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戦争の真実

 その後、()()はフライングカーペットの医務室に移送された。RS(レインフォースソルジャー)として改造を受けた影響を調べ、その影響を取り除くためだ。

 でも、それは杞憂に終わった。なぜか普通の人間と同じ結果しか出なかったためだ。

しいて言えば、異常に活性化されたマジック粒子の影響を受けたらしい痕跡が残っていたようだ(脳波が変わっている、等)。これも、僕とアラジンの力によるものだと艦長は言っていた。

 ただ、精神状態だけは元通りとはいかなかったようだ。おそらく長い間、人体改造や監禁されていたことによるによるストレスが原因だろう。

 その影響で、詩亜は時々、錯乱状態に陥ることがある。でも、一日に何回か僕と会うことで収まるらしい。

 そういうわけで、今日も僕は詩亜の病室に向かった。

「詩亜、元気にしてたか?」

(じん)!」

 よかった。元気そうで何よりだ。

 でも、元気すぎていきなり僕に抱きつくのはどうかと思うけど……。

「お前、ほんとに病人か?」

「たまに調子悪いときもあるけど、基本大丈夫だよ」

「へー、そうか」

 あ、そうだ。確か、今日は詩亜に話すことがあったんだ。

 僕は詩亜をベッドに寝かせ、話を切り出した。

「実は今日、詩亜に報告することがある」

「何? 急にあらたまって」

「いい報告と言えば、いい報告。悪い報告と言えば、悪い報告だ」

「どういう意味?」

「どちらにもとれるということさ。とりあえず、事実だけを言うことにする。戦争が終わりそうなんだ」

「え……?」

 詩亜はきょとんとした。

「そのまんまの意味だよ。詳しく説明すると、アラビアンナイトの諜報部が、戦争の原因を突き止めた。これから、その元凶に対して、世界中にいるアラビアンナイトのメンバーが一斉に攻撃を仕掛けるんだ」

「それって、いい情報じゃん」

 まあ、これだけの説明では、そう聞こえてもおかしくはない。でも、よく考えれば、かなり厳しい状況でもあるわけで。

「決していい情報ではない。全世界同時攻撃ともなれば、ある程度敵に悟られてしまう。そうなれば、僕達のターゲットとしている場所にかなりの戦力が集まる。つまり、激しい戦闘が予想される」

「激しい戦闘……」

「で、ここからが本題。実は、激しい戦闘から守るため、()()を秩父に送り返す案がある。それについて詩亜の意見を聞きたい」

 この問いに、詩亜は即答した。

「あたし、(じん)を待ってるなんて、嫌だよ。あたしも仁と一緒に行く。だって、あたしは仁のお嫁さんだもん」

「……お前なら、そう言うと思った。それと、決行は一週間後。僕はこれから、それに向けてミーティングに行ってくる」

「あのさ、仁……、生きて、帰ってきて」

「ああ。もちろんさ」




 ところで、詩亜を取り戻してから進展したことが一つある。僕自身とアラジンの秘密について、父さんから全ての事実を聞き出せたのだ。

 それによると、僕が他人の心を読めるのは、やはり僕の読み通り、人の夢を探り出すために備わっているようだ。

 そして、夢を持つ人が抱いている、夢をかなえたいという思いと、僕がその夢をかなえさせたいという思いが同調した時、マジック粒子が異常に活性化した状態でアラジンの背部から放出され、夢をかなえるらしい。

 もっとも詩亜の場合、年齢的に結婚できないので、婚約にとどまっているが……まあ、ほぼ夢がかなったも同然か。

 そして、異常活性状態になったマジック粒子を放出した時、夢を持つ人が、どうしてその夢を持つに至ったかを見ることができるようだ。この現象は、先の戦闘中、僕と詩亜が幼いころの思い出に浸った現象と合致する。

 なお、これらの現象は、金属生命体、つまり(しん)と合体して脳波が変わった僕だからこそ成し遂げられるものであり、普通の人が使っても、ただ色違いのビームを発生させるビームドライヴにしかならないらしい。


 また、ヘラが()()を狙った理由が、ウィッチの残骸にあったデータから判明した。

 どうやら、RS(レインフォースソルジャー)になるにも適性が必要らしい。その適性と言うのが、脳波の強い人間と一緒にいることらしいのだ。

 つまり、詩亜は脳波が強いベアと一緒にいたから狙われたのだ。

 このことについて、ベアには話をしていない。話したら、自分を責めそうだったから。




 そして、一週間後。

「これより三十分後、本艦はハワイにあるフェアリーウェポン社を襲撃します。今回の戦闘は、今までとは比較にならないほど激しいものになると予想されます。ですが、数々の戦いを潜り抜けたフライングカーペットのクルーならば、必ず生還し、任務を達成できるものと期待しています。それでは、各員、戦闘配備につけ」

