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第二十話 何も知らずに俺は……。

 次の日の放課後、指定された時間と場所に、由莉奈は足を運んでいた。


 金属製の重たい扉をゆっくりと開けて、カーテンや窓まで完全に締め切られている真っ暗な体育館へ足を入れる。光源は窓から零れてくる太陽光のみで、ひたすらに薄暗い。



「…………へぇ、どうしてお前が来たの? ボクは天神に手紙を書いたつもりなんだけどな」



 待っていたのは、学年首席の(つち)(しろ)総司(そうじ)だった。



 その力と性格の悪さで孤立してしまっているものの、実力は本物である。


「手紙を読んだからに、決まってるじゃないですか」


 由莉奈は平然とした態度で返しつつ、扉を魔法で閉める。


 外見上は余裕を持っているが、心の中は穏やかではない。心臓の鼓動はいつもよりずっと早く、握った拳の中は汗でびっしょりだ。


「んだよ、ボクはあいつと戦ってみたかったんだけどな。わざわざご丁寧に、しかも古典的に果たし状までよこしてやったつーのに」

「どうしてですか?」

「あん?」

「他の誰でもない、どうして天神を呼びつけたんです?」


 由莉奈の発言に土城は一瞬間を置いてから吹き出し、大笑いをした。


「ははははははは! お前、バカなのか? そんなもの決まってんだろ。調子こいてる後輩にちょっと指導してやろうと思ってな……!」


 笑顔を残虐な表情に変えて、土城は生徒手帳を取り出す。


「この際てめぇでもいいや。一桁の実力ってもんをボクに見せてみろよ」

「……私は番号入替決闘(オルターバトル)ができません」

「は?」

「春休みにしてしまった失態のせいで、私自身が番号入替決闘(オルターバトル)を受ける権利を失ってしまったんです。だから、許可(リーブ)はできません」

「……んだよてめぇ。つまらねぇ奴だな。なら、さっさと消えろよクズが。そんで天神に伝えてこい、ボクがここで待ってるってな」

「嫌です」

「あぁっ!?」


 いつまでも煮え切らない話に土城の怒りはどんどん溜まっていく。


 それをひしひしと感じ、今すぐ逃げ出したいくらいなのだけれども……。


 今まで頑張ってくれたあいつのため。今度は自分のためじゃない、あいつのために……!


 由莉奈は衝動を堪えて、決意を告げる。


番号入替決闘(オルターバトル)は出来ないと言いました。でも、私の魔力は間違いなく全盛期と同じ、一桁です」

「……何が言いてぇ?」


 深呼吸をして、由莉奈は心を落ち着かせる。

 そして、大きく息を吐いてから魔力の込めた指先を土城へ向けた。



「あんたと戦うことだけはできるのよ!」



 発光した指先は魔力を帯び、光線へと変わり直線状に飛んでいく。

 すると、それを受けた土城の体が途端に爆発を巻き起こし、閉め切った体育館中に轟音を響かせた。


「……ははは。そういうことかよ……」

「……!」


 煙の中からは、無傷の土城が出てきた。

 顔は笑っているが、額には青筋が浮いている。この短気さも彼の特徴であり、疎遠の原因でもあり、強さの基盤でもあった。


「後悔すんなよ?」

「そっちがね!」


 制服の袖を捲くりながら、土城は戦闘態勢に入った。





            ~~~~~~~





「え? 本当に?」

「あぁ、むしろこちらからお願いしたいくらいだよ」


 放課後、今日は見たいテレビがあるからさっさと家に帰ろう、と校門付近まで来た俺を同級生の一人の川西くんが呼び止めた。

 短髪に筋肉質なガタイ、平均よりも上の身長を持つ彼はバスケットボール部員だ。

 どこから出てきたのか知らないが、俺が普通科でバスケットボール部に所属していた話を聞いたらしい。


「天神の噂は魔法タイプのことばかりだったから、完全にノーマークだったんだよ」


 それはそれで残念だ。全国レベルとまでは行かずとも、県大会でベスト4常連、明普(めいふ)バスケットボール部レギュラー候補生の俺を見逃しているとはね。


「でも、どうしてバスケ部があるのを知っていて入らなかったんだ?」


 進学校に本気で部活に打ち込める余地がないように、俺はひたすらに魔法に関する勉強で精一杯だった。入りたいと思っていても、運がいいか悪いかわからないが、どんどん学籍番号はあがっていく。

 だから、それに見合った実力をつけなければ、いつか刺客にでも襲われて成績がどっかへ飛んでいく、なんてことになりかねない。


 つまり、バスケどころじゃなかったんだ。身を守るために一生懸命努力をしなければならないんだもの。


「なるほどな。でも、たまにでいいから来てくれないか? 入部までしなくていい。助っ人みたいな感じでさ」

「いいよ。俺もやりたかったことだし、そっちが許してくれるなら大歓迎だ」

「ありがとう! よっしゃあ、これでうちの部も強くなるぞー!」


 どうも特進科は普通科に優秀なプレイヤーが獲られてしまうのか、毎年大会では一回戦止まりらしい。

 魔法を使っていいのならば、多分どのチームより強いのだろうが、対外戦のある部活動に関してはそれは不可能。魔法に頼ってるせいで、貧弱になっちゃったんじゃないの?


