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第三話 素質検定魔法を受けました

「……校長先生、疑問点が一つ」

「なんですか?」

「今日、呼ばれたのは俺一人のはずだった気がするんですが、何故月雪(つきせ)さんまで一緒に居るんですか?」


 転科を決めた二日後。書類や教材等の前に、一足早く受け取った特進科仕様の腕章をつけた俺は、再び校長室に足を運んでいた。


 理由は、特進科の生徒になるための儀式をするから、だそうだ。


 言われた時間に言われた格好で来たのだが、それを義務付けられたのは俺だけのはず。既にこの科の生徒である月雪さんがわざわざ来る理由なんてないと思うんだけど……。


「やってしまったことだから、今更もう文句は言わないけど……不愉快ながらもこれからあんたみたいな穀潰しと一緒に高校生活しなきゃならないのよ? あんたがどんな『魔法タイプ』なのかを知っておく義務があるわ」


「先生、この人は一体何を言っているんです? 実は僕、侮蔑的な言葉は伝わらない体質なんですよ」

「殴るわよあんた」

「え? なんて? 聞こえないよ」

「じゃあ聞こえるように耳の穴の通りをよくしてあげるわ」


「月雪さん、いいことを教えてあげよう。その手に持ったドリルで耳の穴を広げても聴力は決して良くならないよ。聴力ってのは耳の穴から入ってきた音が耳小骨という三つの骨に伝わり圧力を増加させ、リンパ液を介し基底膜を震わせることによりコルチ器と呼ば危ないからそれを降ろそうか!」


 ホッケーマスクの怪人みたいにドリルのエンジンをギュインギュイン鳴らして迫ってくる彼女は鬼神以外の何者でもない。

 その光景をみて、何をどうみたら愉快なのか校長が笑い出す。


「ははは、昨日話したでしょう。これから彼女の成績はあなたの成績と連動することになります。素質の有無はクリアしたとはいえ、そのタイプ次第であなたがどれほどの成績保持者になれるかはまだ不明なのですよ。それを今日、今から見極めるつもりなので、見届けに来たということです」

「率直に言ってしまえばツンデレと?」

「デレ要素がないので、ツンツンですね」

「それは萌えられませんね、僕はどちらかといえばS寄りなので」

「おや、気が合いますね。攻め体質なんですよ、私も」

「それは奇遇ですね。殴られて気持ちがいいなんて変態のやることだと思いません?」

「攻めて気持ちがよくなるのも変態のやることだと思いますが。そうですね、私はソフトな攻め方をする時に、あえてギリギリで止めて相手がビクビクしている姿を見るのが好きですね」

「ほほぅ、校長もなかなかいい感じに仕上がった変態ですね」

「それがわかるならあなたも立派な変態ですよ」

「違いないですね。変態と言う名の紳士とか巷では逃げ言葉になってますが、俺はあえて言いますよ。変態と言う名の変態を地で生きていっていると!」


 いつの間にか校長先生と楽しく変態談話をしてしまっていた。

終わりがないと思ったのか、突然月雪さんが俺の頭をはたいてくる。寸前の所でかわしたが、避けた先に逆の手がありモロに拳を頬っぺたで受け止めてしまった。

 叩きなれてやがるこの女!


「アホなこと話してないで、さっさと始めなさい!」

「と言っても何をすれば?」

「簡単なことですよ。そこへ楽にして立っていてください。何もする必要も何も考える必要もないです。ただ直立するだけで構いません。ちょっと変な気分になるかもしれませんが、害はないので我慢してくださいよ」


 と校長先生は言いつつ立ち上がった。


 俺がすることは皆無なのか。

……あれ、じゃあ月雪さんは俺に何をさせようとしたんだ。完全に八つ当たりだったんじゃないか? これは損害賠償を請求しても許されるな。そう、例えばみんなも期待してるであろう、パンチラサービスとか。後で言ってみよう。多分鼓膜に穴が開くだろうが。


「さ、いきますよ」

「はい」


 校長が目を瞑ると、窓が閉まっているというのに風が舞い起こり始めた。深い呼吸の音と共に、両手を俺の足元に突き出してなにやら呟いている。


「全知全能母なる神、彼の者に秘められし術式を愚かな我らに示したまえ!」


「サーチ!」


 いつもの柔らかな声ではなく、刃物のようにキレがある発声と共に校長先生は開眼した。

 すると、どうしたことか。俺の足元に白い五芒星の魔法陣が発生したではないか。何も考えるなとか言われても、何も知らない人が見たら驚かないというリアクション以外は取りづらい。


