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電脳役者~月村健一の意外な運命~  作者: 万卜人
第十三回 決戦! 麻薬密売団対大江戸遊客之巻
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 小石川養生所の正門が見えてくると、門前に片岡外記と、億十郎、源三の三人が待っていた。二郎三郎と永子の姿が見えない。

 火付盗賊改頭の、酒巻源五郎を従え、健一は早足で近づく。源五郎は馬上である。番士が口取りで従っている。

 源五郎の馬が足掻き、壮んにふいごのような息を吐いている。健一の駆け足は、馬でさえやっと従いて行くほどの速度であった。

【遊客】が本気で走ると、馬など置いてきぼりにされるほどの、速力が出る。

「二人は?」

 健一が声を掛けると、三人は顔を見合わせた。

「鞍家殿と、お永殿は、すでに邸内に入っております」

 億十郎が相変わらず、四角張った返答をするのを耳にして、健一は首を捻った。

「なんで、あんたらは入らない? 俺を待っていたのか?」

「いや」と、外記は眉を顰めた。

「それが、入れないのだ。少なくとも、源三と億十郎の二人は」

「へえ?」

 健一は思わず、頓狂な声を上げていた。いったい、何が起きている?

「月村殿。この中に、麻薬組織の連中が居るので御座るな?」

 背後から、せかせかした調子で源五郎が話し掛けた。健一が無言で頷くと、源五郎はきっと門を睨みつける。

「ならば、ここで一刻の猶予もならぬ! 拙者、お先に失礼致す!」

 叫ぶと、ひらりと下馬し、地面に飛び降りて正門に突入した。

「わっ!」

 門に突入した源五郎は、まるで感電したかのように、棒立ちになった。

「どうしたっ!」

 健一が近づくと、源五郎は門前で仁王立ちになっている。そのままぐらり、と背後に倒れ込む。

 健一は、源五郎の身体を背後から支えて、脳天が地面に激突するのを防いだ。

 源五郎は白目を剥き、口から蟹のように泡を噴いていた。

 完全に気絶している。

 そのまま、地面に横たえてやった。億十郎が近づき、源五郎の上体を起き上がらせ、活を入れる。

「う~む……!」

 源五郎は唸り声を上げると、息を吹き返した。キョロキョロと、周囲を見回し、はあはあと荒い息を吐いた。

 健一は、静かに話し掛けた。

「何があった?」

 源五郎は健一を見上げ、首を何度も振った。袂から手拭を取り出し、額の汗を拭う。

「判り申さぬ。門を潜ろうとした瞬間、何やら、衝撃が全身を駆け巡り、後は何が何やら判らなくなり申した……」

 外記を見ると、ゆっくりと頷いた。

「そうなのだ。養生所には、目に見えぬ障壁が設けられておる。結界かも、知れぬ」

「それで、何で二郎三郎と、永子は入れたんだ?」

「【遊客】には、影響ないのだ。どうやら、【遊客】のみが、この内部に入れるようじゃな」

「つまり?」

 健一は外記の目を見詰め、質問した。が、外記が答えるまでもなく、解答はすでに脳裏に浮かんでいた。

「つまり、江戸NPCは入れない。億十郎と源三は、ここでお主を待つしか、なかったのじゃよ」

「ふうん。そうか……」

 健一は腕組みをして、正門を見た。

 見たところ、何も変化は感じられない。しかし源五郎の反応から、確かに何らかの障壁があるのは、確実だろう。

 外記は健一の表情を窺うように、口を開いた。

「拙者は荒事は苦手でな。ここで二郎三郎たちを待つ決意をしたのじゃ。いずれ勘定奉行様と、町奉行の、養生所廻り与力と同心が駆けつけるはずじゃ。じゃが、その中に【遊客】は一人もおらぬ。従って、ここで手を拱いているしか、ないのじゃよ」

「つまり、俺が行くしかない――と、あんたは言いたいのか?」

 健一は門を睨んだまま、ぼそりと答えた。外記は大いに頷いた。

「左様。お主が蛮勇を奮うと、期待しておるのじゃよ」

 健一は思わず、外記を見やった。

 外記は微笑を浮かべて、健一を見ている。冷徹な政治家らしい表情だが、健一はすでに決意を固めていた。

「そうだな。あんたの言う〝蛮勇を揮う〟ってのを、やって見るか!」

 健一の決意を見て取り、源三が声を掛けた。

「お気をつけて……月村の旦那」

 健一は「うん」と頷くと、大きく足を挙げて、正門へ歩き出した。

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