 艦長の放送が流れているころ、僕たちは格納庫にいた。

「なあ、(じん)。やっぱ、艦長の演説は、いつ聴いても上手いもんだよな」

「……ああ」

「お前、なんでさっきから鏡なんて見てんだ? そんな趣味、なかっただろ?」

 ちょうどその時、僕はピンク色が主体の、造花でデコレーションされた鏡を見ていた。

「これは、詩亜から借りた。……といっても、押し貸しに近いけどな」

「いわゆる、生きて帰って、ちゃんと返せってやつ?」

「そうだ」

 すると、ベアと国力(グォリー)さんがやってきた。

「だったら、きちんと約束を果たすのだな」

「……あの人を泣かしたら、許さない」

「わかってる。あいつは、僕の生きがいだ。絶対に悲しませたりはしないさ。ところで、そろそろ時間じゃないか? 機体に乗り込んだ方がいい」

 そして全員、各々の機体に乗り込んでいった。未来への希望を、心に抱いて。




(あり)() (れん)、アリババ、出るぜ!」

「……ベアトリス・シンディング、シンドバッド、出る」

(リウ) 国力(グォリー)(チン)(ロン)、出るぞ」

(あら)(しば) (じん)、アラジン、行く」

 ハワイのハワイ島にあるフェアリーウェポン社に近づいたところで、僕たちは出撃した。

 ハワイのフェアリーウェポン社は、火山の中にある。まさに、天然の要塞だ。……というか、要塞そのものだった。

 しかし、僕らはそれ以上に驚くことがあった。

「なんだよ、ありゃ……」

「ドワーフに赤、白、黒の三騎士、それにパンプキンキャリッジとジャール・プチーツァが数十機……」

「明らかに戦闘中、という雰囲気ではないな。むしろ共同戦線を張っている……」

 この異様な光景……。やはり、諜報部が得た情報は本当だったようだ……。

 ここで、艦長から命令が下る。

「作戦の確認よ。私達は少数精鋭だから、中央を一点突破するわ。そうすれば、敵の陣形が乱れるから、戦いやすくなるはず……。その間に、誰か一機が社内に突入、以上よ。では、総員、戦闘開始!」




「じゃ、まず俺からだな。ボイスコード、『開け、ゴマ!』」

 (れん)が発動しようとしているのは、例の『オープンセサミ』、つまりブラックホールをアリババの体内に発生させ、敵を吸い込んで押しつぶそうとする技だ。

 ただ、今回は改良を加えている。

「今だ、ブラックホールシュート!!」

 というと、アリババの体内から、複数のブラックホールが射出された。

 これぞアリババの新兵器、『ブラックホールシュート』。その名の通り、ブラックホールを射出し、その力で敵を潰す。

 ただし、この武装は数十秒で崩壊してしまう。いや、崩壊するように出来ている。

 なぜかというと、アリババの体内で保持するのとは違い、制御が難しいからだ。そのため、射出されてから一定時間で崩壊するようにしないと、最悪の場合、地球を飲み込んでしまうという大事故につながりかねない。

 とはいえ、たった数十秒間だけでも、敵の前衛部隊を崩壊寸前まで追い込むことができた。一応、僕達の突破口になる穴は開けられたわけだ。

「みんな、僕に続け! 突撃だ!」

 そして、僕達は敵陣の中に入り込むことに成功した。




 その後も、僕らは無双とも言うべき快進撃を遂げた。

「ふん、数で押してもこの程度か」

 国力(グォリー)さんは、ヒートウィップで大量の敵を蹴散らしている。なお、このヒートウィップには改良を施してある。

 そもそも国力さんの乗機・(チン)(ロン)は、森林という、戦闘するには非常に狭いフィールドで戦うことを想定して作られている。そのため、搭載されている武装は、木によって攻撃を阻害されないよう、小ぶりにしたり小さめの弾を使っていたりしている。

 だが、それゆえに火力不足や対多数戦に不向きであるなど、欠点も多く抱えてしまっている。それらを解消するため、ヒートウィップの先端にビーム刃発生装置を付け、攻撃距離を従来の三倍にしたのだ。

 また、それ以外に、口部ビームバルカンをビーム砲に付け替えた。さらに、ビームクローに使われているビーム刃発生装置に手を加え、ビームバルカンを撃てるようにしている。




 一方、ベアはというと……。

「……行け、アーマービット」

 すると、シンドバッドの装甲がパージされ、複数の敵機に襲いかかった。

 これが、シンドバッドの新兵器、『アーマービット』。シンドバッドの変形機構を応用して造られた、脳波制御型の兵器だ。

 その詳細は、シンドバッドの外側にアーマービット用の装甲を装備している。これを飛ばすのだ。

 そうすれば、防御力は元のままだし、使用しないときはさらに守りが堅固になる。




「おい、(じん)。敵の第二陣が進軍するようだぜ」

「ああ、わかった」

 さて、そろそろこのアラジンの新装備をお見せするときが来たようだ。

「ビームロッドガンをスナイパーモードに変更」

 よし、敵がよく見える。照準を合わせて……。

「今だ、シュート!」

 そして、遠距離にいた敵は撃墜された。同じ要領で、短時間に何機も墜とされた。

 しかしながら、この狙撃から逃れた連中はまだまだいる。おそらく、前方にいた奴らは、間もなく中距離付近に到達するだろう。

 そこで、このモードで撃破してみることにする。

「バズーカモードにチェンジ。発射!」

 そうすると、高威力のビームがビームロッドガンから発射され、敵第二陣を全滅することに成功した。

 すでに大体察しはつくかもしれないが、アラジンの新装備とは、ビームロッドガンのモードチェンジ機能である。

 簡単に各モードを説明すると、まずライフルモード。これはいつもと同じ能力で、基本ともなる状態だ。

 スナイパーモードは、遠距離の敵に対して有効で、精密射撃が得意だ。ただし、連射は不得手。

 バズーカモードは、近~中距離の敵に有効。高威力を誇り、多数の敵に対して効果的である。欠点は、連射出来ないのはもちろん、状態によってはエネルギーチャージに時間がかかることだ。




 各員が一騎当千の活躍を見せてくれたおかげで、大分敵の数が減ってきた。そろそろ頃合いか。

「みんな、敵要塞に突入するぞ」

『了解!』

 しかし、要塞の一歩手前で思わぬ障害に出くわすことになる。

「ようやく見つけたぞ、少年!」

「あん時の借り、的なもの? 返してやるよ!」

 プリンスフロッグとバーバヤーガ……。淡路島と札幌でそれぞれ戦った、ナヴィーン・スチュアートとレイラ・ヴァレーニフか……。

 エース級の機体を二機同時に相手は、少々キツい……。

(れん)! 敵艦隊に動きがあるぞ!」

「何?」

 見ると、後方待機していた艦隊が進軍を始めている。しかも、僕達を狙っているわけではなさそうだ。

 でも、あの方向は……。

「まさか、フライングカーペットを狙っているのか……?」

 戦況が一気に八方塞がりになってしまった。どうする……?
































