第二十五話 言い渡された処罰
「!」
目が覚めた。そして、体を持ち上げたその時だった。
何も考えずに動いたせいで、俺の顔は何やら柔らかい物体に包まれた。
どこかで触ったことあるな、これは。しかもつい最近。
感触を思い出すために、しっかり触ろう。
何やら固いものの下にあるのは……プリンとマシュマロを足して2で割り、中に水溶き片栗粉を混ぜて、じっくり寝かせたようなもの……。
うむ、わかったぞ。
これは、おっぱ――
「ごはっ!」
気づいた瞬間、俺の頭頂部に割れそうな痛みがはしった。手加減を忘れた、情けのないその一撃をひしひしと感じながら、俺は苦痛を和らげるため、のたうち回る。
その行動をしている時にふと気づいた。
あれ……ここ、校長室?
「おはよう。随分R指定な起き方するのね、あんた」
顔を見上げて、しっかりとその容姿を視界に捉える。
長い髪、ひきつった笑い、腰に手を当てているその仕草。間違えるはずもない。
「つ、月雪……?」
「えぇ、私よ」
「な、何で……?」
今日は学校休んでいたんじゃ……。というか、今日っていつだ?
「心配しなくとも、今日はあなたが土城くんを倒した当日ですよ」
校長室なんだから、当然校長先生が居る。
時間のおかげで、ちょうど夕日を背負う校長はやけに神々しく見えた反面、表情が読み取れなくて少し不気味にも思えた。
「月雪さんは、私が呼びました。傷の方は登校までは我慢してもらいましたが、敷地内に入ってしまえば回復魔法がかけられますからね。わざわざ私が出向いて、来てもらったんですよ」
「さすがに校長先生が直接自宅に来ると肝が冷えましたよ。あんなことの次の日ですからね」
思い出しながら校長と談笑する月雪。
その姿から、昨日の、あの今にも泣きそうだった人間とは同じとは思えない。いつもどおりの彼女だ。
「どうして……?」
「?」
「どうして来たんだよ……?」
俺の質問に月雪はとぼけたような顔をして答える。
「だから校長先生が呼んだから、って言ってるじゃない」
「それは知ってるよ!」
「何故、私が月雪さんを呼んだか、ですね」
俺の言いたい言葉を代弁してくれた。まだ少し頭がふらつくから混乱しているのだろう。話をまとめるのは得意なんだけどなぁ。
「その前に、あなたに言っておかなければいけないことがあります」
「……はい」
顔は見えないけれど、言葉に込められた気持ちはひしひしと伝わってくる。
俺は、いくら許せなかったとはいえ校則を無視して戦いを挑んでしまった。
更に、番号入替決闘でないことから、物体や傷の修復はされない。なのに校舎の一角を破壊しつくし、下手をすれば殺してしまうほど強烈な一撃を放ってしまったのだ。
「そういうことをしない人を、出来るだけ入れたかったんですがね……」
残念そうな声。諦めのため息。
あの瞬間は精一杯だったけど、少し頭を冷やせばすぐにわかる。
……俺、きっともうこの学校には居られないんじゃないかな。
「天神 景くん」
「はい」
「無許可のバトル、器物破損、傷害。これらはどれも、笑って見過ごせる行為ではありません」
「わかっています」
「では、処罰を言い渡しましょう」
俺は目を瞑り、黙ってその言葉を聞きうけた。
「あなたの魔評点をすべて剥奪。次回のテストまで魔法の習得、使用を禁じ、更に毎朝校庭の掃除を命じます」
そうか……やはり、そういうことにな――
「……はい?」
「おや、聞こえませんでした? 最近どうも皆さん掃除に手を抜き気味でしてね、誰かがしっかりやってくれないと無法地帯になっちゃうんですよ。業者は雇いづらいですし」
「いや、そうじゃなくて……。俺、退学にならないんですか?」
「何を言っているんですか。これはあくまで、校内での関係者間の出来事です。程度の酷さは前代未聞ですが、いきなり退学というほど重たいものでもないのですよ」
「なんだあ……てっきり、また普通の高校生に戻るのかと……」
「軽く人を殺しかけたのに、私の処罰より軽いってのは、いかがなものかと思いますけどね」
ぶつくさ文句を言う月雪の隣で、すっかり安心してしまった俺は床に座り込んでしまう。すると、光の角度の関係なのか、校長先生の顔がはっきりと見えるようになった。
怒ってなんかいない。いつもの柔らかい笑顔じゃないか。
「今回はあなただけではなく、土城くんにも大いに非がありますからね。彼にも、それなりの罰を与えましたのでご安心を」
「そうですか……」
「いくら規律をつくろうとも、子供は何も考えずにそれを破ってしまうことだって、たくさんあります。でも、ちょっとはやんちゃなほうが私は好きですよ。これらを踏まえて、何故規律が存在しているのかを考えてくれますからね」
暗にだけど、校長は俺の行為を認めてくれた。もちろん、可能ならばちゃんと規律に則って欲しいものですが、と付け加えていたので全肯定ではなさそうだが。
それでも、俺は反省している。許してあげますと言ってくれても、自分がやった行為は間違いだ。
だって、俺がやってしまった行動は……憎くて仕方のない土城と同じことだったのだから。
もう二度としないことを誓い、誓約書にサインをする。もしも破れば、また更に重たいペナルティか、程度によれば一切の感情を持たずにあなた方を追放します、という校長先生のありがたい激励の言葉を背に、俺と月雪は部屋を出た。




