第十五話 出し切ったからこその結果なので
剣撃の音は不協和音のようなものからうって変わって、甲高い音を発し始めた。
更に、変わったのは音だけではなく技のパターンも。
鞘が出来たことで、風見は抜刀術までも織り交ぜてきた。柄の角度を見れば、斬る方向はある程度判別できるも、初速は洒落にならない速さに変貌を遂げている。
刀を振る音だって、棒の音から完全に空を切る高音になっているから、恐怖感は倍増だ。
「楽しいのう、天神!」
「それには同意だ!」
一撃当たれば大怪我というのはわかってる。怖さと焦りが心の内を支配してまっているのもわかっている。
それでも、本能の部分が今、この戦いが楽しいと感じてしまっていた。
きっと誰かに話してもわからないだろう。これは俺と風見にしか理解できないような奇妙な感覚だ。
「雷、雲、剣!」
叫びながら風見が連続で振り下ろしを放ってくる。
「おいおい、技名叫んで斬りかかってくるバカがどこにいるんだよ」
「オラがおるじゃないか」
「技名言ったら何を撃ってくるかわかっちまうぜ?」
「言わんでもわかっとるんじゃろ? ならば、気持ちよく叫んでやらせてもらうわい! それにお前さんだって殴打する場所叫んどるじゃないか!」
「それもそっか! じゃあお互い様ってところだな!」
「そうじゃの!」
真剣と見た目は竹の金属棒で斬りあいをしながらも、俺たちは笑っている。
一歩間違えば大惨事なのに、楽しくて仕方ない。
――それでも終わりはやってきてしまう。
精神は前へ前へ進もうとしているが、少しずつ体がそれとの時差を起こしてきていた。
「はぁ……はぁ……」
「ふぅ……ふぅ……」
対峙して俺たちは肩で息をし合う。思ったより動いてしまったのと、今の状況のせいで精神的な疲労感も倍だ。
雨はいつの間にか雷雨に変わり、叫ばないと何を言ってるかわからないくらいになってしまっていた。
「そろそろ……! ケリ、つけるか!」
「奇遇じゃな……! オラもそう考えとったんじゃ!」
だらりとした構えを解いて、俺たちは最後の一撃を大声で宣言しあう。
怖いもんだな。ここまで上手く作戦が行くと、何かありそうで……。
でも、大丈夫だ。やれることはやった。やりきった。
後は最後の最後の詰めを行うだけ。
悪いな、風見。
勝ちに行かせてもらう!
「……」
「……はぁ……はぁ」
風見はじっと黙って既に整った息をも殺して、抜刀術の構えを取る。刀を納めて、右足を前に出した前傾姿勢だ。
俺はまだ整っていない息をなんとかするべく、口を動かしている。
ついでに、最後の仕上げも実行に移した。
「……ふぅー……」
そしてすべての態勢が整ったと同時に、大きく息を吐き出し……!
「行くぞ!」
「あぁ!」
終わりへの一撃を与えに、踏み出した。
風見は右足が前というおかしな抜刀術を使ってきた。
普通なら、左構えになり右足を一歩踏み込んで、刀を鞘から出しつつ斬りつけるというのが抜刀術だが……。
こいつのは、二歩踏み込みを使い、体重を全部乗せて斬りつけるという独特ものだった。
だからこそ、すべての作戦が上手くいってくれたのだ。
「なっ!?」
途端、風見がバランスを崩した。刀を抜く前だったが、二歩目の踏み込みをしようとした矢先、まるで何かに引っ張られたかのようにガクンと腰を落としてしまう。
「なんじゃ!?」
俺はニヤリと笑みを浮かべた。
風見の足をすくった犯人。
それは…………俺の召喚していたプチデーモンだった。
「くそっ!」
「うおっと!」
バランスを崩しながらも風見は抜刀術を繰り出す。完全に腕の力だけだったが、速度は凄まじかった。
それでも、一歩。たったの一歩だが……俺には届かない。
「悪いな、風見!」
腕を完全に振り払ったので、当然胸元はがら空きになる。
そこへ俺は大きく一歩踏み込み、竹刀を生徒手帳の収まっている胸元へと突きたてた。
結界を解除するかのように、キィンという高い音が響き、生徒手帳の文字が崩れ落ちる。
すると、連動するかのように俺の手帳に『WIN』の文字が。一方、風見の砕けた生徒手帳は、弱弱しく『LOSE』の文字を映し出していた。
「……くっ……オラの負けじゃ……」
崩れた体勢のまま風見は悔しがる。生成した刀は手元を離れて、すっかり元の木刀に戻っていた。
「やったね、景ちゃん!」
「私の金属変換のおかげね」
勝利の余韻に浸る間もなく、武道場の入り口からすべてを見ていたであろう、月雪と智佳が入ってきた。雨はすっかり止んで、虹までも出している。
「お前さんら……。まさか、天神……!?」
「お、ばれちまったか?」
俺は竹刀を元の竹に戻してもらいながら、風見に解説をしてやることにした。以前同様に胸がズキズキするくらい疲労しているが、それでも倒れこむほどではない。
「あの雨は智佳の魔法だよ。流石に一帯に降らすようなものは時間かかるから、お前との勝負が先についてしまわないか心配だったけど……なんとかなってよかった」
「雨を降らせて、騒音を起こし召喚魔法の詠唱を気づかれないようにした、っちゅうわけじゃな……。良い作戦を考えたもんじゃの。肉弾戦しかできないと侮っておったわ」
召喚魔法は出すまでに時間がかかる。それをいかに隠し通してできるかが今回の戦いのポイントだった。うまく呼吸を整えるのと同時に出来てよかった。魔力が少し増えていたのでフィードバックの体力消耗もそこまで堪えなかったしな。
特に、俺は修練したおかげで、プチデーモンならばノーモーションによる召喚も出来るようになっていた。
これらの要因どれか一つでも欠けていたら、間違いなく勝利することはできなかっただろう。
「ふぅ……番号差があった上、完全なる干渉ではないから卑怯とは言いがたいの。あくまでお前さんの実力と言っても過言ではないわい」
「一人じゃお前なんかに勝てるわけないからな」
「褒めても何も出んぞ」
「でも作れたものはあるだろ、晴太」
俺は倒れた好敵手へと手を差し伸べる。
「そうじゃな、景」
手を取って、立ち上がる晴太の顔は微塵の悔しさもなかった




