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電脳役者~月村健一の意外な運命~  作者: 万卜人
第四回 好漢! 御家人大黒億十郎仮想体験劇出演交渉之巻
18/89

 大きい!

 江戸NPCには考えられない、雄大な体躯の持ち主である。身長は軽く六尺はある。逞しい身体つきで、太い眉、鋭い眼光。

 健一は思わず「時代劇の主役にぴったりじゃないか!」と感想を持った。

 永子も同じ感想を持ったようで、ちらっと健一を見て、微笑を浮かべて頷く。

「では、こちらへ」

 億十郎が二人を屋敷内に誘った。

 先に立つ億十郎の広々とした背中を見ながら、健一は物珍しげに屋敷の中をきょろきょろ観察していた。

 内部からは大人数の立てる、物音と話し声がしている。鼻に、墨の匂いが漂った。時々、会話が耳に入る。

「この頁は一色刷りでよろしいので?」「ああ、次は二色でやるから、朱色を用意しておけよ」「判りました」

 何をやっているのだろうと、健一は障子をそっと動かして、覗いて見た。

 見ると、大量の版木が床に並べられ、幾人もの職人が、馬簾ばれんを持って紙を刷っている。別の場所では、刷り上った用紙を綴じて、製本をしていた。

 ぼうっとして見ていると、億十郎が説明をしてくれた。

「拙者の住まいでは、製本の内職をしており申す。組ごとに集まって、版木を彫るところと、こうして墨を刷る場所、刷り上がった紙を綴じる作業まで、一貫して行って御座る」

「ははあ!」

 健一は頷いた。何でも、江戸時代の御家人の暮らしは貧しく、色々な内職をしなくてはやっていけなかったそうだ。

 永子が、興味深げに質問する。

「浮世絵を刷っているのですか?」

 億十郎は頭を振った。

「いや、浮世絵のような多色刷りは、ここではやっておりません。せいぜい、二色を使うのが精一杯で。多色刷りをやるには、ここでは設備が足りませぬからな。こちらで刷っているのは、主に漫画本で御座る」

「漫画本!」

 意外な返答に、健一と永子は同時に声を上げていた。億十郎は素早く室内に足を踏み入れると、製本が済んだ一冊を取り上げた。

「このような本を作っております」

 渡された和綴じの本をぱらぱらとめくると、まさに漫画だった。四角い枠の中に、人物や背景が描かれ、吹き出しに台詞が書かれている。

「お二人は【遊客】とお手紙には書かれておりましたが、江戸に【遊客】の方々がいらっしゃるようになって、このような漫画本が売り出されるようになりました。それまでは、滑稽本などがありましたが、今では漫画が取って代わっておりますな!」

 まったく江戸仮想現実には、驚きが詰まっている。まさか江戸の町で、現実世界と同じ漫画本があるとは、思いもよらなかった。

 億十郎は、廊下の突き当たりにある、三畳ほどの部屋に二人を案内した。あまり日当たりが良くない場所にあり、片隅に布団が畳まれ、億十郎の差料が並べられている。床は畳ではなく、板張りである。

 どうやら、ここが億十郎に与えられた部屋らしい。部屋住みというから、ここで寝起きしているのだろう。

 三人が腰を下ろして、億十郎が口を開いた。

「さて、お二人のお話を承り申す」

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