~フライングカーペット・ブリッジでは~




「早く、振り切って!」

「やってるが、これ以上は無理だ!」

「後方に敵艦複数、まわり込んだみたいッス!」

 敵艦隊がフライングカーペットにターゲットを絞ってから、窮地に立たされていた。いくら最新型で高性能とはいえ、数で攻められると弱い。

 撃沈も、時間の問題だと思われていた。

「……ここまでだというの……?」

「ダメですよ、艦長が弱音を言っちゃあ」

「え……?」

 あきらめムードが漂い始めたところでブリッジに現れたのは、医務室で療養中であるはずの、天羽(あもう) ()()だった。

「ダメじゃないッスか、詩亜さん。こんなところに来ちゃあ」

「そんなことないよ、由里耶(ゆりや)ちゃん。もう、ほとんど大丈夫だから。ところで栄人(はると)さん、例の装備、使えますよね?」

「あ、ああ……確かに使えるが、あの装備は……」

「そのことは、艦長に判断してもらいましょう?」

 艦長は、しばらく考えた後、口を開いた。

「この艦は、撃沈されるかされないかの瀬戸際に立たされています。本人が大丈夫と言っているなら、打てる手は打っておくべきです。よって、新装備の使用を許可します」

「ありがとうございます!」

「あなたが、この艦に残ると言ったときから、相応の覚悟があることはわかってたわ。ただし、少しでも体調が悪くなったら、すぐに医務室に戻ること。いいわね?」

「はい!」

 そうして、詩亜はブリッジの専用席に着いた。




「脳波制御システム、起動。小型推進機、及びエネルギー送信システム、共にオールグリーン」

 詩亜の報告の後、艦長の号令が下る。

「有線式サブキャノンビット、射出!」

 すると、なんとフライングカーペットに装備されていた八門の副砲が射出された。そして、取り囲んでいる敵艦の死角に素早く入り込み、砲撃。次々と撃沈していく。

 これこそ、フライングカーペットに追加された新装備、『有線式サブキャノンビット』。その名の通り、副砲を有線式のオールレンジ兵器として改造したものだ。

 この装備は、RS(レインフォースソルジャー)でなくなっても、マジック粒子の影響でビット制御が出来る()()のために開発したものだ。

「なんとか活路は開けたみたいね。そのまま全速で包囲を抜けて。抜けたら、敵艦隊の周りを高速で周遊。この状況を利用して、敵を固めさせるの」

「了解だ、艦長!」

 そして、フライングカーペットは一気に包囲を突破し、さらに包囲していた敵艦隊を巡回しだした。

 その結果、艦長の目論見通り、敵艦全てを一ヶ所に固まらせることに成功した。

 すかさず、艦長の口から次の命令が下る。

「機関砲とミサイルを一斉掃射! サブキャノンビットは、本艦の上部と下部から砲撃。それと同時に主砲にエネルギーを充填!」

「了解!」

「りょ……了解」

 艦長の指令通り、一斉掃射が始まった。敵は次々と撃沈していくが、集団の中央付近までは攻撃が届かない。

 そのような状況では、当然、反撃も受ける。

 フライングカーペットは高速で飛行しており、なかなか攻撃が命中しないが、動きを読まれる恐れがあるため、早めに決着をつけたいところだった。

「主砲のエネルギーはどれだけチャージされてるの?」

「八十%ッス! あと三十秒ほどかかりそうッス」

 激しい反撃の中、三十秒という時間は、短いようで長い。下手をすれば、致命傷を受けて撃墜されるかもしれない。

栄人(はると)、きりもみ、切り返し、なんでもいいわ。持てる技術全てを使って、敵に狙いを定めさせないで」

「なんとかやってみる」

 しかし、せっかく集めた敵をバラけさせず、かつ狙いを定めさせないように飛行するというのは、なんとも難しい注文であった。

 だが、栄人はそれをやってのけたのである。

 それでも敵の攻撃が当たりそうになる場面があったが、詩亜の的確なビットさばきで命中する前に撃ち落としていった。

 そして……。

「エネルギー充填率一〇〇パーセント。主砲、打てるッス」

「OKよ、由里耶(ゆりや)。全砲座、敵艦へ。フライングカーペット全ての力、お見舞いするわ」

「了解!」

「はぁ……はぁ……」

「フルバーストシュート、撃て――――――――!!」

 すると、主砲・副砲のみならず、機関砲やミサイルの砲座までもがビームを発射した。

 実は、サブキャノンビットの開発と並行して、実弾を発射する砲座からビームを発射できるようにしたのだ。そして実現したのが、フル出力で敵を蒸発させる『フルバーストシュート』なのだ。

 もちろん、エネルギーを大量に消耗し行動不能になってしまう危険性はあったが、使いどころさえ間違わなければ超強力な武器となる。もちろん、我らが艦長は、使いどころをきちんとわきまえていた。

