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電脳役者~月村健一の意外な運命~  作者: 万卜人
第十二回 唖然! 江戸仮想現実麻薬密売団驚天動地之目的之巻
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「罠だ!」

 言下に言い切ったのは、二郎三郎である。

「何の企みか想像もつかないが、これは罠だ! 俺たちを誘い込むための、罠に決まっている!」

 億十郎が、重々しく二郎三郎に尋ねた。

「では、いかが致す? このまま、何もせず、手をこまねいておるので?」

「違う! 罠と知りつつ、それに乗るのも、この際、一興だ。まあ、何とかなるさ」

 二郎三郎は相変わらず、楽天家としての表情を見せた。

 そう言えば、二郎三郎は今まで、一度たりとも健一たちの前で弱気な言動を見せたりはしなかった……。

 健一は、ちょっぴりだが、鞍家二郎三郎に対し、羨望を覚える。あんな自信が、自分にもあれば良いのに。

「だが、むざむざ罠に掛かるのは面白くねえな……。おい、源三!」

「へいっ?」

 突然に名前を呼ばれ、源三は目が覚めたような顔つきになった。

「お前はすぐ、火付盗賊改と、片岡外記様のお屋敷へ急いでくれ。事情を話し、後詰ごづめを頼むと伝言してくれろ。片岡外記様なら、勘定奉行に話を通じて貰える。相手は【遊客】だ。町奉行では、相手にならねえ」

 二郎三郎が一気に命令を下すと、源三は生き生きとした物腰を見せた。

「お任せ下せえ! これから一っ走り駈けて、鞍家様の伝言を、必ずお伝え致します!」

「頼んだぜ……おっと、忘れ物だ!」

 二郎三郎は、健一の手からシナリオを引っ手繰り、源三に渡した。呆気に取られている健一に向かって説明する。

「証拠だ! こいつを勘定奉行に見せれば、一発であいつらの企みが明白になる」

 健一は「なるほど」と大きく頷いた。

 源三が出口へ行きかけた、その時、健一は思い切って、背中に声を掛ける。

「待った! 源三……」

「へ?」

 源三は「何だろう?」という目つきになって、健一を振り返る。健一は口を開いた。

「火付盗賊改のほうは、俺が引き受ける。お前は、片岡外記様のお屋敷へ急いでくれ」

 健一の言葉を、二郎三郎は聞き咎めた。

「おい、健一、あんた何を……?」

「先に、養生所へ向かってくれ! 後で合流しよう!」

 言い捨て、健一は足を急がせた。

 ちらりと背後を振り返ると、二郎三郎が呆気に取られた顔つきになって、健一を見送っていた。

 健一は、ある覚悟を決めていた。

 それにどうしても確かめたい、緊急の要件があったのである。

 自分は【遊客】として、この江戸で暮らして行けるのか……?

 そのために、火付盗賊改の屋敷に向かうのだ。まかり間違えば、自分はお咎めを受けるだろうが、これはある意味、賭けでもあった。

 村雨座の外へ出て、源三と別れ、健一はまっしぐらに火付盗賊改の屋敷へと駈けていた。

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