第十八話 勝負の行方と蠢く影
…………はずが。
「……あれ?」
光妙寺さんは何度も何度も腕を振る。魔力は込めたはずだ。今頃は、月雪は串刺しになり、俺の胸元にはLOSEの文字が浮かび上がっているのではなかっただろうか。
それでも、光妙寺さんの出した凶器どもは言うことを聞かない。
まるで、誰かに止められてしまっているかのように……。
「まさか……」
「……私って本当にばかよね。なんでこれを最初から思いつかなかったのかしら」
空に浮かぶ月雪は静かに目を閉じて意識を集中させている。
「あ、あたいの武器を、あんたが操っとるっちゅうの……!?」
「そういうこと。操作タイプ特化って言うわりには大したこと無い力ね。二桁の私でも簡単に操り返せるじゃないの。ちゃんと軌道確定魔法使ってんの、あんた?」
「ほ、ほんなら!」
光妙寺さんは地上から攻撃に入ろうと腕を再び振り上げようとした。
「な、なんじゃこの気持ち悪い生き物は!?」
あぁ、もう。悲しそうな目をするな、我がプチデーモンよ。初見ではその感想が精一杯だって。
追撃などさせない。こっそりと召喚した小悪魔に腕をガッチリと極めさせていた。
「たまには役に立つのね、あんたも」
「うるさいな、さっさとやっちまえよ」
「はいはい……。じゃあいくわよ、莉子」
「うぅうう!」
じたばたしてなんとか拘束を振り払おうとするが、関節をこうまで極めてしまうと容易には動けまい。
戦闘を見ていてわかったが、光妙寺さんは腕を使わないと魔法を使うことのできないタイプらしい。月雪のように、ただ魔力を込めるだけで攻撃したりできるタイプとは、また異なるようだ。つまりは、これで彼女はもう無力化されたも同然ってわけだ。
「ホール・オブ・ライトニング!」
人の魔法丸パクリの技を、そのまま月雪が光妙寺さんへぶつけた。やっと動き始めた、雷の凶器たちが瞬時に対象者へ襲いかかる。
「きゃあああああああ!!」
直撃の寸前に俺はプチデーモンを消してやる。背中を向けて、俺の五感に届くのは聴覚だけにしてあげた。女の子のスプラッターなんか誰が得をするというのだ。
「お、おい景!」
こらこら、俺を振り向かせるなって。穴だらけの光妙寺さんなんて見たくないといっているだろう。穴に入れるのは俺の、
「月雪の様子がおかしいっちゅうとるんじゃ!」
「なんだと!? 何でそれを早く言わない! あやうく最低の下ネタを言うところだったじゃないか!」
長い突っ込みを入れつつ急いで振り返ると、久々に魔力を使用しまくって疲れ果てたのか、月雪がグラリとバランスを崩し、空中から落下を始めてしまった。
「プチデーモン!」
晴太に頼ろうとしたが、魔法が使えなかったことに気づき、俺は急いで小さな使い魔を呼び戻す。
せっかく帰ったのになんだよ、また……とでも言いたげな視線をしてくるプチデーモンを叱り、月雪をキャッチするように促す。
体は小さいけれど、力だけは大人顔負けのものを持っている。頭から落ちていたので、空中で体勢を戻してから、ゆっくりと屋上へと下ろしてあげた。
「……あー……疲れた」
どうやら意識はあるようだ。
そりゃそうか。自滅していたら、結局は相打ちでドローになっちゃうもんな。
「意識あるなら自分で降りてこいよな」
「あんたがキャッチしてくれると思ってたからね」
「えっ?」
「それより莉子は?」
なんだよ、ドキッとしたのにもう別のこと考えてんのか。あわよくばCG回収シーンだったかもしれないのに、この妄想殺し(フラグブレイカー)!
