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第七話 今後の予定と結束と

 屋上に出ると、思ったよりも風が強くてビックリした。

 変態に思われたくないから、まるでゴミでも入ったかのように目の辺りに手をあてて視線を隠す。


 そして桃源郷がどこかに広がっているのではないかと目を凝らすが、女の子は誰一人とてスカートに手なんて押さえていなかった。どうやら不用意に持ち上がらないように魔法のコーティングがされているらしい。なんだそれ、作ったやつ出てこいよ。日本中の男の子が相手になるぜ。


「ゆっちー! (けい)ちゃーん! こっちこっち!」


 屋上の隅の方でニコニコしながら手招きする智佳(ちか)さん。足元には既に弁当箱が二つ広げられており、一足先に昼食の摂取を始めているようだ。もちろん、彼女のものだけではなく俺のも含めて咀嚼されてしまっているのは言うまでもない。


「このお野菜おいしいね、お母さんに満足であったと伝えておいてよ」


 頬に一杯食べ物をつめながら智佳さんは話す。俺と月雪(つきせ)さんはその正面と隣に座り少し遅れてランチタイムを開始した。


「それ作ったの、俺だよ」

「ぶほっ!」

「ちょっ、汚いわよ!」


 言った瞬間に口の中で砕かれた料理が放物線を描いて飛び出す。正面に居た月雪さんにかかりそうになったが、直前で止まり静止した。それから智佳さんのポケットから出てきたティッシュに浮遊した噴出物は包まれ、設置されたゴミ箱へと投函される。この間は二秒に満たない早業だ。


「景ちゃんが自作したのかい?」

「一人暮らしだからね。他に作ってくれる人が居るなら頼みたいくらいだよ」

「ほへ~……人は見かけによらないね。キミって、なんかいつも遅刻寸前に登校してきて、ある日曲がり角で食パン咥えた女の子とごっつんこ! って感じの見た目してるのに」


 今更かもしれないけど、わかった。

 この子も変な子だ。



――――。



「しかし、みんな結構当たり前のように魔法を使うんだな」


 返してもらった弁当箱をつつきつつ、半日過ごした感想を言ってみる。

 入学式でもそうだったが、演出で触れることの出来ない桜の花びらを無限に散らせたり、擬似火薬を使って大きなクラッカーを使用したりなどなど。掃除も全て魔法によって行われていた。

 風の魔法ですぐさま散った花びらやテープは回収され、数秒もすれば静観な体育館に戻っていたから驚きだ。


「やれることはのびのびやれ! 自由な校風がうちの特色だからね!」

「みたいだね。制服改造してる人も結構見かけるし、アクセサリー類も自由なんだな。偏見だけど、特進科っていうからもっとギスギスしてるかと思ったよ。一歩結界から出ると普通の制服、格好に元通りってのもまた驚きだけどさ」

「一応、体裁は気にするからね。あ、そうそう。男女で制服が違うけど、その着用義務もないんだ。あたしはスカートが好きだからそうしてるけど、たまに男子生徒の制服着てる女の子とか居るんだ。さすがにまだ男の子でスカート履いてる人は見たことないけどね!」

「へ~、そりゃまたフリーダムな」


「好き嫌いの問題もあるけど、タイプ次第では戦闘時にひらひらして動きづらいってのもあるのよ。私はあんまり問題ないけど、特に強化タイプはよくズボン履いてる人を見かけるわ」

「自然と接近戦が主体になるだろうから、そりゃスカートじゃ動けないだろうな」

「まだ今期が始まったばかりなのに、もう番号入替決闘(オルターバトル)のこと考えてるんだ。相変わらず熱心だね『全能妃(プリンセス)』は。伊達に次期首席と呼ばれてないや」


