第二十四話 勝敗よりも大事なこと
「まぁ昨日のよりも楽しめたから、少しは評価してやってもいいぜ」
番号入替決闘が終わり、修復が始まる。窪みが盛り上がり元の平らなコンクリートになり、俺の体中に残ったダメージも、かけられていた魔法も全てがリセットされてしまった。
これで……本当に…………終わり……。
「二年生で一桁っていうから楽しみだったんだがな……何が全能妃だよ。全てが中途半端なまがい物じゃねぇか」
……待て。
こいつは……何を言っているんだ。
「わざわざ時間をかけて、攻撃も防御も操作も強化も見てやったのに……どれも通用しないでやんの」
俺に話しているのか。
何故、月雪との戦いをあえて話す?
「一人で来たのも意味わかんねぇしな。聞いてみれば、お前のためだって言うじゃねぇか。そん時の顔がもう、必死で面白かったぜ! くかかかかかかか!!」
汚い笑い声が鼓膜を嫌というほど震動させる。
届いた音波は確実に、そして強かに俺の脳を刺激すると、まるで何かが弾けるような感覚が全身に響き渡った。
「……笑うな」
「は?」
俺はゆらりと立ち上がる。
体のダメージはほぼ癒えたが、まだ少しふらつくようだ。
「お前が月雪を笑うな……!」
「へっ! いいや、笑わせてもらうぜ。ボクは勝者だ。誰にも負けない、この学園の覇者なんだ! 見下そうと、蔑もうと、足蹴にしようと、あざけろうと! 誰もボクに逆らえない! だからこそ、何をやっても許されるんだ!」
そんなわけがあるか。
お前が力を持っていようが……誰かのために戦おうとする、尊い姿を笑う権利なんてあるか。
ようやく思い出した。
俺は、こいつに勝ちたかったんじゃない。
俺がここへ来た理由は、本当はたった一つだけだったんだ。
「魔の世界に蔓延り、神の世界に君臨し、人の世界を支配するその力よ。高貴なる者であろうと、下賤な者であろうと等しく存在する生への原動力よ」
「……?」
今の俺なら出来る。
だって、これほど心の中を反映するヤツなんて他には居ないからな。
「森羅万象見定めし紅眼、黄金をも切り裂く尖鋭なる恐爪、溶岩の如く流れる血流、鋼のように硬き筋肉、天地を支える屈強な体骨、大岩さえ踏みしめる強靭なる豪脚、背負いし翼は時空をも越える」
「何を……!?」
「身の内にのたまう大蛇のごとき負の感情を! 醜き争いを生み出した劣悪なる心情を! 絶対無二を願う真情を! 我が叫びに答えることこそが、其の存在意義と知るが良い!」
全ての魔力が、感情が、全身に湧き上がり一点に集中していく。
「これにて汝を呼び覚ます儀を満たした。終焉に、恩名を呼ぶことにより召喚式の仕舞いとしよう……」
俺は両手に魔力をこめながら叫んだ。
「激昂神、ヒューリー!!」
あらん限りの力で地面をたたきつける。呼応するようにして、召喚方陣が激しく赤色に発光した。
それは今までとは違う出現方法だった。
まずは光の中から、浅黒い腕が出てくる。指は五本。人間ほどもある指に生えた爪は永く鋭い。千年を生きる大樹のような腕が次いで現れた。
地面を砕くかのようにその豪腕は降り立つと、体を持ち上げるように筋肉を膨張させた。
すると徐々にだが顔が出現してきた。人とも獣とも言えない骨格にはめ込まれた、射殺すような視線をもつ真っ赤な瞳。歪んだ口から見えるのは、刃物のように鈍く光る牙。鼻は元から存在せず、空洞になっている。最後に、その大きな体を支えるように、六枚の荒んだ飛膜をもった翼が背中から飛び出してきた。
「な、なんだよこれ……!?」
あの土城が遂に恐怖した。
だが今となってはどうでもいい。
校舎の倍はある大きさの、召喚魔法でも最高ランクの使い魔を呼び出すことに成功したんだ。
それの方がよっぽど嬉しいさ。
ま、場所が狭すぎて、上半身までしか顕現できなかったけどな。
そして感謝するぜ。こいつを呼び出せたのは、紛れもなく土城、あんたのおかげだ。
堪えようのない強烈な怒り、全てを壊したくなるような暴虐的衝動を満たすことが、激昂神を呼び出す条件だったんだ。
「……へっ! いいのかよ天神! 番号入替決闘の申請もせず、そんなことしてよ! こんなどでけぇ野郎でどんぱちやってみろ! 下手すりゃ退学もんだぜ!」
「何が良いか、何が悪いか。そんなの関係ねぇよ。自分がしたいか、したくないか、今の俺にはそれだけしかない……!!」
俺がお前と戦う理由。
勝つことじゃない
首席になることでもない
ただ一つ、心から思ったことを実行するため……
お前をぶっ飛ばすために戦うんだ!
「じゃあな、土城先輩」
命令するように手を正面に突き出すと、ヒューリーは一帯の大気を一瞬にして吸い込み、肺と口腔一杯にそれを蓄えた。
「きっさまぁああああ!!」
「フレアバースト」
集束した空気は熱へと変わり、エネルギーへと変換される。
生み出されたエネルギーを全て一点に集中させて、ヒューリーはその大口から真っ赤な波動を放った。
土城は何度も何度も爆砕拳を放ってそれを迎撃するが、無駄なことだ。
勢い衰えず、フレアバーストは土城に触れると、特殊コーティングされた屋上や、階下の教室までも巻き込むほどの大爆発を巻き起こしていった。
「……ちょっとやりすぎたか」
瓦礫から大量の煙が巻き起こる様を見つめつつ、俺の意識が遠ざかる。
これだけ強力な使い魔を呼び寄せたのだ。プチデーモンじゃ比にならないくらいの疲労感が襲った。
何だか眠気にも似ているなコレは。
まさかとは思うけど……死んだりしないよな……。
晴太に目的の達成を伝えていない。
智佳に褒めてもらっていない。
光明寺さんに謝りきれていない。
月雪に……お礼を言えていない……じゃ……ない……か……。
最後に映ったのは、やけに綺麗な青空。
俺の意識はそこで途絶えてしまった……。




