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夢の住人  作者: 七嘉
3/3

遭遇

 授業を終え帰宅した叶都は母に帰宅の挨拶をした後、自室に向かった。

 ベッドに仰向けに寝そべり、クラスメイトの死について考える。

 志緒子の死には夢の住人は関係しているとあの少女は言っていたが、そんなはずはない。映画や小説とは違い、都市伝説が原因で死に至るなどとは考えられない。

 ストレスでおかしくなっていた志緒子が、夢の住人という都市伝説のことを口にしただけだろうと叶都は考えた。

 そんなことを口走るほど追いつめられていた志緒子がひどく哀れに思える。志緒子の異変に気づき、心を救ってあげられる人物は1人もいなかったのだ。

 叶都は目を閉じ、亡きクラスメイトの冥福を心から祈った。


 気が付くと部屋が真っ暗になっていた。どうやら眠ってしまったらしい。

 辺りが全く見えないほど暗くなるまで目覚めなかった自分に少々腹が立つ。

 部屋の電気をつけると机の上にメモ用紙が置いてあるのに気付いた。母の字で何かが書いてある。

『叶都へ。よく眠っているようだから起こさないでおきます。』

 母は気を利かせて起こさなかったようだ。叶都が疲れていたのに気が付いたのだろう。

 時刻を確認するためにスマートフォンを取り出す。画面を見ると午前3時と表示されていた。思ったより時間が経っている。

 軽い空腹を感じた叶都は、スマートフォンと財布をポケットに入れ、上着を着こみ家を出た。


 外は思っていたよりも寒く、叶都は身震いをする。

 早く目的地に向かおうと足を速めると、目の前にいきなり何者かが飛び出してきた。

「うわ……っ」

 驚いた叶都は小さく声をあげた後、こちらを見つめてくるその人物を確認する。 膝のあたりまである黒いマントのようなものを羽織っており、フードを目深に被っている。マントの隙間から覗く服も大部分が黒だ。

 あやしい。

 叶都は来た道を戻り逃げようと考えたが、動いてしまうと危害を加えられる可能性があることに気づき、その場に立ち止る。

 緊張した面持ちで黒マントの人物を見つめる叶都に、その人物は口を弧の字に歪めて笑いこちらを指さした。

「お前は今日から1週間以内に死ぬ」

「は……?」

 いきなり告げられた言葉に驚いた叶都は、小さく声を漏らした。

 動揺する叶都を見て、笑みを深めた黒マントの人物は再び口を開く。

「お前は必ず死ぬ」

 そう告げると、黒マントの人物は叶都に背を向け去って行った。

「……なんだ、今の」

 不気味な人物との遭遇で恐怖を感じた叶都は、足早に来た道を引き返した。


 帰宅した叶都は急いで自室に向かい、布団にくるまる。体が緊張で固まっている。

 激しく脈打つ心臓を落ち着かせるように胸を撫で、ゆっくりと深呼吸をすると、徐々に落ち着いてきた。

 叶都はスマートフォンを取り出し、日付を確認する。画面には小さく12月21日と表示されていた。

 さっきの不審者に言われたことを思い出す。たしか“今日から1週間以内に死ぬ”と言っていた。すると自分の命は27日までということになる。しかしそれは話が真実だった時の話だ。

 ただの不審者の戯言にあわてる必要はないと判断した叶都は、スマートフォンをベッドサイドに置き眠りについた。


 朝、目が覚めた叶都はまず深夜のことを反芻する。

 夜中に目が覚め外出し、その道中に不審者と遭遇し死を宣告された。

 不審者の発言に関しては明らかに嘘だと思っているが、気分が悪い。

 叶都はしばらくの間昨日の人物について考えていたが、悩んでも仕方がないという結論に至り、いつも通り学校へ行く支度を始めた。


 学校へ行き教室に入ると、すでに席に座っていた針也が手を振ってきた。

 教室内は昨日と同じ重苦しい雰囲気のままで若干息苦しい。

「おはよう。いつもより遅かったな」

 叶都は針也の1つ前にある自分の席に座りながら挨拶を返す。

「おはよう。ちょっと考え事してたら遅くなった」

 針也は叶都の答えに意外そうな顔をして相槌を打った。叶都は意外と時間に細かく、何事にも早めに行動する。いつもは針也よりも早く登校しているため後から来た叶都に疑問を抱いたようだ。

「考え事って何考えてたんだ? 井上のことか?」

 叶都は針也の言葉に首を振り答える。

「いや、違う。……昨日、いや、正しくは今日の未明か。不審者に会ったんだよ、多分」

「不審者!? どういうことだよ!」

 声を荒げた針也に、教室内にいた十数人がこちらを怪訝そうに見つめてくる。それに気づいた叶都は慌てて口を開いた。

「ちょ……っ、静かにしてくれ」

「わ、悪い。でも不審者ってなんだよ?」

 叶都は針也に近寄り、声を潜めて話す。

「……なんか、夜中に目が覚めて、コンビニに行こうとしたんだ。そうしたら、黒いマントを着た変なやつと会ってさ。“1週間以内に死ぬ”とか訳がわからないことを言われた。寝ぼけてたし、勘違いかもしれないけど」

 叶都の話を聞いた針也は顔を青ざめさせた。少し汗もかいている。

「それ、“夢の住人”じゃねぇの? お前、やばくないか」

 夢の住人とは昨日針也から聞いた都市伝説のことだ。確か、夢の住人に遭遇すると1週間以内に死ぬと言っていた。

「でもただの都市伝説じゃないか。それとは関係ないだろ」

 針也は勢いよく首を振って叶都の言葉を否定する。

「だけど、井上のこともあるしただの都市伝説じゃない可能性が高い」

 針也があまりにも真剣な顔をするので、叶都は徐々に不安になってきた。昨日の人物が本当に夢の住人だとすると、自分の命は残り7日ということになってしまう。

「……もし本当だとしたら死ぬのか?」

 叶都の弱々しい声に針也は慌てる。

「なんとかする方法を考えようぜ! 助かる方法があるかもしれない。俺も協力する」

「……ありがとう」

 針也の言葉に叶都は小さく笑った。

 叶都は都市伝説が本当だったとしても絶対に死ぬものかと決意を固め、聞こえてきた朝礼の開始を告げるチャイムと共に姿勢を正した。


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