表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電脳役者~月村健一の意外な運命~  作者: 万卜人
第十四回 大江戸遊客対黒客、最終決戦之巻
83/89

 江戸に戻った健一と永子は、戸惑いを経験した。

 まずは落ち着く場所を求め、浅草にある剣鬼郎の邸を目指した。剣鬼郎の自宅を、二人は当座の住処としているからである。

 が、剣鬼郎の邸には、人気ひとけがなく、静寂が支配しているだけだった。健一が「御免ください!」と声を張り上げても、誰一人として出迎える者はいない。

 剣鬼郎が不在でも、源三はいるはずだと思ったが、その源三の連れ合いもいない。完全に、無人である。

「留守かしら?」

 永子が疑問を口にしたが、留守というより、空き家といった感じであった。

 健一は「さて」と腕を組んだが、良い考えが浮かぶわけもなく、ぼんやりと立っているだけだ。

「村雨座に行ってみよう」

 ようやく目当てを思いつき、健一は永子に提案した。永子は健一の思いつきに賛成した。

「そうね……」

 永子は賛成したが、眉が微かにひそめられている。

 村雨座は、すぐ近くだ。

 急ぎ足になって向かうと、新たな驚きが二人を出迎える。

「あれっ?」

 村雨座の建物を見上げ、健一は首を捻った。

「剣鬼郎の人形がないぜ」

 以前は村雨座入口にそびえていた、村雨剣鬼郎をかたどった巨大な人形が、どこにも見えない。

「それだけじゃないわ。看板がないわ」

 永子の指摘に、健一は入口の看板があった場所を見上げた。

 確かに「村雨座」と書かれた看板が、ない。それに、あれほど大量にあった、剣鬼郎の芝居を宣伝するための幟とか、興行表などが、すっかり取り払われている。

 健一は、村雨座の前を通りかかった一人の娘に、声を掛けた。娘の顔を見て、健一は思わず安堵の声を上げていた。

「あんた、お仙ちゃんだね!」

 剣鬼郎が企画した「別嬪選別大会」に出場した娘である。

「はい、わたしは、仙と申しますが」

 娘は驚いたように両目を見開き、立ち止まった。健一は急いで近づき、しげしげと娘を眺めた。

「憶えていないか? 村雨座で開催された『別嬪選抜大会』の時、俺が審査員になっていたのを」

「村雨座? 選抜大会?」

 娘は訝しげな表情になった。健一は言葉を重ねた。

「ほら、村雨剣鬼郎が企画した……」

 仙という娘は、ますます訝しげな表情になり、心持ち、身を引いた。

「その、村雨剣鬼郎と仰るお方は、何処の誰方で御座いましょう?」

「ええっ?」

 今度こそ、健一のほうが驚いた。

「あんた、村雨剣鬼郎を知らないと、言うのかね?」

「はい。初めてお聞きするお名前です」

 当惑に、健一と永子が顔を見合わせているうち、仙は一つお辞儀をすると、その場を離れていった。

 健一は、ぴしゃりと額を叩いて呟いた。

「何が起きている? 何か俺たちの知らないうちに、とんでもない異変が起きている!」

「ここは本当に、あたしたちの知っている江戸仮想現実なのかしら……」

 ポツリと呟いた永子の言葉を、健一は聞き咎めた。

「どういう意味だ?」

 永子はぐるりと、眼鏡の奥の、瞳を回して見せた。

「馬鹿な思い付きよ! ほら、あたしたちが入り込んだ、あの黒い穴のようなもの。もしかしたら、ブラック・ホールかもと思ったの。安っぽいSFで、良くあるじゃない? ブラック・ホールを抜けると、並行宇宙へ飛び出す、なんて話が……」

 健一は急に、自分の足下が頼りなく、底無しの穴に落ち込んで行くような感覚を憶えていた。

 キョトキョトと、落ち着きなく周囲の眺めを確認する。

 どう見ても、以前に目にした、江戸の町にしか見えない。不安に、拳を固め、カリカリと前歯で噛む。健一の、どうしようもなく不安に襲われた時の、悪い癖だ。

「次に行くのは、どこ?」

 心配そうに、永子が問い掛けるので、健一は必死に知恵を絞った。

「とにかく、養生所で何が起きたのか、あれから後、どうなったのか知るのが肝心だな。もし、ここがパラレル・ワールドだとしたら、養生所の一件は違っているはずだ」

 健一の返答に、永子は頷いた。

「ええ、その通りだわ。それじゃ、養生所へ行くのね?」

「いや」

 健一は、顔を左右に振った。

「その前に、火盗改頭の、酒巻源五郎に会おう! 養生所で何があったか、もし在宅なら教えてくれるだろう」

 火盗改頭の酒巻源五郎の屋敷は、浅草にある。

 永子は感心したような「へえええ!」という声を上げた。

「結構、あんたも機転が回る時があるのね」

「珍しいものを見るような目で見るなよ!」

 健一は永子の賛嘆に、擽ったい気持ちを抑えて肩を竦める。

 しかし、酒巻源五郎の屋敷に到着した二人を迎えたのは、さらなる驚きだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