 その結果、敵艦隊は全て消滅した。




「……残りの敵は?」

「不思議なことに、全ての戦力が撤退してるみたいッス。艦隊が全滅したとはいえ、まだ三割ぐらいしか倒していないのに……」

「だが、(じん)達は要塞内部の突入に成功しているみたいだぜ」

「なら、私達は、彼らの帰りを待ちましょう」

 だが、ここで非常にヤバすぎる事態が発生してしまう。誰かが倒れた音が響いたのだ。

「え……?」

()()さんが……?」

「起きて。起きなさい、詩亜!」

 全員が詩亜の下に集まり、必死で起こそうと試みた。だが、詩亜の意識は戻らない。

「ダメッス、全然起きない……」

「そう言えば、息が乱れた音が聞こえたような気が……」

「彼女、かなり無理をしたのね。早く医務室に運んで。それと、このことはパイロット達……、特に(じん)には伝えないで。今このことを伝えたら、必ず動揺するわ。敵要塞にいる今、そんなことになれば帰ってられなくなる可能性もあるわよ」







 世界連邦と革新連合のエース機、プリンスフロッグとバーバヤーガとの戦闘は、熾烈を極めた。

「貴様の実力はそんなものだったのか、少年!」

「ええい、しつこい!」

 敵のビームレイピアをビームスピアで受けようとした、その時。

「後ろがガラ空きなんだよぉッ!」

「ぐっ!」

 後方から、バーバヤーガのビームマレットで殴られ、左方向に飛ばされた。

「貴様、私の邪魔をするな!」

「あたしは敵の隙を狙っただけ。つーか、あんたの方こそ邪魔なんですけど~」

 幸いなのは、敵の二人、ナヴィーンとレイラはそりが合わず、連携攻撃を仕掛けてこないことだった。

 だが、それゆえに攻撃が読めない。

「ま、いーか。どーせ邪魔が入んなら、入んねーうちにソッコーで決めるだけっしょ!!」

 まずい。こちらの体制が整わないまま、レイラが襲いかかってきた。

 迎撃体制が出来ていなければ、仲間もザコに足止めされて助けに来れない。

 ストレートに攻撃を受けてしまうと思った、その時だった。

「ギャッ!?」

 敵のバーバヤーガが、後ろから何かに引かれたように態勢を崩したのだ。

「……仲間は、やらせない」

 よく見ると、ベアのシンドバッドのビームターバンによって引っ張らているらしい。そして、そのビームターバンをたどっていくと、シンドバッドの姿が。

「ベア、足止めを突破できたのか?」

「……あの程度、楽勝。他の人も、ほら……」

 ベアの指し示す方向から、(れん)国力(グォリー)さんが到着した。

「遅れて悪いね。ここからが巻き返そうぜ!」

「あのバーバヤーガ、ヴァレーニフ准尉が乗っているのか。あれは私が軍にいた時から問題児だと思っていた。今、ここでその性根をたたきなおす!」

 これで、全員そろった。これなら、何とかなるかもしれない。

「さっそくだけど、ベアと国力さんはバーバヤーガを、蓮は邪魔に入るザコを頼む。僕はプリンスフロッグに当たる」

『了解!』




「私と一対一の勝負に出るか、少年」

「あんたもそれを、望んでいたはずだ」

「それもそうだな……。では、いざ、勝負!」

 ナヴィーンはビームボウガンを発射した。

「おっと、らしくない単調な攻撃だな」

 僕はすかさず回避した。

 そのすぐ後、僕はビームロッドガン・ライフルモードで撃ち返す。

「そちらも、らしくない単調な攻撃だぞ」

 予測通り、避けられた。今がチャンス!

「それはけん制。本命はこれだ!」

 そして、僕はバズーカモードで砲撃する。

「ぐあっ! 避けたはずなのに、爆風で吹き飛ばされるとは……」

 あたりはしなかったが、敵は姿勢を崩している。

「この隙に、ビームスピアで……」

 僕は、突進した。そうして、ビームスピアでプリンスフロッグを突き刺そうとしたが、

「甘い!!」

 相手のビームレイピアによって防がれてしまった。

「態勢が崩れたところで追撃をかけるというのは、いい手ではある。だが、反撃されることはなくとも、ダメージを与えられるとは限らんぞ」

 どうやら、ナヴィーンの様なエースパイロットには追撃を防がれてしまうものらしい。

「次は、こちらから行くぞ!」

 ナヴィーンは、ビームレイピアで連続突きを放った。

「くっ……」

 僕はなんとか防御しようと試みたが、瞬速の突きには全て対応しきれなかった。その結果、腕に数ヶ所、ダメージを受けてしまった。

 このままでは、撃墜されるのも時間の問題だ。

「こうなったら……」

 そうやって考えだした苦肉の策が、ビームロッドからマジック粒子を放出し、爆破させることだった。

「なんだと?」

 その策を実行した直後、ナヴィーンの驚く声が聞こえた。

 それもそのはず。すでに奴より遠くに逃げていたのだ。

 さらに、ただ逃げただけではない。

「ここは、アウトレンジ戦法でやってみるか……」

 僕はビームロッドガンをスナイパーモードに切り替え、狙撃を開始した。

「チッ、遠距離からの狙撃だと? 卑怯な真似を!」

「こちらは自分の能力を最大限に生かしているだけだ。他力本願でもないのに、卑怯だといわれる筋合いはない」

 とはいえ、敵はエースパイロット。威力の観点でいえば、決定打に欠けるスナイパーモードでは決着はつかない。

「……少し積極的になってみるか」

 僕は猛スピードで敵に近付いた。

「何っ?」

 これには敵も驚いたようだ。

 その直後、すれ違いざまに斬りつけた。

「でえええぇぇぇぇいっ!!」

「ぐっ!」

 しかし、間一髪でかわされてしまい、致命傷を与えるには至らなかった。




「少しは出来るようになったようだな、少年。その腕前ならば、私の本気……この機体の、真の姿を見せてもいいだろう」

「負け惜しみを……」

「そう判断するかどうかは、これを見て決めるのだな!」

 すると、プリンスフロッグの腕・脚・胴が拡張され、機体のサイズが普通のFF(ファンタジーフィギュア)と同程度になった。その後、口が開き、その中からツインアイカメラが光った。そしてマントが二つに割れ、翼を形成。最後に全身の装甲が剥離し、王子の服を連想させるカラーリングが出現した。

