悲しみの再会
夢をかなえるためには、人の心を知る必要がある――。これは一体、どういう意味なんだろう?
「仁、なにボーっとしてんだよ?」
「……ああ、悪い」
そうだ、今は任務中だ。与えられた任務に集中しなくては。
今、僕たちは神戸にいる。ここの港に、世界連邦の新型FFが搬入されたという情報が入ったからだ。
そこで、その新型を調査し、できれば破壊するというのが今回の任務だ。
もっとも、この任務は工作活動であるため、その方向に特化した蓮のアリババが主体となって動いている。
そういう理由で、僕とベアはもしものための補助要員として、フライングカーペットの格納庫で待機している。
「ところで、現在の状況はどうなんだよ?」
「ああ、今のところ良好だ。なんたって、アリババの光学迷彩とジャミングは強力だからな。それに、警戒もあんましいないようだし」
「警戒があまりいない!?」
艦長が声を荒げた。
「気をつけて、蓮。おそらく、罠である可能性が高いわ」
「最初から油断はしてないよ。光学迷彩とジャミングがあるとはいえ、ちゃ~んとレーダーを確認しているし。ほら、もうすぐターゲットがあると思われるコンテナが見えきたぜ」
後は、敵の新型にジャンビーヤを突き刺してデータを盗み取るだけか。
だが、なんなんだ、この嫌な予感は……? 誰かの悪意と、人間らしさを失った者の気配と、懐かしい感じの混在したような感覚だ……。
そして、事件は起こった。
「ヤバいぜ、艦長!」
緊迫した様子で、蓮から通信が入ったのだ。
「どうしたの?」
「コンテナから新型が動き出しやがった! 明らかに俺に気づいてやがる!」
高度な光学迷彩とジャミングを搭載しているアリババに気づくなんて、いったいどういう敵なんだ……?
「やむを得ないわ、このまま戦闘に突入して。待機中の機体は、すぐに発進して!」
『了解!』
現場についてみると、そこには信じられない光景があった。
確かに蓮と新型が戦闘している。幸いにも蓮の機体は無傷だ。
問題は、敵の大きさである。
その大きさは、僕達の機体の二倍はあろうかという大きさだった。通常のFFがMサイズであるなら、新型はLサイズだろうか。
そのほかの特徴としては、西洋の城にある塔の様なデザインで、脚部にはイバラのようなものが巻き付いている。また、金色をした異常に長い、髪っぽいものが生えている。
到着早々、蓮から連絡が入った。
「みんな、来たな。ちょっとこいつの相手をしてくれ。気になることがある」
「気になること?」
「ああ。さっきからレーダーにぼんやりと何かが浮かんでいるんだ。そいつを探す」
アリババのレーダーは、僕達の物よりも高性能だ。だから、何かステルス機能のある機体が近くにいる、ということだろう。
そして、それを見つけ出すことができるのは、蓮のアリババしかいない。
「わかった。だがその前に、敵の情報は?」
「もうすでに入手してるぜ。ただ、まだ解析が終了していない。データの一部しか送れないが、それでも構わないな」
「わかった」
「……了解」
「おっしゃ、じゃあデータを送るぜ。残りは解析が終わり次第送るからな」
そう言った後、蓮からデータが送られてきた。
「なるほど、機体名は『ラプンツェル』か……」
おそらく、元ネタは『髪長姫』だろう。
だが、その次の情報に衝撃を受けた。
「……!! RSだと……!?」
RSとは、脳波などを強化された強化兵の事だ。アラビアンナイト諜報部からは、フェアリーウェポンが研究していて、まだ実用化されていないと聞いていたが、もう投入してきたとは……。
これで、僕が感じた謎の一つが解けた。
RSは、脳波を中心に全身が強化される代わりに、精神が不安定になってしまうのだ。
つまり、先程感じた人間らしさを失った者の気配は、あの新型にRSが搭乗しているためらしい。
とりあえず、多少は敵の事が分かったところで、攻略と行きますか。
「ベア、あの巨体から察するに、敵は装甲が厚いだろう。キャノン砲で攻めるぞ」
「……了解」
俺とベアは機体を巡航形態に変形させた。
「ビームモルタルキャノン、発射!」
「……ビームキャノン、一斉射撃」
一斉砲撃を浴びせた。もちろん、僕は命中した弾を精神感応で爆発させた。
砲撃が終わり、それによる煙が晴れると、我が目を疑った。
あれだけの攻撃を浴びせたのに、敵はビクともしていないのだ。
