二
二郎三郎が天を仰ぎ、哄笑していた。
「だあーっ、はっはっはっはっ……! 全く、可笑しいったら、ありゃしねえぜ! あれほど苦労して捕まえた麻薬密造組織が、何と、子供だったとはなあ……! 俺は江戸で、色んな悪党を捕まえたが、子供を捕まえたのは、これが初めてだ」
健一は二郎三郎に振り向き、詰め寄った。
「おい! 本当に、あの子供たちが、養生所にいた連中なのか? 何かの、間違いじゃないのか?」
二郎三郎は真顔になり、頷いた。
「ああ、本当だ。捕縛した時は、確かに大人だったが、ここに押し込んでいた間に、子供に変わってしまったんだ。源五郎が証人だ」
源五郎がむっつりと頷き、二郎三郎の言葉を補足する。
「左様。拙者が手下を指揮し、こやつらをお縄に掛けたので御座る。片岡様のお屋敷に拘引した時までは、大人の姿形をしておったのじゃが、このような有様。これから先、どのように処分すれば良いのやら……」
ぶつぶつと呟くように話す源五郎の表情は、困惑に曇っている。
健一は、先ほど自分に話し掛けた少年に注意を向けた。もしかしたら、あの少年が道庵なのかもしれない。
そのつもりで観察すると、顔立ちに面差しが残っている。
「君は道庵なのか?」
健一が尋ね掛けると、少年は軽く頷く。
「ああ。俺は道庵だよ。あんたらのために、俺たち、こんなザマになっちまった……」
道庵と名乗った少年の顔に、怒りが差し上った。少年の姿には似合わない、迫力に満ちた表情である。
「好い加減に、解放してくれないか?」
少年は、ちら、と自分たちを睨みつける番士に目をやり、言葉を続けた。
「ああやって、江戸NPCが監視したままだと、現実へ帰還できない。このままだと〝ロスト〟してしまう。仮想現実の規定では、故意に〝ロスト〟をさせるのは、犯罪行為だと思うがね」
二郎三郎は、呆れたように「へっ!」と肩を竦めた。
「盗人猛々しいとは、お前の言い草だぜ。さんざん、お江戸で犯罪行為を繰り返した癖に、他人に罪を擦り付けるつもりなのか?」
「僕らは未成年だぞ!」
道庵の姿をした少年は、なぜか、子供らしい口調に変わった。
「未成年虐待で訴えてやる!」
二郎三郎は、そっぽを向き、手を上げた。
健一は二郎三郎に質問する。
「なあ、どうして、あんな姿になっちまったんだ?」
健一の質問に、二郎三郎はこりこりと、指先で顎を掻きながら答えた。
「元々、奴らの正体は子供だったんだろ。仮想現実で、無理矢理、大人の姿になっていたんだが、俺が奴らの制御装置を壊したんで、一気に元の姿に戻っちまったのかも」
「制御装置? あの、銅鏡か?」
二人の会話に、道庵少年は叫び返した。
「お前たちのせいだぞ! どうしてくれる? 早く、僕らを解放しろ!」
二郎三郎は、かっとなったように少年を怒鳴りつける。
「うるせえっ! 麻薬密造に、火付けに、未成年不法接続……。これだけやらかして、あまつさえ、解放しろだと? 何を寝言、ほざいてやがる! 甘えるのも、大概にしやがれっ!」
「まさに二郎三郎の言葉通り、我儘にもほどがあるのう……」
落ち着いた声音に、健一が入口に顔を向けると、片岡外記が、入室してくる所だった。
外記の姿に、火盗改頭の源五郎も、億十郎も恐縮して態度を改める。外記は健一と永子を認め、軽く会釈した。
「健一氏、お永殿、両名には迷惑を掛けたのう……。お二人の活躍により、江戸の危機は回避されたのじゃ。拙者、決してお主らを疎かにはせぬつもりじゃよ」
健一は、外記の言葉に見る見る、心中の不安が溶けてゆくのを感じていた。
やはり【遊客】である外記や、二郎三郎には、不思議な記憶喪失の影響は及んでいないのだ……。
外記は子供たちに目をやり、腕を組んだ。
「さてさて、この童たち、どのように処置したら良いであろうなあ……。このまま現実世界へ戻すのは、お咎めなしという結果で、悪しき前例を残す。しかし、江戸の刑罰を加えるのは、同じ【遊客】として忍びない。二郎三郎、お主、何か良い考えはないかな?」
二郎三郎は薄笑いを浮かべた。
「遠島はいかがでしょう? 島流しにして、自給自足の生活を味わわせるので」
外記は二郎三郎の提案に、にんまりとなった。
「それは面白い! そうなれば、江戸から、こ奴等を追い払えるし、後顧の憂いも解消できるであろうな。しかし子供だけで島流しというわけにはならぬ。監督する大人が必要であろうな?」
外記の問い掛けに、二郎三郎と、健一、永子は顔を見合わせた。
子供たちとは言え、相手は【遊客】である。もし監督させる大人が、江戸NPCなら、島流しにして、自給自足の生活を味わわせる目的の前に【遊客】の力で逆襲される心配がある。
監督させる大人は【遊客】である必要がある! それも、長期間監視させるため〝ロスト〟した【遊客】が!
まさか自分たちが、その仕事を引き受けさせられる運命ではないだろうな?