「見たか。これが、プリンスフロッグの真の姿だ!」

「なるほど、プリンスフロッグ……つまりカエルの王子……。その昔話にならって、人間の姿に戻るってわけか」

「その通りだ。そして、この姿になるためには、強い『決意』が必要なのだ。では、この決意、受けるがいい!」

 そう言うと、ナヴィーンはビームレイピアを構えてこちらに突っ込んできた。どうやらプリンスフロッグは、人型になると飛行能力を得るらしい。

 でも、僕が驚いたことは、それではなかった。

「速い……」

 そう、人型になったプリンスフロッグの機動性は、カエルのときとは雲泥の差といえるほど上昇していたのである。

 おかげで、レイピアからの攻撃は防げたものの、奴の体当たりによって遠くに吹っ飛ばされた。

「これで終わりではないぞ」

 今度は、ビームボウガンで射撃してきた。しかも今までにない連射速度で。

「これは、まともに受けられない」

 そう判断した僕は、すぐに退避した。

 でも、それを素直に見届けるような敵ではなかった。

「逃げるのも戦略の内というが、そうであれば阻止せねばなるまい」

 すると、ナヴィーンはクラウンブーメランを投げた。当然、今までのクラウンブーメランとは違った。

 それが僕に近付くと、二つに割れて、腕輪の様にアラジンの左腕に装着されたのである。

「何!?」

 さらに、その王冠からビームの縄が伸び、プリンスフロッグの手に収まったのだ。

 つまり、僕はちょうど、投げ縄に捕まったような状態なのだ。

「さあ、捕まえたぞ。私の元へ来い!」

「うっ……」

 そして、僕は引っ張られた。しかも、相手はビームレイピアを構えている。このままでは串刺しは必至だ。

 僕は何とかして脱出を試みた。しかし、手枷となっている王冠は外せず、壊れもしない。ビームの縄も、断ち切ることができない。

 本気で、ヤバい。そう思って焦っているときだった。

(代われ。脱出するぞ)

「え……」




 気が付くと、僕は意識の奥にいた。

「よう、目が覚めたかい?」

(しん)……)

 そう、いつの間にか心と入れ替わっていたのだ。しかも、見事に脱出し、ナヴィーンとかなり距離をとっている。

(お前、どうやって……)

「Iモードの機動力で無理やりビームロープを引きちぎったのさ。そのあと、あの王冠の割れ目にマジック粒子を注入して、爆発させて外した。完全に破壊できなかったが、手錠としてはしばらく使えないだろうな」

 そうか。心のおかげで助かった、というわけか。

(ところで、あいつをどう攻略する……?)

「ああ、それなら、俺に考えがある。もっとも、それをやるには俺とお前の連携が重要だがな」

 心との連携……。少し前なら、上手くいかなかったかもしれない。でも、()()を助け出す時、あいつは僕に協力してくれた。それに、あいつの事、少しわかった気がする。

 そう、今なら……。

(分かった。それに乗ろう)




(それじゃ、打ち合わせ通りにな)

「わかってる。ビームロッドガン、スナイパーモード」

 僕は、それを相手に向け、そして狙いを定め、撃った。

「その程度の狙撃、私には効かんぞ!」

 僕は数発撃ったが、ナヴィーンはそれを全て回避しつつ、急速にこちらへ迫る。

「心、頃合いだ」

「よっしゃ、任せろ!」

 僕は心と素早く交代した。

「これでも喰らいな」

「なんだと!?」

 これこそ、僕と心が狙っていたものだ。

 種明かしをすると、僕が射撃、心が接近戦を担当する。最初に僕が射撃をすれば、相手はそれを潜り抜けてこちらに接近戦を仕掛けるはず。なぜそう言えるかというと、射撃戦を仕掛けた相手は、すぐに接近戦に対応出来ないことを、多くのエース級パイロットは知っているからだ。

 それを逆手にとり、逆にこちらから猛スピードで接近戦を挑む。そうすれば、相手は驚いて一瞬動きが鈍くなる。そこを狙ったのだ。

 そして、その目論見は見事成功。割と大きいダメージを与えることに成功した。

 また、ダメージを与えた後も、選手交代で僕が操縦する。ある程度距離を取ったところで狙撃を再開するのだ。

「……くっ、また狙撃だと?」

 さすがにここまでかく乱されると、全てよけきれず、何発か当たってしまうようだ。

 そこからはもう、パターンに入った。射撃と接近戦を、意表を突くようなタイミングで切り替える行為を続けた。

「これで、終わりだあああぁぁぁぁぁぁ!!」

 心がとどめを刺そうとした、その時だった。

「まだ、終われるかああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 さすがはエースパイロット、といったところか。間一髪で、心の攻撃をビームレイピアで受け止めたのだ。

 だが、驚くべきところは、そこではなかった。交わる刃から、イメージが伝わってきたのだ。

 それは、ある一人の子供が、他の子からいじめられているイメージだった。


 ――これは、もしかして……?


(しん)、代われ。もしかしたら、ナヴィーンは……)

「ああ、俺も感じた。もしかしなくても、こいつ、夢を持ってる……」

(なら、やることは一つ!)

