第十四話 予想通りの刀剣使いに対する俺は
「――ってわけだ。今日の放課後、武道場でやろう」
「了解じゃ」
休日明けの朝、俺は登校してきたと同時に、女子と楽しげに会話をしていた風見に宣戦布告をした。
「カザくん、天神くんと番号入替決闘するの?」
「大丈夫なの天神~? 風見ちゃん、めちゃくちゃ強いよ? 三桁のあんたじゃ、無謀じゃない?」
まるで取り巻きのように風見とイチャコラしている女の子に悪態をつかれる。
くそう、お前らだって別に成績優秀ってわけでもないくせに生意気な!
「これこれ、そんな酷いこと言ったらいかんよ。天神も天神なりに考えて戦おうっちゅうんじゃ、オラはその決意を受け止めるまでじゃよ」
取り巻きはアレでも、やはり風見は武士道を心得ているな。
俺の戦おうとしているやり方は、そんなお前の志をけなす、言ってしまえば卑怯な戦法かもしれない。
でも、さっきお前が言ったように俺なりに考えた、今できる精一杯で挑むんだ。多少のズルは許してくれよ。
同じ時間に登校してきた月雪と智佳に目配せをする。月雪はコクリと小さく頷き、智佳は笑ってピースだ。二人にはもう作戦を伝えてあるから、後は俺が頑張るだけだな。久しぶりだったから、全盛期ほどじゃないけどやらないよりはマシのコンディションってところか。
早く放課後にならないかなぁ。
――――。
「遅かったのう」
「悪いな、ちょっと剣道部と柔道部に道場貸してくれ、って交渉してたんだ」
「大会が近くないとはいえ、練習熱心なヤツらがよく譲ってくれたもんじゃな」
「まぁな」
男が非常に多い部活には、極秘ルートで手に入れた月雪の写真をいくつか提供することで手を打った。
制服姿、体操服姿や、日ごとテンションごとで変える髪型チェンジバージョンなど、ファンには堪らないものだろう。そうでなくとも、素材はいいから勝手に釣れてくれるもんだ。
「ルールはわかっとるな?」
「あぁ。胸元の生徒手帳を出して決闘宣言をして、互いに許可で開始だろ?」
「うむ。戦闘不能になるか、ダウンして10カウント数えられた時点で勝負は決する。これもよいな?」
「更に、許可した生徒手帳は胸元へ収納されて急所ともなる。例えタフガイとはいえ、そこ一点に大きなダメージを受ければ自動的にKOされる」
「特殊ルールの問題もオッケーのようじゃの。なら、行くぞい!」
「番号入替決闘!」
俺は胸元の生徒手帳を取り出して、風見の方へ向ける。
すると、手帳が青く発光し『READY?』という文字が浮かび上がった。
「許可!」
「許可!」
同じように生徒手帳を取り出した風見が、俺と戦うことを承諾する。
READY? の文字が瞬時に『FIGHT!』へと変わった。
これで番号入替決闘の開始だ!
「そういえば、お前さん武器はどうしたんじゃ? オラは遠慮なくこいつを使わせてもらうぞ」
パチンと金具を外す音を立てて、腰に差した鍔のない木刀をぬらりと引き抜く。
樫の木製の、どこでも売っているような普通の木刀だ。現時点ではな。
「俺は、こいつでいかせてもらうぜ」
と、今まで背中に隠していた物を一気に引き抜く。
取り出したのは、中学時代に使っていた竹刀。
他にも色々やってたが、俺も実は剣士だったんだよ。
「剣道をやっておったのか。意外じゃが……その竹刀、普通のものより少し短くないかの?」
正眼に構えて長さを悟られまいとしたが、少しもったいぶったやり方をしちゃったかな。
普通の高校生が振う竹刀の長さは三尺八寸(114センチ)だが、俺の物はそれよりも短い。
持っているのは三尺四寸(103センチ)ほどで、実際の日本刀とほぼ同じものだ
「俺の通っていた道場の先生が居合の先生でもあってさ、真似っこ大好きな人間だったから実際の剣道でも同じものを使ってやりたくてな」
「おかしなヤツじゃの。普段の稽古でみる竹刀とは別物とはの……やりにくいわい」
ククク、と笑うがその台詞はそっくりそのまま返させてもらう。
他の流派や剣道少年が相手ならば、もっと対策の立てようもあった。けど、こいつの操る剣術は我流。何も参考にならないし、すべてが参考になるかもしれない。あまりにも未知数すぎるので、戦闘に関してのイメトレはほぼ出来なかった。
「装備はそれでよいのじゃな。では、いくぞ!」
剣道のとは違う、一切の理合いを無視したような大きな一足飛び。速度と振りかぶりの速さを見るに、回避は難しそうだ。スッと竹刀を真横に、水平に倒し、顔面に当たらぬよう高く掲げて真っ直ぐ振り下ろされた木刀を受ける。
竹と樫がぶつかるような鈍い音ではなく、まるで棒と金属がぶつかったような奇妙な音が響いた。
「……?」
予想していたものと違う音と感触で戸惑う風見の腹部へ、蹴りを入れて俺は距離を取る。
「なんじゃ、今のは?」
風見は強く踏ん張り、なんとかバランスを保ちきった。間合いを取ることに成功はしたものの、あのボディバランスの良さはちょっと問題だな。
「ぜやぁあああ!!!」
剣道特有の大きな叫び声を上げて俺は構える。相手に考える時間を与えてはいけない。タネが明かされれば、それなりの行動に出られてしまうだろうから。
「めええぇええん!」
叫ぶ必要はないのだけれど、ついつい叫びつつ攻撃をしてしまう。こうしないと反則になるっていうんだから、自然と身についちゃうのは仕方ないよね。
俺の渾身の面も、風見は反射神経をフルに使って受け止める。その際にも、また高低の判断がしづらい違和感のある音が響いた。
「胴!」
振りぬけたと同時に振り向いて俺は胴を入れる。しかし予想の範疇だったのか、風見は既に距離を取って俺の間合いの外へと出ていた。ルール無視の反則技だったんだが、やるな。
「……」
風見は考えている。手をモジモジさせているのを見ると、効果はあったようだが……まだ足りない。とにかく、今は時間を稼がないとダメだ。
「めえぇええん!」
再び叫びながら俺は猛攻を続ける。発声と攻撃がほぼ同時とはいえども、一々叩く場所を叫んでいるので比較的防御しやすいだろう。が、それでも素人よりは剣速に自信はある。さらに、仕込みのおかげで威力は倍増しているはずだ。
間合いを取っている風見は時折、柄から手を離しパタパタと振っている。こっちも辛いが、相手ほどではないようだ。柄を直に握る木刀と、作られた柄のある竹刀じゃ、伝わってくる震動は段違いだろう。
「……なるほど」
む。マズイ、ばれたか?