 かかっと弁当箱の中身を豪快にかっ込む智佳さんの口から放たれた聞きなれない単語を復唱してみる。


「プリンセス?」

「ん? おや、知らなかったの? 意外だね。ゆっちは一年生でも数少ない一桁の生徒だったんだよ。今は何故だか知らないけど、景ちゃんと同じドンケツに居るけどね」


 思わず口に含んだご飯を零してしまいそうになった。急いですくいあげて落下は免れたが、智佳さんのようにいけたらもっと楽だったんだろうなとふと思う。

 いや、それどころじゃない。


「一桁? 月雪さんが?」

「そうだよ。ゆっちはね、召喚タイプを除く魔法全てが得意の万能タイプなんだ。だから、一年生ながらにして学籍番号『7番』っていう超優等生だったんだよ!」


 頭に出会った時の校長先生の言葉が浮かびあがる。

 そういえば、そんな感じのことを幾度か言っていたな。優秀な人だとは聞いていたが、まさか一桁だとは……。


そしてなおさら思う。


 魔法が優秀でも、ほかの事に関して少し勉強不足なのは否めないみたいだ。


「あのまま何もなければ、以降の番号は全員三年生だから卒業には差し支えないと思ってたんだけど……まさか、こんなことになるとはね……」


 月雪さんはあからさまにこっちを見て大きくため息をつく。

 悪いのは俺じゃなくてあなた自身ってことを忘れていそうだ。


「あえて何があったかは聞かないけどさ、結局はどんな処罰にされちゃったわけなの?」


 えびフライを口の中へ放り投げるように入れながら智佳さんは尋ねる。


「こいつと成績を共にするって処罰を受けたの。私が首席になるには、こいつが首席にならないとだめってことなのよ。最悪でしょ?」

「一蓮托生ってやつか! 妬けるね、このこの!」

「茶化さないでよ。こうなったら、智佳にも色々手伝ってもらいたいの。いいでしょ?」

「構わんよ。わたくしも、一蓮托生の一員にしてくれるというのならどこまでも!」


 一蓮托生がチーム名みたいになってるぞ。

 しかし、こうして仲間が増えるのは非常に心強い。予定していた第一段階はひとまずクリアってところかな。

 適当にやっていれば首席くらい余裕だろ、なんて楽観視するはずもなく、俺だって色々考えて行動しようとしている。


 まずは生徒の実態を知ること。紙面上では確認したが、実際に体感するとやはり全然違う。予想ではもう少し気軽に番号入替決闘(オルターバトル)を申し込めるのではないかと思ったが、予想していたよりもみんな魔法使いをしていた。考えて戦わないと、絶対に首席なんかなれなさそうだ。


 次はそれを知った上でどれだけ味方をつけられるか、だ。孤軍奮闘なんて良い響きかもしれないけれど、実力主義の世界でそんなカッコつけは必要ない。どれだけ汚かろうと、どれだけ不恰好だろうと勝てばいいのだ。その為には最悪、友人だって利用させてもらうつもりでいる。


「でもさ、この時期にビリって結構きついよね」


 お弁当を食べ終えて満足そうな顔をしている智佳さんが、ペットボトルの蓋を開けながらなんとはなしに言う。


「何が?」

「首席になること。当たり前だけど、今まで首席で卒業した人は早いうちから優秀だったんだよ。たしか最低ラインが一年生の時に二桁ってくらいだから……もしかすると、今って絶望に近い状況じゃないかね?」


 現実的な意見に思わず口を噤む。情報収集はそれなりにしているから、それくらいはわかっている。でも、認めてしまうと諦めてしまいそうだから考えないようにはしていた。


「特に長期休暇入るとみんな見違えたようにレベルアップしてくるからねぇ……。休み明けになった途端にコロコロと番号が入れ替わるんだよ。先生もシステム管理大変そうだったよ、あの時は」


 春休みは短いので違うらしいが、夏休みは番号入替決闘(オルターバトル)を禁止されているらしい。代わりに、合宿プランや集中講義プランなどを選択することができ、そこで大幅な魔力アップと魔評点アップが見込めるのだとか。


「つまり期限は夏休みまでね。いきなり二年生のうちに首席になれ、だなんて言わないわ。正直に言ってしまえば、私も土城(つちしろ)先輩とは戦いたくないからね。でも、少なくとも二桁クラスの成績者にはなってもらうわよ」

「簡単に言ってくれるね……」

「今は新入生だって手探りで評価点を取得しようとしている時期だから、そんな悲観しなくてもいいと思うよ。まずは中間テストを目処にして頑張ってみたらどうかな?」


 普段の素行等でも成績は上がる。特に学期内で二度(学年度末は一度)行われるテストでいい成績を残せば、かなりの魔評点を手に入れることができるらしい。


「去年の中間テストは得意な魔法を見せてみろ、っていう単純なものだったけど二年生からはそうでもなくなるみたいだよ。もしかしたら、景ちゃんでも簡単にこなせる分野が来るかもしれないね」

