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電脳役者~月村健一の意外な運命~  作者: 万卜人
第二回 驚天動地! 新居関所通行手続後江戸入府之巻
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 まさか、村雨剣鬼郎が同行する展開になるとは、健一の頭には一切、これっぽっちも浮かんではいなかった! 剣鬼郎はすっかり『剣鬼郎百番勝負』の新作撮影のためと、一人合点している。

 健一の隣で、永子がこそこそと耳打ちをした。

「どうすんのよ! 結局、あいつが引っ付いてくる羽目になったじゃないの!」

 江戸仮想現実の、新居あらい関所へ向かう道を、健一と永子は、とぼとぼと歩いている。江戸時代には、東海道を守る関所として、新居関所は、箱根と並ぶ重要拠点だった。

 しかし仮想現実では、現実世界から接続するプレイヤー……おっと、ここでは【遊客】と呼ぶのだった……が、最初に立ち寄る場所でもある。

 最初に関所で登録を済ませれば、次回からは、江戸のどこでも好きな場所から接続できるシステムになっている。

 二人の後ろから、村雨剣鬼郎は、のんびりといてくる。現実世界と違い、今の剣鬼郎は、身長六尺以上で、筋骨隆々とした逞しい身体つきを誇っている。

 顔つきも、理想化されていて、ただ黙って立っているだけで、圧倒的な迫力を発散させている。

 ちら、と背後を振り返り、健一は永子に囁き返した。

「大丈夫ですよ! まあ、撮影には立ち合わせますが、編集のときに、ばっさり剣鬼郎のデータを消去する処置を加えますから……」

 仮想現実で行う撮影では、あらゆるデータが立体映像で記録される。従って、編集作業で、ストーリー上、邪魔な人物や、物体を消去する処置は、常になされている。

 今の場合、剣鬼郎が写っている場面に手を加え、存在しなかった状態に編集するのだ。

 永子は疑わしそうに、眉を持ち上げた。

「そんな手に、あいつが引っ掛かるかしら? 後で、面倒事が起きなければいいけど」

 二人は江戸仮想現実に接続するため、江戸時代の町人に姿を変えている。

 もっとも健一は、肉体的には変更を加えていない。身につけているのは、和服で、旅慣れた町人らしい姿形になっているだけだ。

 永子というと……。

 やはり、女である。現実の永子からすると、少々……いや、大幅に変化している。

 まず、年齢が十歳は──うーむ! 健一は、永子の年齢は、二十歳は若返っていると踏んだ!

 背も少し高くなっていて、全体に肉付きが良くなっている。特に胸の辺りは……。

 健一は慌てて、永子の胸から視線を引き剥がした。現実世界での永子を知っているだけに、妙な気分だ。

 髪の毛は江戸時代らしく、日本髪にしていて、日除けのため手拭を載せていた。商家の女将、といった風情である。

 可笑しいのは、仮想現実のキャラクターになってさえも、眼鏡を架けている姿だ。永子の弁では、こうしていないと落ち着かないからと説明した。

 健一は、密かに、永子が自分の眼鏡を架けた顔に自信を持っているのではないかと、思っている。

 日盛りを、二人は関所を目指している。地面は乾ききり、ぽくぽくとした土埃が、踏み締めるたびに、上がる。

 道を歩くと、時々、旅人とれ違う。東海道は江戸時代の主要幹線道路で、仮想現実の江戸でも同じである。

 旅人たちは村雨剣鬼郎に気付くと、皆、一様に丁寧に頭を下げ、会釈して擦れ違った。

 健一は剣鬼郎に振り返り、話し掛けた。

「皆、挨拶して行くが、あんたの知り合いかな?」

「いいや。俺が【遊客】だから、挨拶するんだ。江戸仮想現実では、町人、侍の区別なく【遊客】は尊重されるのさ!」

 健一は振り向いた姿勢のまま、立ち止まった。

「随分と詳しいんだな?」

 剣鬼郎も立ち止まる。にやっと笑って、背筋を伸ばした。

「当たり前さ! 俺は、こっちの仮想現実に接続して、長い。いわば、江戸仮想現実の先輩だ。何でも聞いてくれ!」

「何だって……」

 健一は、意外な剣鬼郎の内情暴露に、俄かに不安感が増すのを感じた。

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