「その竹刀、先ほどから妙な感じがしとると思ったが……金属変換しておるな?」
ちっ、数回交えただけなのにもうわかったか。
俺の持ってきた竹刀だが、風見が推測したように実は竹刀の刃となる部分に、金属変換の魔法をかけてもらっていた。やったのは月雪だ。今の番号でも、これくらいの魔法ならお手の物らしい。
見た目は変わらないが、材質と重さはオリジナルと全く異なる。竹のしなやかさと軽さを無駄にする行為だが、その分威力はかなり高まるようになってくれた。
「だったらどうする?」
「別に何もせんよ。一撃貰えばダメージが大きいというのが、わかっただけじゃ。いままでどおり、攻撃を貰わなければそれでよい……!」
脇構えという、刃を腰の後ろへ持っていく間合いの掴みづらい構えから風見が飛んでくる。一杯に後ろへ跳躍するが、念のために竹刀を体の前へ動かしておいた。
「はっ!」
「うわっ!?」
そのまま風見はもう一歩踏み出し、切り上げから再び斜めに振り下ろす袈裟斬りをしてきた。
運よく構えていたおかげで食らわなかったが、余裕をこいていたら脳天に木刀を打ちつけられる所だ。
「ほう、土竜落としを防ぎおったか」
どうも、今の切り上げから切り下ろしの技は土竜落としというらしい。
有名な剣豪、佐々木小次郎の得意技である燕返しを逆回しにした技だから、そんなネーミングなのだろうか。
「どんどん行くぞい!」
「!」
デタラメに振り回しているだけかと思ったが、そうではないようだ。一応、自分なりに型を考えて木刀を振っている。我流とは言っているが、やはりそれなりに勉強しているんだな。
「はあっ!」
「次は逆袈裟!」
「!」
「そんで右薙ぎだな!」
予想通り、自分の右斜めから木刀が振り下ろされた。それを弾きながら、次の横一線に振るう右薙ぎを俺は回避する。
「蛾鱗粉を……読んだのか、今?」
今のはそんな名前の技なのか。結構お気に入りなのか知らないが、既にそれは三回目だ。いい加減覚えるってもんだ。
「お前さん……中々やるのう」
「ったりまえだろ、こっちは必死でやってるんだからよ」
見極める余裕はあっても、完全に受けきったり、寸前で回避する余裕まではない。
すり足も久々にやるので上手くできないし、樫の木だってのに、一撃一撃が重いもんだから俺の手も徐々に痺れてきた。
「……すまんの、天神。以前お前さんに言った言葉、オラ自身がどうも理解してなかったみたいじゃ」
「……!」
「無意識じゃが、少しばかりお前さんを見下しておったようじゃ。すまん」
構えを解いて木刀を腰に当てた風見は大きく腰を曲げて謝る。
そして再び上げた顔は、友人に向けるものではなく……一切の感情を消し去ったようなあまりにも冷たい表情をしていた。
「メタモルフォーゼ……風一文字!」
突き出した木刀へ、魔力を集中させている。風が集まってように、刀に纏う魔力は木刀の形状をどんどん変化させていった。
反りが大きくなり、色が銀色へと塗られていき、柄もいつのまにか緑色の柄布が巻かれていた。鍔のない珍しい形なのか、それ以上の変化は見られなかった。まるで木刀そのままのようなシルエット。
もう片手にいつの間にか生成していた黒い鞘で、その完成した日本刀を納めていた。
「それがお前の本気ってことか?」
「そうじゃ。番号入替決闘とはいえ、最中は本当に斬れるからの。もしもお前さんをやってしまった場合……すぐに戦闘終了宣言をしてやるから安心せい」
慈悲深いな。そして、お前も違わず、やっぱ頭悪いんだな。
「誰が負けるって?」
「……なんじゃと?」
「そういう発言は、俺を舐めてるってことになるだろ。自分で言ったじゃないか。失礼千万だぜ、まったく」
「む……」
「ま、本気を出してくれたのは純粋に嬉しいよ」
俺が再び竹刀を構えると、風見もすぐに鞘をホルダーにセットしてから刀を抜いて構えた。
先ほどまでの木刀と、全くもって威圧感や存在感が異なる。吸い込まれそうになる美しい刀身は、戦闘中でなければずっと見ておきたいくらだ。
「第二回戦だな」
「うむ!」
再び剣を交えた瞬間、まるで狙ったかのように雨が降ってきた。外に居ないから残念だけど、雨の中での決闘ってのはかっこいいよな。
『いいシチュエーションを作った』と思うよ