「あれ、そういえばまだ勝敗の結果出てないな……」
胸元の生徒手帳は相変わらずFIGHTの文字を発光している。
「はぁ……はぁ……」
ふと目を上げると、そこには屋上のフェンスをついたて代わりにして立っている光妙寺さんが居た。
体はあちこち傷を負っているので、表情からしても虫の息というのは明らかだった。ただ、寝そべっていないのでTKOへのカウントダウンが為されないだけのようだ。
お約束で大事な部分以外破けていない……なんてことはなく。太もも付近の布が破けて、白い聖なる布が見えるし、胸元は破けたサラシの一片がはみ出て、ひらひらと揺れている。
こっちがCG回収ポイントだったかと思う反面、やはり傷だらけの女の子ってのは、見てて気持ちのいいものではないな。ソフトSな俺でもちょっとノーサンキューだね。
「そういう元気はあるんだね」
「うるさい」
耳を捻られつつも、俺はそこまでエロすぎることを考えてないぞと弁明したかった。
「しかししぶといなぁ……どうする、月雪?」
「私はもう限界。あんたがトドメさしていいわ。というか、そうしないと結果的には勝ったことにならないはずよ」
そうか。いくら月雪が戦ってくれても、俺が最終的に手を下さないと処罰の上では無効になるんだな。今後気をつけよう。
「来るな……」
息を切らしながら壁にもたれる光妙寺さん。俺がプチデーモンを離したおかげで、一瞬だが防御する隙が生まれたのだろう。それでギリギリ致命傷で済んだってわけだな。
しかし、抵抗してこないってことは、もう魔力は切れたのだろうか? それとも腕をあげる力すらも残っていないのかな? どっちにしろ、俺でも簡単に倒せそうだ。
……さて、ここで問題が。
俺はどうやって光妙寺さんを倒せばいい?
転ばせてカウントか? 急所を突いて気絶か? プチデーモンにやってもらうか?
いやいや、よく考えな。俺は晴太を倒した時どうした?
胸の生徒手帳を貫いたよな。
もう一回言うぜ?
む ね の 生徒手帳を突いたんだ!
つまり、ここで俺が光妙寺さんのシナノゴールドごと、生徒手帳をぶっちめても問題はあるまい!
「何をもたついておるんじゃ、景。さっさと終わらせてやるのも慈悲じゃぞ」
「はやくしてよ」
後ろから声援が聞こえてくる。
そうだよ、早くしないと光妙寺さんが回復してしまうかもしれないじゃないか。さっさとやろう。迅速に、颯爽と、そしてたっぷりと!
「あんた……まさか……?」
おっと、光妙寺さんは気づいたか。ははは、もう遅いよ。
あとが怖いのは知っている。
友人のほぼ婚約者と言っても過言じゃない相手の、大事なところを触るんだからな。
そしてそちらに関しては、一切のおふざけを許さない月雪も見ているのだ。
常識的に考えたら、普通に気絶させればそれでいいと思うだろ?
だがな、男には常識を破ってでも手に入れなければならない桃源郷……いやリンゴ源郷があるのだ! そして、それは今この時ではないと決して見つけられない!
明日は捨てた!
俺は今を生きるぞぉおおおおおお!!!
……むにゅうっ。
――――我が人生に一片の食べ残しなし。
~~~~~~~
景たちが学び舎とする階の一つ上。
本来ならば、今年は受験を控える年でもある三年生の教室では、とある噂が広がりつつあった。
「なぁ、聞いたか?」
「何を?」
「転科してきた二年生のことだよ。珍しい召喚タイプの奴らしいんだけどさ、なんか恐ろしい早さで学籍番号あげてるらしいぜ」
「嘘だろ? 召喚タイプが? というか中間テスト後なのに元気な奴だな」
「今調べたけどよ、なんと学籍番号『7番』だってよ!」
「一桁じゃねぇか! どんな化物だよそいつ?」
「天神 景って名前だってさ。聞いた話じゃ、あの全能妃の月雪がいつも一緒に行動してるんだって。それで昨日、9番だった光妙寺を倒したんだとさ」
「二限後の休み時間がうるさかったのはそれが原因か……。しかし、月雪が? なら、それで異常なスピードで番号上げてるんじゃ?」
「いや、どうも春休み頃にミスして月雪は一度成績剥奪されたらしんだけど……そこで、この天神って野郎とつるむことになっちゃったらしい。そこからまた一桁復帰だってよ、恐ろしいよな」
「ということは、むしろそのミスのおかげで、月雪の実力が更にあがったと考えればいいってことか?」
「だろうな。二年生の一桁ならまだ何とかなるんじゃないかと思ったけど、こりゃ絶望だな。俺はお気楽にコツコツ点数溜めさせてもらうよ」
「だなぁ。平凡な俺らには関係ない話だな。触らぬ神に祟りなし、だな!」
揃って笑う仲睦まじい二人の男子生徒のすぐ傍の席。
無愛想な性格ゆえに誰も人が寄り付かなかった学年首席が、久しぶりに笑顔を見せた。
(天神……景……。あいつがか……!)
けして綺麗なものではない。久々に楽しませてくれそうな獲物を見つけた時の猟奇的な笑顔だった
~~~~~~~




