『金縛り』の怪
クーラーの設定温度は28℃であった。
蚊取り線香の匂いが、部屋の中を満たしている。
麗之助は寝苦しい夜を過ごしていた。
すると突然、麗之助の体が動かなくなってしまったのである。
金縛りだ。
目を開けると、布団の中に女の霊がいた。
「あどうも、こんにちは……いや、今の時間は今晩はですね」
女の霊は何も言わなかった。
すると奴は、べっとりとした赤黒い液体の付着した刃物を麗之助にむかって振り上げた。
「それ、ケチャップかよ!情けねぇな」
「……ぐうっ」
「おおっ?もしや図星ですか?俺が動けねぇ事をいいように、驚かそうってか。」
「……勘違いしないでよね!別にあんたのためにナイフにケチャップつけて驚かそうとしたんじゃないんだからね!」
「……まあ、だが、その刃物はモノホンみてぇだ」
「ええ。そうよ」
「試しに俺を刺してみろ」
「いいの?」
「ああ」
女の霊は刃物を降り下ろす。
しかし麗之助は簡単にそれをかわした。
「なぜだ!金縛りにあっているのでは無いのか?」
「ああ、もちろん金縛りには掛かっているよ」
「なのにどうして」
「小さい時からよく金縛りにあっているからな。体を動かすくらいなら出来るようになったんだ」
「バカな!動けるはずがない」
「金縛り破ったり!なんてね」
「ふざけるな!」
そう言って、女の霊は泣き出してしまった。
「えーん。えーん」
「わるかった。俺がわるかったってば!今度は俺じゃなくてちゃんと人間を驚かそうぜ」
「えっ?あんた人間じゃ無いの?」
「ちょっとだけ悪霊の血が流れているんだよ」
「本当?」
「ああ」
「あの不老不死の?」
「ああそうだよ」
「って事はお前、麗之助か!」
「よくわかったな。俺が麗之助だよ」
「あのぉ。サインいただけないでしょうか!」
そう言って、女の霊は麗之助のサインをもらって帰って行ったのである。