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第四話 俺の素質と彼女の事情

「おおおおおお…………ぉぉ……お?」



 どんなもんが来ても喜べると思ったんだが、あまりに気をてらいすぎる言葉で尻すぼみになってしまった。


なんて言った? さーばんと……すれいぶ?


「嘘でしょ……こんなの……絶望だわ…………」


 うな垂れていた月雪さんは、遂には地面にへたり込んで頭を抱えてしまった。

 なんだ、なんだ? 何かやばいのかこれ?


「説明しましょう」

「ぜひともお願いします」


 校長先生は月雪さんの肩をぽんと叩いてから、指を鳴らし魔法陣を消した。それから、再び校長椅子に座り込んでから、俺の方を見ながらまたニコニコしつつ言う。


「まず召喚タイプというものはですね、魔力と体力を消費して異世界から幻獣や魔物などを呼び寄せるという『召喚魔法』を習得するのを専門としたタイプなんです」


 異世界からのモンスターを呼び寄せる魔法だと? なんだそれ超かっこいい! 竜神様とか、リバなんとかさんとかも呼べるのか!?


「自分の力ではなく、強さ=召喚対象、というものなので確かに非常に強力なものではあります。魔力さえ備われば、かなりの上達者になれると言えますね」

「ふむふむ。予想とはちょっと違いますが、悪くはなさそうですね」

「ただし、欠点が」

「えぇ、それくらいはわかってますよ。炎使いは水を扱えないみたいに何かしら弱点くらいはあるでしょう」

「そうなんです。他の魔法タイプと違って、このタイプはかなり特殊でしてね」

「なんですか?」




「召喚魔法以外が全く扱えないんですよ」





 なるほど、召喚魔法以外が何も使えねぇえええええええええ!?



 なんじゃそりゃ!? 魔法が使えるってわかってから二十四時間以上経過しているけどあらゆるパターンを推測し、尚且つどんな能力者であろうと上手く使いこなせるよう脳内シミュレーターをフル活用していた俺に対するあてつけか!?


「得意としている、ではなく、専門としている、とあえて言ったのはその為です。他のタイプならば、ある程度自分の得意分野以外も習得可能なのですがね……」

「そう……なんですか」


「転科を決めてから言うのもなんですが……現在、新入生及び在校生には召喚タイプの生徒は一人もいません」


「え?」

「非常に稀なタイプということもありますがね……召喚魔法というのはとても難しい魔法なんですよ。いわゆる、下級召喚魔法でさえも一月以上は修練を必要としますからね。それを知った生徒は、すぐに辞めるか、もって数ヶ月でみんな辞めましたね。口を揃えていっていたのが『みんなが魔法使いになってく中で置いてかれる感覚がイヤだ』でしたが……」


「ふっざけんなぁああああ!?」


 だからか! だから月雪さんはこんな状態になってしまったのか! 中途退学者の代名詞とも言える召喚魔法の使い手の俺を見たからだったのかよ!


「ただ、前例がなかったわけではないですよ。過去に極僅かですが、召喚タイプで成績上位者になって卒業した方も居ます。それに、前例の方々にはない月雪さんのサポートもある。諦める必要はないですよ」

「……」


 なんだろうな、この肩透かしを豪快にくらった気分は。

 そんな気は更々ないが、もしも俺も大半の先人みたく楽しみを見出せなかったら……どうするんだろう。


 たとえ魔法が使えなくとも、魔法力及び魔法技能に対する評価点数、通称『魔評点(まひょうてん)』という特進科独自の成績点を稼ぐことは可能だそうだ。辞めた人も、一定の点数がたまった時点でそれなりの高校へ転校していったらしい。

 せっかく決意したのだから、今更誘いを蹴る必要もない。それでも構わないと俺は再び意志を校長先生に伝えた。


 後に正式な書類の書き込みを終え、これで俺は四月から完全に特進科の生徒となる。


 憧れの月雪さんと共に下校という欣喜雀躍(きんきじゃくやく)な状況なのに、心から喜べないのは悲しみの感情が大きすぎるせいだろう。

 垂直になりつつある太陽の輝きに照らし出される彼女は本当に綺麗で、うなだれて愕然とする姿も不謹慎ながらもそのままでいて欲しいと願えるほどの美貌を醸し出していた。


 しかし、いくら成績上位者……よくわからないが『一桁』って言ってたかな。それになるのが難しいとはいえども、ここまで落ち込むことはないんじゃないだろうか。


 何度か声をかけたものの、完全に無視。俺は諦めてさっさと別れの挨拶をかわし家へと戻って行った。



 それから一週間後。親への連絡も、友人達への弁明も『スカウトされちゃった☆』という言い訳で済ませた俺が、残された春休みを満喫すべくアパートの一室でゲームをしている時だった。


「ん?」


 誰との予定もなかったはずなのだが、チャイムを鳴らす音が耳に届いてきたのだ。

 高校からそこまで離れていないってことで、たまり場にされることもあるが、それでもこんな朝っぱらから? もしや、また新聞の勧誘だろうか?