「!?」


 突然、身体の中に何かが流れ込んでくるような感覚に陥った。不快ではないが、見えないものが身体の中を巡っているという感覚は筆舌に尽くしがたい。

 爪の先から頭の先までなぞる様な感触が駆け巡ると、最後にそれは足先から外へ流れていった。


 次に起こった変化は視覚でも確認できた。足元に作成された光の線による方陣に色がつき始めたのだ。すべての対角線が交わる中心部が虹色に輝き、小さな矢印をつくりグルグルと回っている。

 何度か前に進もうとしては、戻るという行動を繰り返したそれだったが、最後には勢いよく、一角を目指して伸びていった。


「ほほぅ……これはこれは……」

「えっ……嘘でしょ……?」


 光が弱くなり、それ以上の変化をしないと判断した俺はしっかりと完成形を見る。

 出来上がったのは、他の角には手を出さず、とある頂角に到達した虹色の矢印だった。足元には、読めないが楔形文字のようなもので一言書かれている。


「……で、これがなんなんですか?」

「おっと、その説明も省いていましたね」


 校長先生は手を下ろし、その出来上がった図をサラサラと手元にあった紙に書き込みながら答える。


「今のは『素質検定魔法(サーチ)』です。名前の通り、あなたの中の魔力の素質を見極めるために使う魔法ですよ。面接試験の時に行い、素質とどれくらいの『番号』まで上がれる見込みがあるかを検討するものです。あまりにもタイプが微妙な場合、そこで入学を蹴る人も稀に居ますよ」

「へぇ……それで、俺はどんな素質があったんです?」


 メジャーなところなら、炎とか水とかが扱えるようになるのだろうか? ちょっとマイナーなら、人を操る魔法とかそういったものも可能なのかな?

 ともあれ、今までの現実では到底可能とされないことを出来るようになるんだ。男の子なら誰でも思うだろうが、そんなことを本当に出来るようになると言われたら誰だってホイホイついて行くさ。転科を決めた理由の一つでもあるのだから。


 校長先生は少し困ったような笑顔で、まだ紙に図を書き続けている。少し離れて、ガックリ肩を落として何も言わない人形みたいになっているのが月雪さんだ。性格を知る前まではそうだったように、たとえ落ち込んでいる姿でも喋らなければ綺麗だ。

 しかし、なんでまた彼女は落胆の表情をしているんだ? まるでこの世の終わりでも見てしまったかのような顔だ。


「ちなみにここが『攻撃タイプ』です。あなたの想像通り、炎や雷を繰り出すといったメジャーな魔法の使い手と捉えて構いません。

 その隣は『防御タイプ』で、魔法壁を出して身を守ったり、回復などの魔法を得意としています。

 次は『操作タイプ』ですね。一般的にいうなら、サイコキネシストという感じですか。物を操ることに長けています。精神制御もできますよ。

 で、こっちは『強化タイプ』です。このタイプは木を鉄に変えたり、自分の肉体を強化したりという、どちらかとえいば、肉弾戦を専門としています」


 校長先生は星型の図面の頂点を指差しながら説明していく。


 そして最後。俺は校長が説明したどのタイプとも違っていた。

 これが一体何を意味するのだろう。まさか、最強のタイプとか……?


「天神くん」

「はい」

「実はこの魔法は、タイプだけではなく、『二つ名』も共に命名してくれる素敵な魔法なんです。その名を聞くだけで、大体どんなタイプを得意とするのかがわかるので非常に便利なんですよ。足元の文字が、その二つ名になります」

「ほー」


 二つ名だと? そんなカッコイイものまで与えてくれるなんてなんて都合の良い魔法なんだ。


「で、一体どんな名前だったんですか? 俺のタイプは何なんです?」


「……いいですか? 言いますよ」


 チラッと先生は月雪さんの方も見てから、一呼吸置いていった。




「天神 景くん。あなたの魔法タイプは『召喚タイプ』で……二つ名は『使役魔隷属奴(サーヴァントスレイヴ)』です」


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