四
どう言ったら判って貰えるのか……。
健一は途方に暮れた。億十郎の胸には、どうやら、どっしりと、公儀転覆計画が居座ってしまっているようだ。
億十郎に渡したプロットが、架空の話で、ただの芝居の筋だという【遊客】の常識を伝える方法があれば……。
その時、永子がつかつかと近づき、膝を突くと、剣鬼郎に囁いた。
「剣鬼郎。あんた、この芝居小屋で、何か興行を打つらしいわね。どんな芝居を上演するつもりだったの?」
「そりゃ、まあ……」
のろのろと剣鬼郎は答える。
「江戸NPCに理解できるような、村の娘を拐わかす山賊を退治するとか、桃太郎の鬼退治の続きを、俺がやるとか、まあ、そんなものだ……」
「先週やったエピソードを、ここで上演できない?」
剣鬼郎は疑い深い目付きで、永子を見詰め返した。
「永子さん。あんた、何を考えているんだい?」
健一も同じだった。永子には、何か考えがありそうだが……。
永子はぐるりと、楽屋を見回す。
「健一、気がつかない? ここには、あたしたち以外【遊客】が沢山いるみたいよ」
言われて、健一も気がついた。剣鬼郎の回りを取り巻いている、役者たち。役者たちからは、【遊客】であるという、はっきりとした気配が感じ取られる。
【遊客】は、【遊客】を感じるのだ。
「剣鬼郎。ここにいる役者たちは?」
「ああ、俺のファンクラブに入っている会員たちさ。俺が仮想現実で、芝居小屋を立ち上げるとき、一緒に従いてくれた連中だ」
「ええっ!」
健一は驚きに、剣鬼郎の周囲を見回す。全員が健一の驚きを見て、忍び笑いを返した。
永子は早口で説明する。
「つまりね、先週撮ったエピソードを、ここで上演するの! それを億十郎に見せて、芝居だって納得させるのよ! 役者たちが【遊客】なら、あたしたちの意図を理解させるには、何の障害もないでしょ?」
そうか……!
健一は、永子の提案に、思わず膝を打った。うまく行くかもしれない!
剣鬼郎も同じ結論に達したらしく、健一に向かって、強く頷いた。
永子は億十郎を振り向き、飛びっ切りの笑顔を作った。
「ねえ、億十郎様。一つ、剣鬼郎さんのお芝居、観劇いたしません?」
億十郎は無表情を保っていたが、両目は驚きを隠せず、大きく見開かれていた。