「行くわよ、学校!」

「俺は引きこもりになった覚えはないぜ」


 玄関を開けた先に待っていたのは、どうみても月雪さんだった。長い髪を今日は一つに縛っていて、この前会った時とは間逆で気合十分って感じだ。大きなつり目を下から向けてくる仕草にはドキッとさせられたが、それどころじゃない。


「ごめん、ツッコミで精一杯だった。なんだって?」

「学校に行くって言ってるのよ。ったく……わざわざ来てあげたんだから感謝なさいよね!」


 いや、意味がわからない。特進科の授業は三月の半ばから始まるのだろうか? たしかに、新しい教科書とかはもう手元に届いたけどさすがに早過ぎないか?


「バカね、今から特訓するのよ」

「特訓? 何の? 必殺技? キックなら得意だよ」

「どこのヒーローよあんた! いい? ただでさえ、みんなと一年以上差があるのよ? そんなあんたが、卒業するまでに『首席』にならないといけないんだから、それはもう死に物狂いでやってもらわないと困るの!」


「ツッコミ以外の単語が全然わからん! なんだよ『首席』って?」

「首席ってのは、『学籍番号一番』のことよ。入学要項読んでないの? うちの科は、学籍番号が魔法レベルのランクになってるの。『一桁』の番号なんてもう、かなりの使い手なのよ」

「あぁ、それくらいは知ってるよ、説明お疲れ様。じゃ、俺ゲームに戻るから」

「なんでそうなるのよ!?」


 適当に流してドアを閉めようとした所に、すかさず足を突っ込んで止めてくる。新聞の勧誘者並みの速さだった。理由は違えども、俺が最初に予想したことと同じ状況になっていることに気づいてしまう。


「だってそうだろ? 月雪さんが勝手に俺を巻き込んだんだ。そっちの事情まで俺が背負い込む義務はないと思うけど?」

「それは……そうだけど……。あっ、それだけじゃないのよ? 首席のまま卒業した人にはボーナスがあってね」

「ほうほう」

「なんでも一つ、願い事を叶えることができるのよ!」

「どひゃー! 龍の神様もビックリだね! もう地球が壊されても怖くないや!」

「ホントなのよ!? 人を殺したい、みたいな悪い願い事はさすがに許されないけど、誰でも考えるような幸せになれる夢物語を願う程度なら可能なのよ!?」

「俺は普通に進学できればいいんだもん、関係ないよ。働くことだって嫌いじゃないし。その先から学べることだって不安よりも期待が大きいね」

「……お願いよ、天神(あまがみ)……私は、どうしても叶えたいことがあるのよ……」


 うっ……。

 初めて名前を呼ばれたということにドキッとしつつも、呼び捨てだったことに落胆する。

 それ以上に思ったことは、こんな子に本気でお願いされて揺らがない人が果たして世の中にどれだけ居るのだろうかってことだ。


「……そのお願いって、何?」

「え?」

「俺の成績によってその願いが叶えられるかどうかが決まるんだ。知る権利はあると思うけど?」


 ひどい質問だった。

ただちょっと優位に立ちたいからというくだらない欲で、彼女の心の傷を抉ってしまったのは本当に申し訳ないと思っている。


「両親の仲を取り戻したいの……」

「両親の……?」


 もう足を扉に挟んでいないが、俺はそのまま戸を持って立ち尽くしていた。


「私の両親、高校受験が終わった途端に離婚しちゃってね……それまでに色々前兆はあったんだけど、私は受験に一生懸命で目を向けることができなくて……。

 別れた理由がね、私のことだったの。ちゃんと構ってあげているかだとか、サポートできているんだろうな、とかそんなことだったらしいの。当の私はそんなこと気づかず、それが当然と思ってのうのうと勉強してたんだけどね……。

 だから、私は二人をもう一度仲の良い夫婦に戻したいの! 私が原因なんだから、私自身がなんとかして仲直りさせてあげないといけないのよ!」


 後半はもう半泣きだった。他人の家庭事情に首をつっこむような趣味はないが、今回はちょっと自分に非がありすぎだ。


「……ごめん」

「何で謝るのよ?」

「いや……悪かったよ、変なこと聞いちゃって」

「……いいわよ。怒ってはないから」


 ぷいっとそっぽを向く月雪さん。目の辺りに手を当てて数回だが、隠すように擦っていたのを俺は見逃さなかった。


「着替えてくるからちょっと待ってて」

「え?」

「何でも願いが叶うってんなら、俺だってその権利は欲しいさ。出来る限りの努力はするから、お手伝いはよろしくな」

「あ……うん」


 一旦、アパートの中へ戻る前に、月雪さんへポケットティッシュを差し出してから制服へと着替えることにした。

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