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第十七話 ホントの魔法使い同士の戦闘

「遅い!」


 扉を開けた先は修羅場でした。


 雷が舞い、炎が踊り、氷が弾け、風が荒れ狂う空間。フェンスやコンクリートは、そういうことも想定されて強化されているのか、全く無事なのがまた奇妙だ。思わず止血に使ってたティッシュが鼻から抜けて、どこかはるか彼方へ飛んでいってしまったよ。


 声がしたのは上の方だったので、見あげると空を翔る少女が二人いた。


「スパークチャクラム!」

「マジックバリア!」


 俺に投げたものと同じ、電撃の指輪チャクラムを乱舞のように放つ光妙寺さんだが、月雪は薄い透明な膜を体の周りに張って、それを全て無効化していた。屋上の床には、既にいくつもの指輪が散在している。


 ……というか、光妙寺さんはズボンだから良いけど、月雪はスカートなんだからそんな上に居たら見え……。


「見たら殺すわよ」

「はい見ません!」


 足元に炎を纏ったヘアピンが投げ込まれた。見たら三途の川への特急券を手に入れてしまいそうだ。


「さっさと番号入替決闘(オルターバトル)申し込んでくれる? どうも私がやってもダメみたいなの」

「そうなのか。……まぁ、そういう処罰だったし、そりゃそうか」

「由莉奈が負けてもキミが負けても、僕が勝ったことになるんでしょ? なら、さっさとしてくんない?」


 颯爽と生徒手帳を取り出して、光妙寺さんは READY? の文字を浮かび上がらせる。


 一応、俺が受けるんだからもうちょっと扱いよくてもいいのに、なんかまるで味噌っかすのような待遇で残念だよ。


 渋々俺も手帳を取り出して、浮かび出た文字を FIGHT へと変えてあげた。


「これで心置きなくできるね!」

「ええ!」


 入ってきた時点でもうここに居たら危ないと思っているのに、更にまだ上の段階があるというのか……?


「アイシクルソード!」


 月雪が両手を真横に突き出すと、無数の氷の刃が扇状に形成された。


「ヒート!」


 だが光妙寺さんはそれを確認すると同時に次の魔法を放っていた。

 手のひらから放たれたのは、赤い色をした風。

 熱風のようなものが、出現した氷を発射前に溶かしつくしてしまった。


「なら!」


 と、ポケットからヘアピンをいくつか取り出してそれを投げつける。俺に威嚇としてやったように火炎を纏ったものが一直線に発射された。


「……ふん」


 鼻で笑ったと思ったら、光妙寺さんは腰に巻いた太いベルトを一瞬で解き、蝿でも叩き落すかのようにしてヘアピンをなぎ払った。いくらベルトでもあの火力なら皮だって燃えるんじゃ……。


「弾いた時の音、聞こえんかったか? お前さんがやってもらったアレのように、金属変換しておるんじゃよ」


 はぁ……。なんか目で追うので精一杯だから、音までは気が回らなかったよ。


 しかし一桁になると、やっぱり専門ってわけではなく、強化タイプの魔法や防御タイプの魔法まで、多種多様のものを習得しているようだね。正直、あの次元まで行かれると自信を失うな。


「……やっぱり、ダメだぁ」

「?」


 急に攻撃の手をやめて光妙寺さんは重たくため息をつく。


「全盛期のキミと比べたら、月と犬のフンみたいな格差があるね」

「どういう例えよ……」

「当たり前っちゃ当たり前のことなんだけど、レパートリーが減りすぎ。多彩な魔法を使って、相手の弱点を的確につくのがキミの十八番(おはこ)だったよね? ひたすらに攻めてくる戦い方が好きだったのに、防戦一方じゃん」

「……」


 俺が知っている月雪さんの性格まんまな戦闘スタイルだけど、こんだけ派手にやってまだ全盛期に及ばないのか。一桁の実力はやっぱ伊達じゃなかったんだな。


「そんなキミ相手に勝っても、僕は嬉しくないよ」

「……」

「一桁と二桁の差は歴然。間違ったことは言ってないと思ってるけど? あっちの彼ともやっていいけど……てんで素人なんでしょ? 雑魚と戦っても面白くないからキミと戦ってあげてるのに、これはないよ」

「……今言った言葉全部! 訂正しなさいッ!」


 おや、珍しくマジで切れたな。普段(というか主に)俺へ怒る時とは違った、腹の底から怒ってる時のパターンだな、あれは。一切の手加減をなくした、本気の月雪になったようだ。


