返済日だった。
時計の針が11時を回った瞬間、私とクリハラは事務所を飛び出た。
ボロアパートに到着すると、2階に住む債務者の部屋に向かう。
債務者は常に金融屋の取り立てに怯えながら生活しているものだ。カーテンを締め切り留守を装う。しかし、部屋に債務者がいようがいまいが関係ない。部屋のドアを蹴り、怒鳴り続け叫び続ける。近隣住民に対しても、
この部屋の住人は、
『 闇金からも金を借りる多重債務者 』
という事を広めることも目的である。
債務者には小学生の子供がいた。
今の時間帯は、当然、学校に通っている。
しかし、返済日に借りた金を返さなさい債務者には、たとえ子供がいようがいまいが、昼間だろうが夜中であろうがそんなことは関係ない。今と同じようにドアを蹴り怒声を浴びせ続けるつもりだ。
近隣住民にも迷惑をかける事になるが、その怒りは当然、
『 借りた金を返さない債務者 』
へと向けられる。
子供が泣き叫ぼうが関係はない。
このような輩には、仕事の上での 『 取り立て 』 ではなく、個人的に貸した金を取り立てるような気持ちになった。
怒りが湧いた。
返さなければ両腕、両足を、へし折ってやるつもりだった。
債務者からすると、たかだか3万円を返済出来ずに、子供に泣かれ、近隣住民から蔑まれることに耐えられなくなる。
だからと言って、3万円のためだけに夜逃げすることも出来ない。なんとかして金を工面して返済するものだ。
この手の奴らは、消費者金融以外にも、親や親戚関係、友人から同僚に至るまで、金を借りて返済できずにいるケースが多い。誰にも借りることが出来ないから闇金にまで手を出す。闇金が最後の手段である。その次はコンビニ強盗か、ホームレスになるのがオチである。
闇金に金を借りてくる多重債務者のほとんどが、ギャンブル中毒である。子どもの学費のために、闇金に来る奴はいない。
ギャンブルをやり、ごくたまに勝つ事がある。その、勝った時の感覚をもう1度味わいたくなり、またやりに行く。続けて勝つ者もいるが、大抵が負ける。しかし、1度ギャンブルの罠にはまった者は、
『 あのたまらない興奮をもう一度味わい 』
となる。そうなると投資金額はどんどんかさみ、必要な金まで使ってしまい、金を借り始める。もう、金銭感覚が完全に麻痺し、借金まみれになっていく。
大多数の人間が、最初は余り金を使わないでギャンブル勝ち、ギャンブルの罠にハマって行くものだ。
初めてパチンコやって、いきなり5万負けたら、馬鹿らしくて2度とやらないだろう。
ギャンブル中毒になると財布に入れていく金も日増しに多くなる。
なぜか?
それは、不安だからである。
( 1万円では当たらないかもしれない。この前は、2万円使ったからな )
と、なるのである。
1日いくら負けたらやらないと、自分に言い聞かせて、やめる事が出来る者も多い。
しかし、闇金に金を借りにくる多重債務者は違う。
それに、ギャンブルにハマっている多重債務者は解っていない。
《 博打は必ず胴元が勝つということを… 》
私はドアを蹴り叩き叫び続けた。
夜中の2時を回っていた。




