奉仕作業
「1級上進級、3名」
教育課長の声が響く。
「〇〇、〇〇、〇〇」
「今田信義」
「はいっ!」
とうとう名前が呼ばれた。
長かった。ここまで辿り着くまでに、実に1年3ヶ月という年月を要した。この1年3ヵ月の間、様々な出来事があった。
意地を張り通し、教官の指導に従わなかった事も長期間の入院生活のひとつの要因でもあったが、もうひとつは、身元引受人である父親が、仕事の転勤で再び福岡県へと帰ってしまった事だった。母親も一緒に帰ってしまったため、私には仮退院の1番の条件である、身元引受人が居なくなった。
急遽あてを探した結果、本来、私が帰住する予定だった地域の保護司の紹介で、ある建設会社の社長が身元引受人に決まった。
1級上に進級してすぐに、院外の奉仕作業にでかけた。
少年院にほど近い場所であったが、院外に出るのも、車での移動も、鑑別所から少年院へと送られてきて以来なので、気持ちは昂って、いささか興奮していた。当然、手錠もない。
お寺に到着すると各人に作業場所が割り当てられた。私達は私語も交わさず黙々と除草作業に従事した。空を見上げると太陽の光が眩しかった。季節は初夏を迎えようとしていた。
1時間ほど作業したあと休憩になった。
住職が、麦茶と一緒に、チョコレートなどのお菓子が入ったカゴを持ってきた。
「ご苦労さん」
と、麦茶とお菓子を勧めてきた。
戸惑っている私達に教官が笑をこぼす。
「お前ら、何してる。食え、食え」
私は、チョコレートを手に取り口に入れた。
噛んでしまっては、勿体ないから、口の中で溶かしてじっくり味わった。
( チョコレートなんていつ以来だろうか… )
そんな思いが住職に伝わったのか、いつまでも私達を、優しい眼差しで見つめていた。
2時間程の奉仕作業を終えた。
帰路につく時、住職は私達に言葉をかけてくれた。
「今日はありがとう。若い君たちには無限の可能性があるからね。少年院の生活も、めったに出来ない貴重な体験。決して、無駄にするんじゃないよ」
少ない言葉だったが、その言葉はずっしりと重く感じられた。
車の中から振り返ると、いつまでも住職は手を振っていた。




