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孤独の姫に忠誠を  作者: 奏 舞音
番外編

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11/12

少女に出会うまで:中編

 養子宣言されたデビットだが、シェイン伯爵は独身だった。彼いわく、まだまだ独身を楽しみたいのだという。もう二十八にもなっているのだが。


「さあ、ここが我が息子の部屋だ!」


 養子として、義理の息子となったデビットに、伯爵は無駄に広い部屋を与えた。


「デビット、君は使用人の業も学びたいと言っていたな。ならば、身の回りのことはすべて自分ですること。いいな?」


 デビットはその言葉に頷いた。もとより、使用人としてこの屋敷に来るつもりだったのだ。勢いよく頭を下げ、デビットは礼を言う。


「僕にこんなチャンスを与えてくれて、本当にありがとうございます」


「ああ。だが、忘れるなよ。君が志を忘れた時、私はすぐに君を追い出す」


 シェイン伯爵がデビットを養子としたのは、アレグレットのために生きようとしているデビットに興味を持ったからだ。与えられる伯爵家での生活に甘んじていては、デビットはすぐに追い出されるのだろう。

 しかし、デビットの目の前にはひとつの道しか見えていない。それは、あの美しい少女を笑顔にする道だ。彼女のために、自分は何ができるのだろう。彼女に相応しい人間になるにはどうすればいいのだろう。彼女の心に近づくためにはどうすればいいのだろう。デビットには、分からないこと、知らないことが多すぎる。

 だから、知りたい。そのために、自分はここにいるのだ。


「シェイン伯爵、僕に貴族社会のこと、愛する人を幸せにする方法、あなたの持ちうるものすべてを教えてくださいっ!」


 この時のデビットはアレグレットに近づくチャンスを手にしたことで浮かれていたのだ。だから、忘れていた。

 今、頭を下げている相手が、一般的な貴族ではなく、変わり者だと称される貴族であることを。




「さあ、デビット! これができなければお前は立派な男ではないぞ」

「はいっ!」

「うむ、いい腕前だ!」

 巨大な玉の上でバランスを取り、デビットは必死で逆立ちをしていた。次のサーカス公演を成功させれば、シェイン伯爵家の図書館を自由に見てもいいと言われた。何故かサーカス団員と仲が良く、自身もショーに出演するシェイン伯爵は、義理の息子の稽古にとても熱心だった。



「デビット、これをすべて暗記して私の代わりに社交界で人脈をつくれ!」

 サーカスが終われば、貴族名鑑と領地の経営状況を頭に叩き込まれ、伯爵の代わりに社交界に出向くようになった。そこで、もしかしたらメーデル家の人間と接触できるかと期待したが、参加したパーティにはいなかった。時々、まったく興味のない見た目だけ輝かせた令嬢たちがデビットに色っぽい視線を向けていたが、すべて無視した。



「今度、領地で武術大会を開こうと思うんだ! デビット、私の息子として優勝しろ。できなければ……分かっているな?」

「はい。必ず優勝します!」

 腕自慢の男たちが集う暑苦しい武術大会は、年齢関係なく試合が行われる。まだ十代で、細身のデビットが優勝するなど、誰も想像することすらしなかった。しかし、アレグレットのために、という思いだけでデビットは優勝した。サーカス団で剣の型を覚え、玉乗りで培った軽い身のこなしが、腕自慢たちを翻弄したのだ。





 デビットがどこまでできるのか、シェイン伯爵は試しているようだった。デビットは今まですべての要求をこなしてきた。

 今まで使うことのなかった脳を使い、筋肉を使い、気を遣い、無駄に目立つ伯爵の隣に息子として立ってきた。

 最初はデビットの存在を認めていなかった屋敷の使用人たちも、少しずつデビットを認めはじめ、五年経った今では皆がデビットを伯爵家の者として扱ってくれている。




「サーカス団での興業は順調だし、武術大会は毎年優勝、舞踏会のデビット宛の招待状は毎日届いている……すべて完璧にこなしているようで何よりだ。最近は、花火職人のところへ通っているとか?」


 珍しく、シェイン伯爵が屋敷で夕食を共にしている。デビットの動向はすべて、彼に筒抜けた。比較的自由に行動できるようになっていたデビットは、もしアレグレットに会うことができたら、彼女のために何をしようかと考えていた。アレグレットが見たこともないものを、思わず笑顔になるようなものを見せてあげたい。それはすべて自分の手で。彼女の心を震わせるものを。


「はい。海の向こうの島国から来た商人が夜空に輝く花を見せてくれたのです。僕は、彼女のために花火をつくろうかと」


「うむ……花火、か。懐かしい」


 ワインを一口含み、伯爵がどこか遠くを見て微笑んだ。いつも突拍子もない言動ばかりしているシェイン伯爵にしては珍しい顔だ。


「花火に、何かあるのですか?」


「ああ。私は若い頃に一度だけ、その島国へ旅に出たことがあってね。生来こんな性格だから、貴族社会という堅苦しい場所から遠く離れたかったんだ」


 そう言って、シェイン伯爵は過去に意識を飛ばしたのか、黙り込んだ。その表情は、ただ花火のことや旅のことを思い出している、というには複雑なものだった。


「……私が君を養子にしたのはね、羨ましかったからだよ」


 酒にでも酔っているのだろうか。彼がこんな静かに、何かを噛み締めるように話をしたことはなかった。だからデビットはどう返していいか分からず、ただ頷いた。


「愛する人のために、自分のすべてをぶつけられる、真っ直ぐな君が眩しかった。私にはそれができなかったからね」

 シェイン伯爵はぐいっとグラスを傾げ、ワインをすべて飲み干した。

 そして、語る。彼が独身を貫いてきた本当の理由を。


 



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