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電脳役者~月村健一の意外な運命~  作者: 万卜人
第十三回 決戦! 麻薬密売団対大江戸遊客之巻
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 さすがに、正門を潜る瞬間は緊張する。たった今、酒巻源五郎が気絶するのを、目の当たりにしたばかりだからだ。

 いくら「【遊客】は大丈夫」と外記に保障されても、健一はびくびくもので、正門を潜った。

 息を吸い込み、呼吸を止め、健一は正門を潜り終えた。

 何も起きない!

 やはり養生所は【遊客】のみが通過できる、〝結界〟に包まれているのだ。

 ちらりと背後を振り返ると、億十郎、源三、源五郎、外記たちが心配そうな表情で、健一を見守っている。健一は曖昧に手を振って、再び歩き出した。

 養生所の建物は、薬草園の中に存在する。正門から養生所まで、様々な薬草がびっしり植えられている。以前に立ち寄ったときは気付かなかったが、植えられた薬草の丈は、思ったより高い。

 ほとんど、健一の胸まで達するくらいある。ただし、健一には薬草の知識はないので、何が植えられているのか、見分けがつかない。

 いや……。

 気がつくと、薬草の丈は、健一の胸どころか、さらに頭の上まで達している。大きな葉が突き出し、行く手の景色を遮っている。

 何だ? 何が起きている?

 いつの間にか、健一は密林のような場所に踏み込んでいた。

 慌てて背後を振り返ると、養生所の正門は全く見えなくなっている。背後もまた、鬱蒼と繁った葉に塞がれていた。

 空を振り仰ぐと、そこもまた様々な葉っぱが、みっしりと繁茂している。前後左右、上下と、植物が覆い被さるように占有していた。

 まるでジャングルだ!

 植物相は、健一の乏しい知識では熱帯樹林のように見える。

 板根ばんこんと呼ばれる、平たい根茎が大樹を支え、その周りに蔦植物が纏いついて、下生えには苔らしきものが生えていた。

 気のせいか、空気はねっとりと粘っこく、気温も上昇している。

 ぎゃあぎゃあぎゃあ……。

 遠くで鳥だろうか、それとも野生の猿だろうか、未知の生き物が死に物狂いで鳴き叫ぶ声が聞こえていた。

 罠……?

 二郎三郎の言葉が胸に蘇る。

 確かに、罠のように、思える。小石川養生所の薬草園が、どのような手段でか判らないが、一瞬で様変わりしてしまった。

 或いは、健一自身が、熱帯雨林に移動させられたのか。

 いや、後者は有り得ない。

 江戸仮想現実の空間は、日本列島の総てを再現するほど、巨大ではない。ましてや、熱帯地方を包括するほどの広さを持っていない。

 つまりは、位置的には移動はしていない。〝結界〟の内部だけ、眼前に見るような、熱帯の世界を再現していると見たほうが、妥当だろう。

 ならば、まだ、養生所の建物は存在するはずだ。

 健一は以前の記憶を頼りに、養生所の建物があるはずの方角を目指し、歩き出した。

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