三
鞍家二郎三郎の爆弾発言に、全員わっとばかりに口を開く。
「【遊客】が中毒患者だって? わざわざ、この江戸仮想現実に、麻薬に溺れるために接続しに来たってわけか?」
健一の発言に、永子が素早く口を挟んだ。
「それじゃ、江戸町人たちは無関係なの? 麻薬に冒されているのは、【遊客】だけなのかしら?」
二郎三郎は永子の言葉に、首を細かく何度も左右に振った。
「いいや、江戸の人間も、麻薬に溺れているのは、間違いねえ! 品川の女郎屋と、剣鬼郎の芝居小屋で発見された二人は【遊客】の、同一人物だ! 同じ一人が、何度もこの江戸にやって来ちゃあ、麻薬を射っているに違いない。恐らく、混じり物の多い、酷い代物だろう。麻薬ってやつは、混じり物が多い場合、時として命を奪うものなんだ」
健一は一つ疑問が浮かんだ。
「【遊客】は、麻薬中毒になるものかな?」
ふと漏らした疑問だったが、二郎三郎は一瞬、絶句して考え込んでしまった。
「そうだ……。その点が肝心なんだ。【遊客】ってのは、普通のNPCに比べて、体力、精神力、どちらも大幅に優れている。例えば、【遊客】は、仮想現実では、絶対に病気に罹らない! 多少の毒物を呑んでも、けろりとしている……。それを考えると、麻薬を注射しても、そうそう中毒にはならないはずなんだが……」
それまで腕組みをしていた片岡外記が、ぽつりと呟いた。
「なぜ、その【遊客】たちを、そなたらは感知できなかったのかな?」
外記の言葉に、健一、二郎三郎、永子の三人が顔を見合わせた。
「【遊客】は、【遊客】を感じ取る……」
健一が呟くと、二郎三郎は大いに頷いた。
「そうだ! 俺たち【遊客】は、お互いが近くにいれば、すぐにそれと判る。そうでないと、色々と困った事態になるからな……。なぜ、麻薬中毒の【遊客】を、俺たち感じ取れなかったのかな……?」
永子がぽん、と膝を叩いた。
「【遊客】の気配を消していたんだわ! あたしたちの知っている中に、【遊客】の気配を消す術を知っている人が、いたじゃない?」
全員の頭に、同じ名前が浮かんだようだった。健一と、永子の視線が向かうと、二郎三郎は思い切り顔を顰めて見せた。
「あいつに、何か尋ねるってのか?」
「そうだ。それができるのは、二郎三郎さん。あんたしか、いないよ」
健一が可笑しさを堪え、真面目な口調で答えると、二郎三郎はがっくりと首を垂れた。
「吉奴に、わざわざ俺が会いに行くなんて、考えもしなかった……! 何てぇ災難だ!」
二郎三郎は、本気で嫌がっていた。




