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第十九話 俺が知らない世界で動いた事実

「おは……大丈夫かの?」


 教室に入ってきた俺をすぐさま出迎えたイケメンの一言目は挨拶をキャンセルしてまでの安否確認だった。


 そらそうだ。俺の顔は絆創膏だらけだからな。見えないが腹部や腕は包帯だらけだぜ。


 あの後、当然の如く戦闘終了後にボッコボコにされた。光妙寺さんと月雪の二人にね。


 逆に放置してるんじゃないか、と心配しちゃうくらい心が広い晴太は、笑って見過ごしてくれたが……本当にキミ達交際してるんだよね?

 二人分のダメージは痛いなんてもんじゃなかったな。バトル宣言してないのに、雷やら炎やら撃ってくるんだもん。爺ちゃんどころか、婆ちゃんまでも川の向こうで手招きしてたよ。まさか、早退までするハメになるとは思わなかったぜ。保健室に先生まで、それはキミが悪いね、とにこやかに言ってくるくらいだし。ほんと、色々な常識がめちゃくちゃだなココは。


「月雪の力があったとはいえ、お前さんもすっかり一桁か……。まさに爆進じゃの」


 実感わかないけど、生徒手帳を開いてみれば、そこには確かに学籍番号『7番』の文字があった。


 アクシデント等色々あったけど、まさかの今期で一桁だ。この調子を維持すれば、もう向かうところは敵なしだな。校長先生も決断を誤ったもんだ。何が中退者の称号だよ。すっかり優等生の別名に変わっちゃったじゃないか。


「おはよー」


 爽やかな笑顔で月雪が教室に入ってきた。はは、どうやらアイツも一桁復帰が相当嬉しいように見受けられる。ほら、とっても良い笑顔で俺の方に歩いてきて――


「お、は、よ、う」

「おはようございます、月雪さん」


 鼻の頭に炎をチリチリされた。でも笑顔だった。これはきっと嬉しいんじゃない、俺をいびるのが楽しいんだな。俺は体質がむしろ逆だから、いじられても痛いだけですよ。


「おはよー! ゆっち、景ちゃん、晴太くーん!」


 元気一杯に引き戸を開けて智佳が登場した。あの短い休み時間で行われた死闘をコイツは知らないが、当然のごとく噂では流れているようだった。


「一桁?」

「7番」

「おめっとさん!」

「おう、ありがとよ」


 短い会話で俺たちは意思を疎通しあう。それだけで通じるのが不思議だけど、面白いくらい伝わっている。

 それから智佳は前にしてくれたように、頭を撫でてきた。


「智佳、俺は猫じゃないぞ。長靴だって履いてない」

「じゃあ、なぁに? 狼にでも襲われた少年?」

「いや、悪い魔法使いだ」

「そっちサイドなのかい。根拠は?」

「毒があると知っていてもなお、それが美味と信じて、みんなの静止も聞かずリンゴを食べてしまった、悪い悪い魔法使いなんだよ……」

「そんなストーリーなら白雪姫も平和なお話だったろうねぇ……というか、思いっきり自爆してるね、魔法使いさん」


 和むような体験談を話していた、ちょうどその時。

 教室の引き戸が勢いよく開けられた。

 言わなくてもわかるだろう。月雪ばりに青筋を立てている光妙寺さんがやってきたのだ。


「天神!」

「ひゃい!?」

「今、僕の話してたでしょ!?」

「どんなデビルイヤー!?」

「本当に莉子は地獄耳じゃからの、下手に噂でも流してみろ。痛い目をみるぞ」

「何しにきたのよ、莉子」

「当然、昨日の謝罪要求」


 なんという悪鬼。俺は昨日、意識を失うまでにあれだけ謝ったのにまださせるか。


「あんなもんじゃ足りないに決まってるよ! 晴ちゃん以外に誰にも触られたことなかったのに!」

「……へぇ、晴太には触らせてるんだ」

「あっ!? やっ、そ、そういうことを言いにきたんじゃなくて!」

「おい晴太、お前か。お前があのゴールデンデリシャス農家の主人だったんだな! よくぞ見事にあれだけのリンゴを育て上げたな! 無農薬だろ!? すげぇよお前!」

「……」

「おっと、どうしたんだ月雪。なぜ席を立った? 待て待て、前も言ったろう。机の角で殴られたら人はどうなへぷっ!」


 いてぇええええ! 容赦なく机の横についているフックの部分で俺の鼻っ面をアッパーしてきやがったぞこいつ! トリッキーすぎる!


「甘いよ由莉奈。やるならこれくらいやらなきゃ」


 俺の頬を掠めた何かが光速で床に突き刺さった。ほほう、カッターナイフとな。それが脳天に刺されば生きている自信は俺にはないね!


