キャメル
年が明け、ここでの生活も2年目に入った。
赤城山麓にあるこの施設の冬は、雪が多く降り積もるわけではないが、赤城山から吹き降ろされる強風のせいで気温も低く、暖房器具も行き届いていないのでかなり寒かった。
( 普通に中学に通っていれば、今年の春に卒業か… )
( いくらこの初等少年院で義務教育を終えるとはいえ、人生で最初で最後の中学校の卒業式を、こんなとこで迎えるとは… )
どうあがいても、卒業式までにここを出るなんて不可能なことだった。まさか、逃走するわけにも行かない。
そう思えば思うほど、今置かれている立場というものが痛いほど分かった。
友達に会いたかった。馬鹿なことばかりやってきたが、最高の友達ばかりだった。
昔を思い出していると、
( そういえば、卒業式には担任のキャメルが来るって言ってたな… )
( アイツから、卒業証書を受け取るのか… )
※少年院内の卒業式では、収容生の中学校の教師が出席し、卒業証書を授与する事が出来る。
あれは、まだ中学に入学したての頃だったか、数学の担任にキャメルというあだ名の先生がいた。顔がラクダに似ていたのでみんな陰でそう呼んでいたが、このキャメル、非常に気が短く数学の計算が解けないだけで、
「こんな簡単な問題がわからんのかっ!」
と、男子生徒を張り倒していた。女子生徒には絶対に手を上げなかったが、男子生徒に浴びせる張り手以上に、強烈な罵詈雑言を浴びせては、泣かせていた。
ある時、ひとりの悪友が、犬のうんこをビニールに包んで持ってきた。
「これを、キャメルの車の窓に、塗りたくってやるべ」
私達は、
「アイツ、いつも車磨いてっから、そんな事したら、発狂するべ」
「やるべやるべ!」
早速、窓や、ボディの至るところにうんこを塗りたくった。
放課後それを見たキャメルは、
「誰だっ!こんな事したのはっ!」
と、叫んでいた。私達は校舎の陰から見ていたが、そのキャメルの発狂する姿に爆笑の連続だった。
その事を思い出してひとりでニヤニヤしていたら、通りすがった教官が、
「今田、お前、何ひとりで笑ってるの。大丈夫か?」
と、声をかけて通り過ぎていった。




