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電脳役者~月村健一の意外な運命~  作者: 万卜人
第十回 急転! 江戸仮想現実麻薬密売組織疑惑之巻
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 あと一日半……。

 剣鬼郎が〝ロスト〟してしまうまで、三十時間を切った。健一は、じりじりとした焦りを感じていた。

 本音を言うと、剣鬼郎が〝ロスト〟しようが、どうしようが、健一にとっては、痛くも痒くもない。所詮、他人事である。

 たとえ〝ロスト〟しようと、現実世界の剣鬼郎は、掠り傷一つなく、健康なまま、無事に目覚めるだろう。単に、仮想現実での記憶を失うだけで、本人は何があったか、さっぱり判らずじまいのままだ。

 後は、健一が口を拭っていれば良い。

 しかし仮想体験劇『剣鬼郎百番勝負』の主役である剣鬼郎と、監督の健一が〝ロスト〟の原因について、何もわだかまりなく、仕事が続けられるとは、どう考えても想像できない。何かと剣鬼郎は、自分の〝ロスト〟について、質問してくるだろう。

 健一も、首尾一貫した嘘をき通すなど、無理に決まっている! だから、何とか、剣鬼郎を救い出さねばならない。

 剣鬼郎一座で、麻薬中毒患者の【遊客】が死亡していたのは、確実に何かの手懸りだ!

 麻薬密売組織は剣鬼郎一座の火事と、どこかで繋がっている可能性がある……。

 ――とまあ、ここまでは二郎三郎と、億十郎、健一たちの一致した意見である。さて、その手懸りをどう探るかについて、健一は五里霧中、暗中模索といってよかった。

 まあ、自分でやれる方法を、手探りでも続けるしかないが……。

 健一は行く先々で、記録をしている。仮想現実を構築する、広大な記憶エリアに、自分が目撃したあらゆる出来事を、記録しているのである。

 今、健一は、現実世界へ戻り、自分の記録を再生していた。

 個人用の仮想現実接続装置に、健一自身の記録を再生させ、システムに照合作業を命じている。

 今までの記録を、そのまま頭から再生していては、時間が足りないので、顔照合プログラムを使って、検索を掛けている。

 つまり、同一人物のチェックである。

 これで何か、目新しい事実が掴めると期待しているわけではない。しかし、仮想体験劇を作成するときは、不可欠の作業だ。

 様々な場面で、背後に無数の群衆が登場するが、その中に、同一人物が複数の場面に顔を出していないか、チェックするのである。

 小うるさいファンの中には「あそこと、あそこの場面で、何人、同じエキストラがいるぞ!」などと、指摘する奴がいる。

 そこまでは、健一だって、細かく把握はできない。だから、顔照合プログラムで確認して、別の顔を差し替えたりの変更を加えるのである。

 目鼻の位置、間隔は、いくら変装しても誤魔化せない。人間の目では把握できない相違も、プログラムなら自動的に照合できる。

 暫く待つと、プログラムが総ての場面で照合を終えたと、表示される。

 仮想現実で展開するマルチ・スクリーンに、今までの結果が表示される。健一の視界総てを、重複した顔がマーキングされ、幾つもの画面に分割されていた。

 その中から、お馴染みの顔──健一、永子、剣鬼郎、二郎三郎など、捜査仲間を除外していく。仮想現実の中で、健一は両手を差し上げ、指揮者のように腕を振って画面を消去してゆく。

 健一の腕が、ぴたりと止まった。

 空中に腕を差し上げたまま、健一はまじまじと、瞬きもせず、目の前の画面を見詰めていた。

 この顔は──。

 剣鬼郎一座と唐人町の両方に同じ人物が顔を出していると、プログラムは健一に告げていた。

 若い男である。

 ようやっと、仮想現実に接続許可が出たばかりくらいの、年齢に見える。

 剣鬼郎一座では、一座の役者として出演している。つまり剣鬼郎の、現実世界でのファンだという触れ込みで、紹介された。

 その時は、さして気にも留めず、記憶すらしていなかった。

 ところが、もう一方の場面――唐人町の、針鼠の仙蔵の居場所にまで顔を出しているのだ。仙蔵の手下のようだが……。

 服装や、髪型は変えているが、顔照合プログラムは誤魔化せない。

 健一の胸に、むくむくと疑惑が、黒雲のように湧き上がる。

 まさか、剣鬼郎自身が、麻薬取り引きに関係しているのでは?

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