「あら、不思議なこともあるのね。あんたと意見が合うなんて」

「いや、それ以上はホントに死……」

「私は耳ね」

「僕は鼻」

「じゃああたしは目!」

「何ちゃっかり参加してんの智佳! つーか見てないで助けてくれよ晴太!」


 倒れて鼻血を垂らしつつ涙目な俺の元へ、屈みながら晴太は優しく肩に手をかけて、女の子なら一発で昇天しそうな甘いボイスで言った。


「友達っちゅうのは、都合のよいときだけじゃろ?」



 神は死んだ。




              ~~~~~~~




 次の日の放課後。夕焼け色に染まる校舎の一番下の階。全生徒が登校時、下校時に必ず使用する昇降口の靴箱の前で、月雪由莉奈は少しためらっていた。


 昨日、パートナーのお調子者ぶりに怒った彼女は、ライバルと便乗した親友と共に、成敗を行った。


 その時、最後の最後で景は、


「何でもするからもう許して!」


と懇願したので由莉奈は、少し悩んでから一つ命令をした。


 内容は、明日、自分の分まで弁当を作って来いというものだ。

 智佳から、彼の料理の腕の良さは聞いていたので、実際どんなものかを知りたくてそういった命令を下したのだった。


 評判どおり、非常に美味でバランスのとれた昼食だったが、恥ずかしがり屋な由莉奈はそれを言葉ではなく、自分の意志とは異なる暴力で伝えるしか出来なかった。


 それはいつもやっているいつも通りの日常だったのだが……その日、由莉奈は智佳にそのことについて注意された。


「景ちゃんは人が良いから表に出さないけど、いつもそうやって皆離れていっちゃったんだよ? ゆっちらしいといえば、ゆっちらしんだけど……もうちょっとケアしてあげたら? せっかくの大事なパートナーなんだからさ」


 もう少しお説教臭かったが、噛み砕いて言えばこんな内容だ。


 それくらいはわかっている。景が居てくれたから、由莉奈は学園に籍を置き続けられるし、短時間でまさかの学籍番号7番という完全復帰まで果たすことができたのだ。

 感謝しなければならないのはわかっていても、顔を合わせばいがみ合うような関係で、今更そんな素直に言うのは性格からして無理。


 というわけで、先ほどの謝罪として作らせた弁当箱を返す、という口実で彼女は手紙を用意していた。


 綴った言葉は、凄く遠まわしだし暴言に近い言葉ばかりだが、由莉奈なりに頑張ってなんとか感謝していることを文字にしたものだ。


(か、勘違いしたりしないよね……? 私はただ、そういう意味なんかじゃなくて、おかげで自分はここに居られるよ、ってことを伝えようとしてるだけだもの……。普通のお礼よ、普通の!)


 そんなことを何度もリフレインしているのだけれど、なかなか踏ん切りがつかない。

 人が居なくなるまでわざわざ待ったのに、辺りはすっかり人どころかカラスまで飛び出してしまう始末だ。


(あ~もう! このままじゃ帰ってテレビ見れないじゃないの! 天神のバカ!)


 恐ろしいとばっちりを受ける景。

 しかし、このままでは自分は変われないままだ、と決意した由莉奈はやっとの想いでその靴箱を開けた。


「あら……?」


 驚いたことに、そこには先客が居た。彼の履いている学園推奨の靴の上に、キチンと封がされた手紙が一通。


(ま、ままままさか!?)


 どこに惹かれたのかわからないが、彼に思いを寄せている人が居ることの証とも思えるその紙。女の子にしては不恰好だが、真っ白な封筒は几帳面さを連想させる。


(どうしよう……。上に置くのは失礼かしら? というか、天神の癖に生意気ね……)


 誰だか知らないが、あんな奴にラブレターを書くなんてどこのおバカさんなのだろう、と思って由莉奈は反則技を使ってしまった。

 封を開けることなく、中を見る方法。透視の魔法を使って、送り主の名前を読んでやろうと思ったのだ。


 夕日に照らして、中が透けるように……幸い不可視にする魔法はかかっていないようだ。


 よし、じゃあ魔法を発動!


 見えてきた見えてきた、えっと……明日の放課後に体育館で……。


「…………ウソ……!?」


 由莉奈は差出人名を見つけた瞬間に、透視魔法を解き封を開けた。


 今度は肉眼で確認する。


 間違いなく、自分が透かしてみた内容と同じものが書かれていた。


「…………」


 何度も読み直し、完全に内容を把握した由莉奈は手に小さな火を作り出して、そのまま手紙を燃やしてしまった。

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