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電脳役者~月村健一の意外な運命~  作者: 万卜人
第七回 妖艶! 仮想体験劇出演決定美少女之巻
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「まあ、落ち着きなよ。何も、俺は養生所が麻薬の巣窟だなどと、与太を言うつもりじゃあ、ないんだ」

 鞍家二郎三郎は、激昂する小倉道庵をなだめるように両手を動かし、落ち着いた声音で話し掛けた。

 道庵は、憤然としていたが、それでもどっかりと座り込んで、聞き入る姿勢を取る。

「し……しかし! 養生所に使われている一部の薬に麻薬成分が含まれているのは、確かだ。お主、本当に当所に疑いを掛けておるのではないのだな?」

 二郎三郎は、否定の意味で、首を振った。

「ああ、疑いは持っていねえ」

 道庵は上目がちに、二郎三郎に問い掛ける。

「どのような麻薬が蔓延はびこっていると、お主は考える?」

 二郎三郎は目を光らせ、頷いた。

「それはまだ、判らねえ。だが、あんたの所で、近ごろ妙な患者が増えていると、小耳に挟んだものだから、やってきたんだ。どうも、俺の印象では、麻薬中毒患者のように、思えるが?」

「ふむ?」

 道庵は、完全に、疑いが掛けられているのではないと、判断したようだ。急速に、怒りが収まった。顔色が平常に戻り、呼吸は静まった。

 健一は、億十郎に注意を戻した。

 億十郎は、太い息を吐き出す。今まで道庵による【遊客】の怒りの爆発に、呼吸もできなかったらしい。

 この中で江戸NPCは、大黒億十郎と、紗霧の二人だけのはず。紗霧からは【遊客】特有の、気迫がこれっきりも、感じられない。

 しかし紗霧は、道庵の怒りの爆発にも、まるで平気だった。億十郎は、剣術の修行の成果によるものか、それでもかなり耐えられるほうだが、それでも道庵の怒りが続いている間は、顔を上げられずにいた。

 じわじわと、紗霧に対して疑惑を育てた健一だったが、道庵の呟きに気を取られる。

「確かに……お主の言うとおり、近ごろ、おかしな患者が増えておる。陽気のせいばかりでは、なさそうだな」

 道庵は、太い腕を組み合わせ、考え込んだ様子を見せた。

「どんな患者なんだ?」

 二郎三郎の言葉に、道庵はぐい、と太い眉を持ち上げた。

「拙者があれやこれや説明するよりも、直に確かめたほうが早い! 従いてまいれ。患者の数人に、会わせよう」

 健一は、永子と顔を見合わせた。

「大丈夫?」

 永子は疑い深そうに、囁く。健一は、肩を竦めた。

「大丈夫──だと思いたいね」

 麻薬患者との対面など、初めてである。何事も初めて、というのはあるが、こんな経験は、予想外だった。

 二人のひそひそ話をよそに、道庵はさっさと立ち上がり、歩き出す。

 二郎三郎、剣鬼郎、億十郎は頓着する様子も見せず、後に続いた。

 紗霧は──ちょっと怯えが見える。

 妙な娘だ。道庵の怒りには平気な顔をしていたのだが、今度は怖がっているようだ。

 健一と永子は、座を立った。

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