「チッ、全然効いてないか……」
「仁、攻撃が来る」
「え?」
ラプンツェルは、その長い髪をこちらに、ものすごい勢いで伸ばしてきた。
その時、新たな敵のデータが送られてきた。
「まずい! あの髪は、ラプンツェルの唯一にして最も厄介な武器だ! そいつは、脳波制御型の有線式稼働砲台で、先端からレーザーが発射される。早く回避するんだ!!」
僕とベアは、とにかく追いつかれないように逃げた。
しかし、追いつかれてしまった。
そのあとは当然、オールレンジ攻撃の標的にされる。
「避けられるか……?」
最初の方は何とか避けられたものの、連続して射撃されるとキツくなってくる。
「くっ……」
「……しまった」
しまいには、二人とも二~三発撃たれてしまった。何とか、この状況を打開せねば……。
……そうだ、この砲台は、確か有線式――。
だとすれば、少々リスクは高いが、何とかなるかも……。
「ベア、人型形態に変形しろ! あれが有線式なら、斬り落とせるはずだ!」
「……やってみる」
僕のアラジンとベアのシンドバッドは、人型形態に変形した。
僕はビームスピアを、ベアはビームシャムシールを振り回す。
「いいか、切り落としながら敵本体に移動するんだ。本体の近くなら、自分自身に当たってしまう危険性があるから、むやみには撃ってこないだろう」
「……了解」
だが、ここで誤算が生じた。
敵の髪を斬ったのはいいものの、なんとその切り口からレーザーが発射されたのだ。
「うわっ」
どうやら、切り落としを想定した設計らしい。
そして、レーザーに被弾して出来た隙を突かれた。束になった髪を鞭のように使われ、たたき落とされたのだ。
「うわあああああぁぁぁぁぁぁ!!」
「仁!」
そしてベアも、僕と同じように落とされた。
「あっ……」
落とされた僕達の前に現れる、収束した髪の毛たち。その先端から、レーザーの光が見えた。しかも、髪が一本のときよりも明らかに威力が高そうだ。
――このまま、終わるのだろうか。まだ、詩亜も探し出せていないというのに。そのためだけに、生きてきたというのに――。
「見つけた! そこか!!」
そんなことを思っていた矢先、蓮が何かを見つけ、ビームサブマシンガンを連射した。
すると、
「しまった!」
なんと、ほうき型のフライングアーマーに乗った魔女型のFFが姿を現したのだ。
そして、僕にははっきりとわかった。あの魔女型のパイロットが、悪意の源あることを。
おそらく、ラプンツェルのパイロットをRSにしたのも、あの魔女のパイロットなのだろう。
「これで終わりだと思うなよ!」
蓮は、すかさずジャンビーヤで連続攻撃を仕掛ける。
その結果、魔女は見る見るうちにボロボロになっていった。
「今だ、仁! 早く新型を!」
「ああ、わかった」
僕は、動きが止まったラプンツェルに攻撃を仕掛けに行く。だが、敵に近付くにつれ、なぜか懐かしさを強く感じた。
ちょうどその時、最期の敵機データが送られてきた。
「なん、だと……?」
その情報を見て驚愕した。そこに書かれていたのは、
『パイロット・天羽 詩亜』
そう、僕は今まで、ずっと探していた人物と、友達と戦っていたのだ。懐かしい感じは、新型に詩亜が乗っていたからだった。
「くそっ、僕は、今まで……」
「しっかりしろ、仁! 新型のパイロットが詩亜なら、やることは決まってんだろ!」
……そうだ、蓮の言う通りだ。あいつがパイロットなら、救出して連れ戻すチャンスは十分にある。
僕は機体情報にもう一度目を通した。幸い、コックピットの位置は判明しているようだった。
「ベア、コックピットを切り出すぞ!」
「……了解」
僕とベアは、コックピットのある頭部めがけて突撃した。
だが、その時。
「あ~もう! なんで存在がバレちゃったのよ。私は戦闘が苦手なのに……。もう撤収よ、撤収!」
すると、辺りが暗い赤色に染まったように見えた。
その状態から元に戻ると、魔女も詩亜も消えていた。
その瞬間、頭の中にイメージが浮かんできた。幼いころの思い出だった。
あの頃は、いつも二人で遊んでいた。お互いの家に泊まったりもした。一緒にご飯を食べたり、お風呂に入ったり、兄弟みたいに仲良く寝たり……。
そう言えば、いつか公園で遊んでいた時のこと。ブランコに乗って遊んでいたけど、あの時、詩亜が何か言っていたな……。
「あたしね、夢があるの。それはね――」