死にものぐるいの進級制度
想像していたものと全く違っていた。
少年院内では、リンチどころか、ケンカさえあまりなかった。
この初等少年院では進級という制度がある。
『 2級下 』
から始まり、
『 2級上 』
『 1級下 』
『 1級上 』
へと成績如何により順次進級していく。
2級下の期間は、約1ヶ月。
その期間は
『 生活に慣れる 』
ための期間であって、比較的ゆったりとした生活が許され、多少のミスは大目に見てくれる。この2級下から、2級上までは、1ヶ月という期間が過ぎれば自動的に進級するが、2級上になってからは、自分の努力で這い上がって行かなければならない。
規律違反をせず、退院後の生活設計を自ずから立て、実際に実行しなければ評価はされない。生活設計を立てるだけで何も行動に移さなければ、それは、ただの机上の空論と捉えられ、評価どころか、『 あいつは口だけだ 』との酷評を招いてしまう。
そして、その評価は毎月1日に行われる、
『 進級式 』
において現れる。
努力が認められ評価された者は、進級式の場において、教育課長から
「1級下の進級者を発表する」
「〇〇、〇〇、〇〇」
と、順次、名前が呼ばれていく。
名前が呼ばれない者は、さらなる努力を重ねなければならない。
早い話、進級が先になればなる程、仮退院もどんどん先に延びてしまう。だから、みな必死になって進級しようと努力する。
その頂点が、1級上である。
1級上になると、仮退院が視野に入る。仮退院に向けた活動が社会においても行われるが、収容生にもより一層の自重と、模範的な生活態度が要求される。
その
『 進級制度 』
や、
『 日常生活を通して自分自身が何をすれば良いのか 』
『 どうすれば、評価され、その評価が進級に結びつくのか 』
ということを、じっくりと見て学ぶ階級が、1ヶ月間ある2級下なのである。
規律違反行為をすれば、階級はひとつ下がる。
仮退院間近の1級上の者が規律違反行為をして1級下に階級を落とされた。1級上からの転落となれば、当然、目前の仮退院も取り消しとなる。
仮退院を取り消されたひとりの収容生が、発狂したことを今でもはっきりと覚えている。