「いい感じだね。じゃ、こっちも!」


 高速で旋回を繰り返しながら、光妙寺さんは何かを呟いている。


 召喚魔法は必須なだけで、他にも詠唱がある魔法は存在する。ただ、同じように時間がかかるし、どれも強力なものばかりだから扱える人は少ないんだとか。


「グランドサンダー!」


 黄色の光線の魔法陣が発生し、詠唱魔法が発動される。さっきまで晴れ晴れとしていたのに、急に辺りが曇り空となり雷鳴が聞こえてきた。


 すると、その稲妻は月雪の周囲にのみ連続して落下を始める。雷の速さを回避するのは不可能と判断し、再び先ほども使用したマジックバリアで身を守った。


「あはは、それでしばらくは動けないでしょ? 僕の勝ちだね!」


 何を言っているんだあの子は。攻撃は全て無効化されているのだから、確かに移動はできずとも勝利宣言をするには早すぎる――


「!」


 ふいに光妙寺さんが首に巻いていたスカーフを外したかと思うと、こちらへ鞭を振るうかのような仕草をしてきた。

 かなり距離があるので、関係ないかと判断したのだが……なんとそれは驚くべき速さで伸展し、俺へ目がけて飛んできたのだ。


「うわっ!」


 驚きつつも初撃はなんとか回避するが、魔法使いを舐めていた。

 すぐさまスカーフの先は俺へと向き直り、回避して気が緩んだ全身に巻きついたのだ。


「うぐあっ……!」

「景!」


 女の子の力じゃない。機械にでもやられているような、抗いようの無い強烈な緊縛力。

 虚をつかれたので、首が完全に締まっている。胸の生徒手帳はとっさにおさえて即死は免れたものの、ピンチになってしまったことに変わりはない。


「こら莉子! 景は関係ないじゃろう!」

「あるよ。さっき言ったでしょ。由莉奈でも彼でも、どちらかを倒せば僕の勝利になるんだよ。だから、先に手っ取り早い方をやらせてもらう。由莉奈の方は、もう戦ってても面白くないしね」

「卑怯じゃろそれは!」

「うるさいな。(せい)ちゃんも番号入替決闘(オルターバトル)中はこんなもんでしょ? 勝つためには貪欲にも非情にもなるよ、僕だって」

「しかし……」


 校則では、番号入替決闘(オルターバトル)をしている当人達以外が干渉すると反則とみなされて罰が与えられてしまう。


 俺との勝負の後なので、晴太は番号入替決闘(オルターバトル)を申し込めないから、このスカーフを刀で斬ってもらうことさえも出来ないのだ。

 それに例え物質変換出来ても、果たして刀程度で切れるかわからない。ただの布のような感触ではないから、容易には外せないのだ。


 月雪の方はしばらく放っておいて良いと判断したのか、余裕をもって光妙寺さんは屋上へ降りてきた。


「そのまま意識失えば終わるよ。さっさと堕ちちゃいな」


 更に拘束する力が増す。もう声は出せないほど。気管が押しつぶされるような感覚がして呼吸がままならない。


 マズイ、これじゃ本当……に…………。


「!」


 諦めかけたその時に、スカーフの中腹ほどに炎のヘアピンが突き刺さった。連鎖するようにそこから燃え広がり、綺麗にスカーフだけを燃やして鎮火した。


「ぶはっ! あ~…………今、川の向こうで爺ちゃんが見えたよ」

「大丈夫かいの?」

「あぁ、一応ね……」


 何度か咳をして気管を確保。大丈夫、まだ生きてる。


「しつこいねえ、由莉奈」


 稲妻の嵐はいつの間にか終わっていたが、宙に浮く月雪の体には傷が負わされていた。

 肩に一発貰ったのだろう。制服が焼け焦げて、皮膚が黒ずんでしまっている。

 いくら本気の戦いとはいえ、女の子のそういう姿は見たくないものだ。


「二重詠唱はどうしたの? 得意だったよね」

「今やってやったじゃない。マジックバリアと、フレイムフェザー。一緒にやってみせたでしょ」

「……なんだ、護りの方が力不足だったから、僕の魔法を防ぎきれなかったんだ。ほんと、ダサくなったもんだね」

「うるさい!」

「まぁ防ごうが避けようが、もう結果は変わらないんだけどさ」

「!」


 月雪の周りを見てみる。


 落下をしたと思った稲妻は、途中で止まったり、地面にたどり着いて消えたと思いきや、反射して残っていたりしている。まるで光の球のように電磁力を保ったまんま、ふわふわと浮いていたのだ。


 光妙寺さんはグッと拳を握る。すると、雷球は全て形状を変えて剣やナイフ、チャクラムなどの凶器へと変貌を遂げていた。

 形状のみならず、物質変換などが行われたのか、今度は本当に鈍い色をした刃や棘がついている。電撃を帯びているので、かするだけでも大きなダメージが与えられることは必至だろう。


「月雪!」

「……あんたの得意技だったわね……。ホール・オブ・ライトニングだっけ?」

「よく覚えてたね。全方位からの光速利器連撃。防ぎきった人も、回避しきった人もまだ見たことないよ。あんたを含めてね」

「マズイ……! 景! リタイアするんじゃ! このまま月雪が大怪我してしまうぞ!」


 わかってるよ。戦闘が終われば傷が治るというが、逆に言えば戦闘が終わるまでは大怪我は大怪我と認知される。

 舐めてるわけじゃないけど、男としての本能がそんな姿を見たくないし、させたくもないと叫んでいる。



 でも…………なんだよ、あいつのあの目。



 ピンチだってのに、月雪は俺をじっと見ている。

 怒りなどない、ただひたすらに力の篭った強い瞳で。


 リタイアは絶対にするな、と呼びかけてきやがる。


「なに? 最後に彼氏へお別れの挨拶?」

「彼氏じゃない」

「でもさっき、あの子の悪口言ったらめちゃくちゃ怒ったじゃん」

「関係ない。私への悪口に怒っただけよ」

「そう? あの子が来てからやけに張り切ったようにも見えたんだけどなぁ……。わざわざ自分にダメージ受けてまで助けたりもするし……」

「黙りなさい!」

「……ふん、黙るのはそっちでしょ? さ、終わろうか」


 光妙寺さんが手を空へ掲げる。武器と化した雷たちが回転を始めたり、まるで刃を研ぐような仕草を始めた。


「ホール・オブ・ライトニング!」


 魔法名を言い放ち、光明寺さんは掲げた手を握りながら振り下ろす。


 込められた魔力を操作することで、その支配下となっている武器すべてが一斉に月雪の体へ襲い掛かった!

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