教官
寮に入ると奥の教官室からひとりの若い教官が顔を出した。
その教官は、通りすがったひとりの収容生に声をかけた。
「おい、ちょっと〇〇呼んでこい」
収容生は、
「はい」
と大きな声で返事をし、機敏な動作で食堂に入って行った。
その姿を見届けた教官は私の方を向いて、
「中に入れ」
と言い、教官室に先に入った。
私もあとに続いて中に入り、パイプ椅子に座るよう指示された。
教官は、
「俺が今日から、お前の担任になる〇〇だ」
と、吐き捨てるように言ってきた。
「ここでの生活は、考査期間で学んだ通り。マジメにやれば早く出れるし、規律違反行為ばかりやってたら、いつまで経っても出られない」
教官は続けた。
「お前の事は調査表を見て大体のことは分かったが、ここは、お前以上に凶暴な奴が多い。しかし、奴らはみんな大人しい。弱い奴ほどここではよく吠える」
「まあ、しっかりやれ」
私は黙って頷いた。
扉をノックする音が聞こえた。
先程、教官に呼ばれたひとりの収容生が中に入って来た。
「失礼します」
「おう、呼び出して悪いな。こいつは、今日からお前の部屋に入る今田だ」
収容生は私に向かって、
「よろしく」
と、声を掛けて来た。
私も慌てて頭を下げた。
教官は私に向き直り、
「こいつは、お前が入る部屋の部屋長だ。分からない事はなんでも聞け」
「はい。分かりました」
私は答えた。
教官は、
「今田、ここでは、収容生の呼び捨ては許されない」
「年齢に関係なく、名前を呼ぶ時は、必ず、〇〇さんと、さんを付けて呼べ」
私と、部屋長は、頭を下げて部屋をあとにした。




