『心霊アクション』の怪
日が沈み、夏の蒸し暑さが落ち着いてきた、ある廃墟での出来事だった。
一同は、興味半分でこんな心霊スポットなんかに来るべきでは無かったのだと後悔した。
どす黒い、得たいの知れないナニモノかが恐怖と戦慄を運んで来る。悪霊だ。恨みの塊である。
黒髪の乱れた白装束の女の霊は、裂けた口で不適な笑みを浮かべた。
こちらに向かってくる。みんな息は止まっているし、足も動かない。
この状況から逃れたい。だが、自分の存在している場所にしか空間が無いような感覚になっている。
恐怖で動けない。その間にもナニモノかは這いよって来るのである。
ゆっくり、ゆっくりとだが確実に這い寄ってくる。
その時だった。
「よう!悪霊」
その声が静寂を切り裂いた。
暗闇で薄れていたが、確かに見える。
透き通るような白い肌に学ラン姿。
間違えない。麗之助だ。
彼は同じ学校の同じ学年の生徒だが、いまだに不登校であった。
クラスのみんなは、写真でしか顔を知らなかったが、写真からでも感じることのできるその異様とも言える彼の存在感はより生徒達の興味を駆り立てた。
存在感。彼にはそれがあった。
恐らく、人間には到底持ち得ない迫力である。
肌は色白で細身だが、目の奥からは生死を越えた何かが伝わる。
「いくらヤワな心霊スポットといっても生半可な気持ちじゃあすぐに殺られちまうぜ!人間ども!」
彼は突然、声を上げた。
夜に児玉するような、とてもよく通る声だ。
そしてその悪霊の前に立ちはだかった。
生暖かい夜の風が、彼の学ランの裾を靡かせる。
真っ黒い髪を振り乱し、白装束の内側から怒りが感じられるその女は、髪の毛のすき間から眼を見開いた。
ぎょろっ。とした目が一同を睨み付ける。
充血した眼差しがこちらを向いている。
呪いの目だった。
「目を合わせるな!」
一人が突然叫んだ。
その声を合図として、全員が目を逸らす。
しかし、一人だけ故意に奴と目を合わせている者がいた。
麗之助である。
彼は何故か女の霊と向かい合っている。
「ううっ!」
奴が充血した目を合わせたまま、うめき声を発した。
そして次の瞬間、一同は、奴の体が光と化しているのを目撃する。
一体何が起こったのか、一同は状況が理解できなかった。
だが、次第にそれは麗之助の勝利を意味する事に気づいた。
何故、彼は奴と目を合わせて無事だったのか。
いや、それ以上にどうして目を合わせただけであの女の霊が成仏されたのか。
一同は分からなかった。
そして、その真っ白い肌に触れる生ぬるい風が妙な清々しさを感じさせるのだった。
「今のは、慈悲眼という俺の霊能力だ」
そう言って、彼はその場を後にしようとした。
しかし、途中で足を止める。
「……やっべえ。……犬の糞、踏んじゃった」
「……ええっ?何でぇ!」