 パイロット交代し、すばやくナヴィーンから距離を取った。

「ここで間合いを取った? 奴は一体、何をする気だ?」

「それは、今からわかる。さあ、ナヴィーン・スチュアート……、お前の夢は、何なんだああああぁぁぁぁぁぁ!!」




 僕が作り出した記憶の世界では、僕は半透明になり空中に浮いていた。

 その下には、ナヴィーンと刃を交わした時に見たビジョンが、よりはっきりと見えていた。

 その様子は、大勢の子どもたちが金髪の子を取り囲んでいて、暴言を吐いたり、殴る蹴るをしていた。

 止めに入りたいが、身動きが全く取れない。もどかしい思いをしていたその時、自分と同じく半透明の人間が、こちらにやってきた。

 その男は、金髪で、客観的にハンサムだと思える顔立ちで、そして……地上でいじめられている子と同じような面影が感じられる人だった。

「こうして会うのは初めてかな、魔人のパイロット君?」

 だいたい察しはついていたが、声を聞いて確信した。

「お前が、ナヴィーン・スチュアートか……」

「そうだ。ついさっきまで生死をかけて戦っていた、プリンスフロッグのパイロットだ」

 相手の事が分かったところで、僕は聞きたいことを聞いた。

「さっそく本題に入るが……下でいじめられているのは、もしかして……」

「ああ、私だ」

 やはり、何か同じ面影があると思ったら、案の定というやつか。

「では、次の質問。この世界は、夢を持つきっかけとなった記憶を呼び出している。つまり、このお前がいじめられていることと、お前の夢は、どう関係がある?」

「それは……」

 ナヴィーンは答えに詰まった。それだけ思い出したくもないのだろう。


 しばらくして、返答が返ってきた。その答える声には、恨みや悲しみ等、ありとあらゆる感情が押し込まれているように思えた。

「私は……いじめていた連中を……見返してやるために……英雄になりたいのだ……」

「そのために軍に入ったのか?」

「そうだ……」

 その夢は、確かに筋が通っているように思える。でも、僕には矛盾を感じずにはいられなかった。

「軍に入って英雄を目指すということは、戦争における英雄になりたいということだ。だが、それは『たくさん人を殺した』ということ……、要は大量殺人者と言える。そんな英雄になって、見返せると思っているのか? そもそも、他人の、しかも多くの命を生贄にまでしてやることか?」

「それは……」

 また答えに詰まった。この詰まりは、迷いによるものなのだろう。

「迷ってるのなら、今すぐ辞めろ」

「それはできない! このまま何もせずに引きさがってしまえば、私が私でなくなってしまう! お前には些細なことだろうが、私にとっては重大なことだ! それに……」

「それに?」

 まだ理由があるのだろうか?

「以前同窓会に行ったら、あいつら、子供のころから何も変わっていなかった。それどころか、大人の知恵をつけて、犯罪ギリギリの事までやっているようだ。このままでは、周囲の人間に危害が及ぶ! そのためにも、私は奴らを……」

 事態は、想像以上に重大かつ深刻なようだ。なら、ここで一つ提案をするか。

「そこまで言うのであれば、僕に考えがある。僕達に手を貸してくれ」

「何をいきなり……」

「僕達は、この戦争にまつわる重大な秘密を入手した。しかもどうやら、誰かの私的利権が絡んでいるらしい。僕達に協力すれば、その秘密を暴き、裁きを下した英雄になれる。しかも、大量殺人を犯さずにだ。やらない手はないだろう?」

 ナヴィーンは、しばらく目を閉じて考えていた。


 そして――。

「不思議なものだな。つい先まで殺しあっていたのに、こんなに信頼できると思えるなんて。いいだろう、このナヴィーン・スチュアートの力、存分に使うがいい!」




「……少佐! 少佐!」

「……ハッ」

 ナヴィーンは、部下の呼びかけで目が覚めた。

「どうされたのですか、少佐? 先程からボーっとされて」

「……少し、昔を思い出していた。それより、すぐに帰投しろ」

「なぜ、そのようなことを?」

「この戦いに、意義はないように思える。だから、私の責任で戦場を離脱しろ」

「はぁ……。では、そのようにします」

「ああ。それと、私はやることがある。先に行っていろ」

「わかりました、では。」

 こうして、世界連邦の全勢力は撤退した。

「ちょっ、てめぇ、何してんの? それともKYなの?」

 ナヴィーンの命令に、レイラは納得していないようだ。

「私は、これが世界のためだと思ったまでだ。お前も、この戦争に疑問を持っているのなら、すぐに帰れ」

「あたしは、ただ殺したいだけだよ。殺して、殺して、そして楽しむんだよ!」

「こいつ……」

 やはり、あの女の本性は殺人に快楽を感じる人間だったか。

「ナヴィーン、お前の機体は、マジック粒子の効果で修理されている。僕達とともに、あの山姥退治だ」

「了解だ」

 その直後、ナヴィーンはクラウンブーメランを投げた。

「ちょ、何この王冠? チョ~ウザい」

 クラウンブーメランは、見事にバーバヤーガの右腕にはまった。

「今だ! はあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 その後、ナヴィーンは猛スピードでバーバヤーガの周りを周回した。その結果、バーバヤーガはクラウンブーメランとプリンスフロッグの間に発生しているビームロープによってグルグル巻きにされた。