「そういうもんなのか?」

「何度も言うけど、普通の学校と同じものさしで考えちゃダメなの。だからこそ、正攻法以外で優秀な成績を修めることのできる穴がたくさんあるのよ。そこをうまく突いていけば決して絶望なんかはしないわ」


 そう言って決意を露わにする月雪さんの表情は本当に真剣で、迷いの無い瞳をしていた。きっと、それ相応の努力や挫折を彼女も味わってきたのだろう。

 なら、俺も最大限の努力をしなければ彼女に示しがつかない。専門ってわけでもないけど、小さい頃からスポーツや武道に音楽など色々な分野には手を出していたんだ。それが役に立つことがあるかもしれない。


「よし、じゃあ今日もまた図書館行ってくるかな!」


 なんだか急にやる気がわいてきた。今ならきっといい感じの集中力が保てるかもしれない。


「自分にあった使い魔を探さないといけないんだっけ? 大変だねぇ……なんなら手伝ってあげるよ?」

「お、いいの?」

「いいよいいよ。キミが困ってるってことは、ゆっちも困ってるってことでしょ? 友人の悩みはあたしの悩みだよ。いくらでもお手伝いするさ!」


 変な子だけどやっぱいい子だな。ならば、お言葉に甘えさせてもらうか。


「任しといて!」


 胸をポンと叩いて用件受諾の合図をした智佳さんが次に取った行動は、俺と肩を組むことだった。身長は彼女の方が低いから、俺は自然と腰を曲げる形になる。


 一体なんなんだ、突然。


「ところで、キミらがお付き合い始めてどれくらいなのかね?」

「は?」


 小声で話しているので月雪さんには聞こえないだろうが、なんてことをいきなり言い出すんだこの子は。


「お付き合いって……いや、そういう関係じゃないぞ、俺たち」

「そういう意味でもあって、ないようなもんだけど……いいから答えてくんろ」


 一応誤解は受けてないみたいだが、なんだか引っかかる物言いだ。

 真意が知りたくて、俺は出会ってからまだ一ヶ月くらいと答えた。


「ほう、一ヶ月かぁ! やっと記録更新したんだね、よかったよかった……。で、大変でしょ? あの子と付き合うの」


 そりゃ大変さ。いつもなんでか知らないが高圧的な態度だし、ちょっと気に食わなければ何かが飛んでくるんだもの。今は魔力がないから大丈夫だけど、番号があがったら注意が必要だと本気で思う。


「くくく……やっぱそっか。でも、わかってるかもしれないけど悪い子じゃないんだよ。ちぃとばかし感情の表現が不器用なだけなのさ。あの容姿だからね、言い寄ってきた男も数知れないんだ。けど、誰もがあの振り回しお嬢様気質に耐えられなくなって、今や観賞用という名誉なんだか不名誉なんだかよくわからない立ち位置になっちゃったんだよ」


 それはそれは……。その離れていった男の人たちとはぜひともいつかじっくり話したいものだ。

 しかし、月雪さんってどう見ても感情をそのまま表現しているだけにしか思えないんだが。


「先に言っておくよ。ゆっちは、負け知らずの負けず嫌いで、恥ずかしがりやの無神経な努力型なんだけど天才肌なんだ」


 えらい矛盾している人間だね。言葉の語源になってもおかしくないレベルだぞ。


「ねぇ、何の話してるの?」


 いい加減気になったのか、やけに近かった俺と智佳さんの顔の間にずいっと月雪さんが入ってくる。


 智佳さんは会った初日で言うのもなんだが、男友達みたいな軽い感じでやりとりできるが、月雪さんはやはり今までもっていたイメージが強くて急接近されるとまだドキドキしてしまう。

 あ、別に智佳さんがどうでもいいというわけではなくてだね。月雪さんより小柄だけど、出るところは多分彼女以上に出ているし、可愛いし気さくだから好きなタイプな方ではあるよ。


 自分に対する言い訳だけど、これだけは言わせてもらいたい。


「なーんでもないよ。じゃ、行こうか。面倒だから飛んでいくね、ちゃんと掴まっててよ?」


 話を打ち切りつつも、何かを伝えるかのように智佳さんは俺にウインクしてくる。それから、空いていた方の腕で月雪さんの肩も掴み、地面を蹴った。


 進行方向は、何もない虚空な場所。屋上のフェンスの先だった。

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