「なんか話してたら、やりたくなってきたな」

「そうかそうか、いやーおれも嬉しいよ」

「今からやりにいっちゃダメなのか?」

「え? 今から?」

「ダメなのか?」

「ん~、いやダメじゃないのかよくわからないけど……昨日、放課後に体育館を貸すから明日は部活できないぜ、ってキャプテンに言われたんだ。理由は教えてくれなかったけど……」

「ふぅん……。でも、貸すだけだろ? 元々所有権はこっちにあったんだから、半分くらい使わせてもらってもいいんじゃ?」

「さぁ……」


 まぁこればかりは行って、直接交渉してみないとわからないな。

 どこかの団体か、はたまた別の生徒が秘密の特訓か。なんにせよ、俺のバスケ熱を止められる原因になりうるだろうかね。



――――。


 体育館の前に到着した。


 中では何かがぶつかるような音や轟音が聞こえてくる。一体何をやっているのやら。


「入ってみるか」


 俺はお邪魔しまーす、と言いながら、ゆっくりと金属の扉を開けた。


「!?」


 途端、すぐ傍の壁に鈍い音を立てながら何かが勢いよく衝突する。

 それはズルズルと壁の途中から地面に落ちると、ぐたりとして動かなくなった。


「誰だ? ここは今日、貸しきりだぜ?」


 目の前に居たのは、以前見かけた土城首席だった。


 赤い模様が入った制服とはまたお洒落なものを……って、あれ?



 あれは……模様じゃなくて……血か?



「おーおー、誰かと思えば、ボクが所望していた天神くんじゃあねえか。わざわざ来てくれたのか」


 なんだ、何を言っている? 俺がいつ、この人に望まれた?


「あ、天神!」


 体育館に一歩だけ歩んで突っ立っている俺の後ろから、川西くんが声をかける。位置的には、さっき壁にぶつかった何か(・・)が居るところだ。


「そっちはもう堕ちたか? まぁいい。そんだけやれば動けねぇだろ」


 手を乱暴に服の袖で拭いながら、返り血を浴びた制服を翻す。


「なかなか面白いじゃねぇか、お前のパートナー。おかげで体育館がボロボロだ。(せん)(こう)への言い訳が大変になっちまったぜ」


 すれ違いながら、土城先輩は俺の肩を叩いて、開けっ放しの扉から出て行く。

 言うように、館内の至る所が焼け焦げ、切り裂かれ、強大な力で潰されたかのように無数の大穴を作っていた。



 そして……それを一緒に作った相手は…………。



「明日の放課後、屋上で待ってるからな。今度はお前だけで来いよ? 他に誰か連れてきたら一緒にやっちまうからな!」


 俺はその声を聞く耳を持たなかった。

 体の奥から、堪えようの無い感情があふれ出し、理性という(たが)ではそれを完全に押さえ込むことはできない。


 明日だと? ふざけんじゃねぇ! 今すぐにでもてめぇをぶっ殺してやる!


 体の向きを変えて、走り出そうとした。

 しかしそれは止められてしまう。



 土城と戦い、体中に傷を負ってしまった月雪が……息も絶え絶え立ち上がり俺の前へ塞がったのだ。



「……止めるな」

「ダメよ……あんたじゃ……無理よ……」

「知ってる。でも、やらないといけないんだ。これは俺の問題だろ! どけよ!」

「いやよ……」

「月雪!」

「おね……がい……」

「っ!」


 体を支える力を失ったのか、月雪が倒れかける。

 俺は急いでその体を抱き上げ、傷の具合を見ようとした。


「天神……止めておいてなんだけど……一人にして……」

「バカ言うな、こんな状態のお前を放っておけるわけ――」


 月雪は俺の顔に、痣だらけの手を被せてか細く言った。


「ごめんね……今の私を……あんただけには……見られたくないの……」

「でも!」

「天神」


 俺の肩に優しく手が置かれる。川西くんが、それ以上何もいわず首だけ横に振って促した。


「……くっ!」


 俺は表現できない未知の感情を覚えつつ、月雪をゆっくり寝かせて立ち上がり、体育館を後にした。

 出ていく際に、月雪がポツリと言った一言を耳にし、俺は体育館の前の扉に座り込む。


 少しだけ空いていたドアの隙間から聞こえてくるのは……嗚咽。


 理由はわからない。でも、きっと悔しかったんだろう。怖かったんだろう。痛いんだろう。それくらいは、聞かなくても十分わかる。声からイヤというほど伝わってくる。

 座り込み、俺はじっと怒りをなんとか抑えながら考え込んだ。


 月雪が出て行く前に行った、一言。



「……勝ってね」



 俺の頭を支配するのは、その言葉と土城への憎悪だけだった。

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