「準備完了! みんな、射撃武器を構えろ!」

「ん? おい(じん)、なんで世界連邦のエースが協力してんだよ?」

「マジックドライヴの奇跡だよ、(れん)。それより、早く構えろ」

『了解!』

「よし、一斉射だ! 撃て――――!!」

 僕の合図により、全員の射撃武器から、ありとあらゆる弾が発射された。

 射撃が終わると、煙の中からボロボロになったバーバヤーガが出てきた。

「認めねぇ……認めねぇよ、こんな展開……。まだ……あたしは……殺し足りて……」

 その言葉を最後に、バーバヤーガは爆散した。


 軍を束ねるリーダーがいなくなったことで、革新連合の部隊は混乱していた。でも、ナヴィーンの的確な指揮により、上手く撤退させることに成功した。

「施設内部は、私が案内する。付いてこい」

「わかった。みんな、ナヴィーンの後を追え」

 僕達は、ナヴィーンの案内で要塞に突入した。




 要塞内では、FF(ファンタジーフィギュア)が侵入できる場所は最初のドッグのみだ。つまり、奥に進むためには生身で進むしかない。

 もっとも、僕らはある程度白兵戦が出来るよう訓練されているので、ほとんど心配はないが。それに、ナヴィーンのおかげで迷子にならずに進むことが出来た。

 ただ、疑問なのは要塞内に衛兵が一人もいなかったこと。何か裏がなければいいのだが……。




 要塞の中心部に到達すると、そこには二人の男性がいた。一人は長身やせ型、もう一人は短身太めだった。

そして、その男性達はどこかで見覚えがある気がした。

 男達がこちらに話しかけてきた。

「ようこそ、アラビアンナイトの皆さん。我がフェアリーウェポン社の施設へ」

「さて、私達が誰だか、おそらく皆さんならお分かりになられていると思いますが……」

 確かに、見覚えがあることは間違いない。でも、記憶がノドのところにつかえて出てこない。

 すると、(れん)が語りかけた。

(じん)、確かこいつらって、フェアリーウェポンと御伽(ユーガー)技研(ジーイェン)のトップだよな?」

 そうだ、思い出した! やせ型の男がフェアリーウェポンCEO、フレデリック・ノーランで、太めの男が御伽技研社長、(ドゥ・)(ジュオ)だ。見覚えがあったのは、以前データで顔写真を見たからだ。

 しかし、お互いに所属が敵対国同士である企業のトップが、なぜ同じ場にいるのだろう? 僕はそのことを問いかけてみた。

「単刀直入に言う。なぜ、敵対国同士であるあんたらが、一緒にいる?」

 その問いには、フェアリーウェポンCEOがすぐに、かつ明瞭に答えてくれた。

「それは、この戦争の開戦理由と深くかかわっている。この戦争は表向き、世界連邦と革新連合の軋轢が生んだものだとされているが、実際は違う。我々の会社の先々代のトップが仕組んだことだ」

 会社のトップが、戦争を仕掛けた……?

「ホホホ、ノーラン氏の言葉どおりじゃよ。実は百年前、御伽技研とフェアリーウェポンの間で極秘に合併話が進んでおったのじゃよ。その計画は、世界の軍需企業ツートップの合併じゃ。つまり、合併した会社のトップに立つということは、世界の軍事を牛耳れる。そして、世界を手中に収めるに等しい地位に君臨出来ることを意味しているんじゃ」

 杜卓の言葉を、ノーランが継いだ。

「そのため、どちらの企業のトップが合併後の企業のトップに立つかについて、もめにもめた。その結果、軍事企業らしい決め方をしよう、ということになった。そして、そのルールの一環として、新型起動兵器『FF(ファンタジーフィギュア)』を開発し、それを用いることにした」

 この時点で、僕には察しがついた。あまりにも浅はかで、命を軽視している、怒りすら覚えるような方法が。

「……つまり、戦争で決着をつけようってのか?」

「ホホホ、察しがそれなりによいらしいのう。まさしく、その通りじゃ。それぞれの所属する国に戦争を仕掛けさせ、勝った方が合併後のトップに君臨する。とてもシンプルで軍需企業らしい決め方じゃろう? もっとも、こんなに長く決まらないとは思わなかったがのう」

「補足だが、役員レベルでの交流は秘密裏であった。一応、合併予定の企業同士なのでな」

 僕は、さらに怒りが増長した。交流があったにもかかわらず、戦争を止めようとはしなかったから。

 だから、殴ってやろうと思って一歩踏み出そうとしたその時、

「待て、早まるな」

 僕を止めてくれたのは、国力(グォリー)さんだった。

「気持ちはわかる。だが、早まってはいかん。考えてみろ、なぜこちらが脅し文句の一つもかけていないのに、あんな極秘事項をペラペラしゃべっている?」

 ……冷静になって考えてみれば、そうだ。あいつらは明らかにしゃべりすぎている。ウソとも思えない。

 そう考えていると(ドゥ・)(ジュオ)がまた話しだした。

「その役員会議も、ここ数十年は形骸化しておった。じゃが、そなたらが世を騒がしてから、なかなか実のある会議に戻ったぞ。じゃからこうして、異なる勢力を集め、防衛に当たらせることが出来たがのう」

「……さて、全て白状したところで、そろそろお別れの時間だ。そして貴様らは知るだろう。なぜ、この施設が火山にあるのかを」

 すると、ノーランは懐から何かのスイッチをとりだした。それと同時に、ナヴィーンが叫んだ。

「まずい、あのスイッチを取り上げろ!」

 しかし、その言葉も虚しく、ノーランはスイッチを押してしまった。

「遅かったか……」

「フフフ、残念だったな、裏切りの将、ナヴィーン・スチュアート。貴様はそこの賊と共に逝ってしまえ。私と杜卓氏は、このまま退散するとしよう」

 そう言葉を残し、ノーランと杜卓は進路を後ろにとり、立ち去ろうとした。その瞬間、

「逃がすかよぉっ!」

(……(しん)?)

 一瞬で身体の主導権が、心に渡った。

(心、アラジンに乗っていないのになぜ?)

「話を聞いてたら、あいつらの事がムカついたんでな。それと、俺が表に出てくるのはアラジンに乗っている時だけっていう縛りはないぜ?」

(言われてみれば、確かにそうだな。では、表に出てきて何をするつもりだ?)

「決まってるだろ? 戦争のラストを飾るのさ。戦争が終わって、平和な時代が来るっていう象徴をな」

 そんな風に言うと、(しん)は金属化した右腕を触手の様に伸ばし、ノーランと(ドゥ・)(ジュオ)を包み込んだ。

「うぐっ?」

「ぐぼぁっ!」

 しばらくして、右手を元に戻した。

 金属の触手からでてきたのは、美しい花々に寄生され息絶えた、ノーランと杜卓であった。

「どうよ? 俺の体内に残っていたマジック粒子を使って作ったんだぜ? 武器商人、そして戦争の中心にいた野郎の、平和の象徴である花に包まれた死体をな。それより、あいつらさっきなんかやってたろ。さっさと逃げたほうがいいぜ。じゃあな」

 そうして、心は心の奥に帰っていった。

「そうだ、トラップ! ナヴィーン、あのトラップはなんだ?」

「あれは、この火山を人工的に噴火させる装置だ。規模は自然のものに及ばないが、周囲を巻き込んで自爆するぐらいの威力はある」

 そうこうしているうちに、施設が揺れてきた。

「まずいな。全員、撤退だ! (れん)、すぐに艦長に連絡して退避させろ。そして合流ポイントについて指示を仰げ!」

「了解! ――もしもし、艦長? これから火山が爆発する。すぐに避難して、合流ポイントを指定してくれ」

「……わかったわ。合流地点は、データで送ります」

「あれ? なんだか元気がないみたいだけど……」

「気にしないで。それより、すぐに要塞から脱出しなさい」




 初動が早かったおかげで、要塞が崩れだす前にドッグにたどり着き、脱出することができた。

 合流ポイントにも難なく到着し、これで全て終わった、と思っていた。あの指示が出るまでは。

(じん)、機体を格納したら、大至急医務室に来なさい」

 フライングカーペットのドッグに入って早々、艦内放送でそのように命令が出た。

 医務室に入ると、我が目を疑うような光景が広がっていた。

「……なんだよ、これ……」

 そこにいたのは、意識不明になってベッドに寝かされている、()()だった。

 艦長が神妙な面持ちで、全てを語ってくれた。

「敵艦隊と戦闘中、詩亜はブリッジに来たわ。私達は健康を気遣って無理しないように言ったんだけど、彼女は強く戦うことを決意したわ。そして、サブキャノンビットを起動させたの。そのおかげでフライングカーペットは窮地を脱し、勝つことができたのだけど、戦闘終了と同時に倒れて……」

「それで、意識不明になったんですか……」

 自分の身もかえりみないで、挙句の果てに心配をかけさせるなんて……バカだ、ほんとにバカだよ、こいつは……。

「……それで、艦長。治る見込みは……?」

「今、所長や本部に問い合わせしているところだけど……」

 ちょうどその時、ブリッジから連絡が入った。

「艦長、所長から返答が入りました。直接お話しをしたいということッス」

「了解。通信を医務室につなげて」

 しばらくして、医務室のモニターに父さんの姿が写った。

「やあ、(さく)(はな)艦長、(じん)。元気そうで何よりだ」

「前置きはいい。それより父さん、()()を救う方法があるのか?」

 この問いに、父さんは断定口調で答えた。

「確実にある。それは、マジック粒子の影響を強く受けたお前にしか出来ないことだ」

「じゃあ、さっさと教えろ」

「うむ。実はマジック粒子の影響を受けた者同士は、接触すると脳波が同調することが判明した。それを利用し、昏睡状態になっている詩亜の脳波を覚醒状態に引きもどし、目覚めさせる」

「なるほど、詩亜に触ればいいんだな」

 ところが、父さんはそのことを否定した。

「いや、それだけでは効果が弱く、目覚めさせることは出来ないだろう。効果を高めるには、皮膚が薄く、血管が近くにある場所同士を触れさせなくてはならない」

「それって、まさか……」

 嫌な予感がした。

「唇だ。昔話によくあるパターンだな」

「……やっぱり」

「まあ、人を救うためだ。それに、お前と詩亜の仲は知っている。今さらとやかく言うことはない。では、健闘を祈る」

 そう言って、通信を切った。

「その方法しかないのなら、私は一時退室するわ」

「……からかわないで下さいよ、艦長」

「別にからかってはいないわよ。終わったら、呼んでね」

 そして、艦長は医務室を後にした。




 ……さて、とうとう医務室には僕と()()の二人きりになってしまった。そして、詩亜を目覚めさせるにはキスしかない……。

 小さい頃には遊び半分でキスしたけど、この歳になってはなかなかハードルが高い。

「……だけど、これしか方法がない。それに、そういう小さい恥のために、詩亜を眠らせたままにしておくわけにはいかないか……」

 ……覚悟を決めた。

 僕は詩亜の頭を抱きかかえ、そして……唇同士を、触れさせた。




 ……それから、どのくらい時間がたっただろうか。もしかしたら一分もたっていないかもしれないが、異様に長く感じる。

 もしかして、目論見が外れたと思い始めた、その時だった。

「う、う~ん……」

 ……詩亜(プリンセス)が、目覚めた。それに気づくと僕は、そっと唇を離した。

「ようやく起きたか。まったく、心配ばっかりさせて」

(じん)……? あたし、一体……?」

 どうやら詩亜は、自分の身に起きたことをよく知らないようだった。

「落ち着いたら話す。今はとにかく、よく休め。それと、無理はするな。詩亜は僕にとって生きる意味そのものなんだから」

「……うん」


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